HEART WARS (A New Psychicer)

 

 Xウィングと呼ばれる戦闘機に乗って、戦艦ミレニアムを目指す私たちに本部からでしょうか、
通信が入ってきました。
『ミレニアム接近中・・・後15分で射程距離内に入ります』
あまり時間が無いようです。習ったばかりの操縦で速度を上げると、前方にあの戦艦が見えました。
「大きいわね」
僚機のパイロットが呟きました。するとすかさず、
「岡田ぁ、私語はやめたほうがいいよぉ」
となだめる声が。
「なによ! 吉井、いいじゃない別に」
もめているようです。味方がこんなことで大丈夫なのでしょうか。
しばらくして、戦闘翼を開け、という命令が聞こえました。
指示どおり、機体の戦闘翼を開き、戦闘態勢を整えました。敵戦艦は目前です。
「各機報告!」
「レッド10 スタンバイ!」
「レッド7 スタンバイ!」
「レッド3 スタンバイ!」
「レッド6 スタンバイ!」
「レッド9 スタンバイ!」
「レッド2 スタンバイ!」
「レッド11 スタンバイ!」
「レッド5 スタンバイ」
レッド5は私の機です。
全機の報告が終わった頃には敵戦艦は、目視で確認できるほどの距離にありました。
敵艦があまりに巨大すぎて、攻撃目標の砲台が見当たりません。
「これより作戦を開始する」
リーダーの声で作戦が始まりました。たしかリーダーは、矢島という名前の方だったでしょうか。
背が高くて、スポーツが得意そうでした。今は何の関係もありませんが・・・。
横を見るとXウィングの他に、アルファベットの「Y」の形をした戦闘機も飛んでいました。
他にもあったんですね・・・。
敵艦のすぐそばまで来ると、突然激しい弾幕が張られました。甲板に設置された無数の砲塔から、
際限なく緑色のブラスター砲が発射されています。こちらにレーザーがあれば、あの弾を全てイチゴに
変えることが出来たでしょうが、あいにくレーザーは搭載されていません。タメ撃ちも無しです。
私たちは巧みにその攻撃をかいくぐり、砲塔に攻撃をしかけました。まともな訓練を受けていない私に
とっては信じられないことですが、自機の攻撃は見事に命中しています。
「右側の攻撃が激しい!!」
突然の通信に私も右側を見ると、確かに艦の左側に比べて砲塔の数が多く、味方も苦戦しています。
それでも他の人たちは熟練しているからか、次々と敵の攻撃力を破壊していきました。

 戦いの様子を見続ける葵に、赤タイツ兵が言った。
「敵はおよそ30!こちらの攻撃が当たりません!」
「こっちも戦闘機で応戦して」
「了解!」
慌てふためく兵に比べ、葵は常に冷静に構えている。敵の攻撃を受け、時おり艦が揺れたりもするが、
葵はそんなことにも動じず、ひたすら空中戦を見守り続けていた。

 どんなに敵の攻撃が激しくても、小型で高速の戦闘機だから負ける心配はない。そう思っていました。
危なくなったら離れれば大丈夫だと・・・。ところが、
「新たな影を確認・・・敵の戦闘機だ」
という本部からの通信に私は驚きました。始めから敵はあの巨大な戦艦だけだと安心しきっていました。
「え、どこですか・・・?」
私が聞くより早く、
「よく見ろ!後ろだ!」
と矢島さんが教えてくれました。振り向くと、アルファベットの「H」の形をした黒い戦闘機が、
低い音を立てながらこちらに迫っていました。手前に2機、そのすぐ後ろに4機です。
後ろ側に付かれると、こちらには全く手出しが出来ません。そう思っていると、後ろから容赦なく
ブラスターが降り注いできました。かろうじて避けてはいますが、やられるのは時間の問題かも知れ
ません。あぁ、藤田さん・・・私もここまでのようです。最期にイルカと・・・。
・・・・・・あれ?生きてる・・・?
後ろを振り返っても、レーダーを見ても敵の反応はありませんでした。どうやら味方が助けてくれた
みたいです。
「レッド5! 何やってる!?」
本部からの通信です。気がつくと私は戦艦から離れたところにいました。気が動転して作戦を放棄して
しまうところでした。すぐに機体を復帰させ、今度は私が敵戦闘機を攻撃にかかりました。
敵との交戦中に味方も何機かやられたらしく、残っているのは私を含め7機だけです。
「私がやるわ、援護して」
3番機が作戦どおり、戦艦のレーザー砲にプロトン魚雷を発射するようです。私と矢島さんは3番機を
後ろから援護しました。艦体の溝を真っ直ぐに進むと、はるか前方にレーザー砲台が見えました。
「もう少しよ・・・」
レーザー砲が段々と近くなってきました。
「もう少しよ・・・」
「今だ!」
矢島さんが叫ぶと同時に、3番機が砲台を正面に見据え、プロトン魚雷を打ち込みました。
弾は砲台に吸い込まれるようにして直進しましたが、わずかのところで艦体に接触し爆発しました。
「ダメだ!表面で爆発した!」
悔しそうなリーダーの声が、機内に響きました。
 
 その様子を見ていた葵は、踵を返しドックへと向かった。
途中すれちがったタイツ兵の2人に、
「敵は二手に分かれたわ。ついて来て」
と呼びかけ、格納庫にある戦闘機に乗り込んだ。
これは見たこともない戦闘機である。いま空中戦を繰り広げている「H」型の戦闘機とは異なり、
両翼が流線型を描いている。これこそが葵の専用機だった。
もっともこれがタイ-アドバンスドという名称であることは、搭乗者である葵も知らなかった。
私たちの機が一度左右へ旋回すると、敵の何機かが正面から迫ってきました。
訓練したとおりにブラスターを発射すると、驚くほどきれいに敵機に命中します。
と、そこへ敵の新手が現れました。初めて見る型の機、それを護衛するかのように両側には「H」型の
戦闘機が隊形を崩さずにやってきます。
その3機、特に真ん中の機体に、多くの味方が犠牲になりました。
常に後方を捕られ、7機いた僚機もわずかに私を含めて3機だけになってしまいました。
これが最後のチャンスだ。砲台への溝を飛び続ける私は思いました。
これを逃せば私たちは・・・。
 「このままでは危険です。撤退命令を」
砲座席近くでふんぞり返っている志保に、緑タイツの兵が進言した。
「何言ってんのよ、勝利目前なのよ。ほら、見てみなさい」
志保が指さした方向には、シャングリラ砲が発射されるまでの残り時間が表示されていた。
あと2分もすれば、強力なレーザー砲が来栖川重工第3工場めがけて放たれる。
そうなれば、この空帝国に抵抗できる戦力はこの世には存在しなくなる。確実に近づいている帝国の勝利
の瞬間に、志保は心踊らさずにはいられなかった。
 砲台へと続く溝を急ぐ私たちに、なおも後方の3機は攻撃し続けてきました。
私の少し後ろを飛んでいた7番機がわずかに態勢を崩した瞬間、エンジン部分に集中攻撃をかけられ、
一瞬にして爆発してしまいました。
「こうなったら仕方がない。俺がやつらを引き付ける!君が打つんだ!」
矢島さんが私に叫びました。
「私がですか!?・・・そんな、私には出来ません!」
しかし矢島さんは私の声が聞こえていなかったのか、機体を反転させ作戦領域ぎりぎりを飛行しました。
3機はそんな矢島さんを無視し、砲台を目指す私だけを狙いました。
周りにはもう味方が1機もいません。私は自動照準機を構えると、砲台までの距離を調べました。
距離25000・・・距離24000・・・。カウンタが目まぐるしく動きます。
もう少し・・・もう少しだ・・・。
『フォースを使うんだ、琴音ちゃん』
「藤田さん?」
どこからか藤田さんの声が聞こえてきました。
『道具に頼るんじゃない。君のフォースを信じろ』
「は、はい!」
姿の見えない藤田さんの声に、私は自動照準機をはずしました。しかしこれでは砲台までの距離が分かり
ません。すると、
『レッド5! なぜ照準機をはずす!?』
本部からの通信が入りましたが、私は答えませんでした。
照準機をはずすと、不思議と感覚が冴えてきた気がしました。何かは分かりませんが、確かな手ごたえを
感じるのです。
 とはいっても、敵の攻撃が止むわけではありません。敵は3機。数の上でも位置的にも私にとっては
不利でした。私は自分のフォースのみを信じて前進しました。
 「フォースが強い・・・」
目の前のXウィングを追う葵が呟いた。
さっきまで感じなかった強いフォースが、突然こちらに向けて注がれたのである。
葵はその力に驚いたが、すぐに思い直した。
「この感覚・・・どこかで・・・」
かつて自分の友達にもこんな力を発している者がいた。いつだっただろうか・・・。
必死に思い出そうとする葵を、突然衝撃が襲った。
「なに!?」
見ると、自分を護衛していたうちの1機がいつのまにかいなくなっている。
 「雅史さん!」
後ろを振り返ると、帰ったと思っていた雅史さんが援軍に駆けつけてくれました。
私を執拗に追いかけてきた戦闘機をその後方から雅史さんが射撃してくれます。
その攻撃に左側の機が被弾し、慌てた右側の機が流線型戦闘機との衝突でバランスを崩し、艦体に激突
しました。
中央の機は弾き出されるように回転しながら戦線を離脱しました。
「早く終わらせて帰ろうよ」
雅史さんが嬉しそうに言います。シャングリラ砲は既に目視で確認できるほどの距離です。
私はフォースの意思でプロトン魚雷を放ちました。2つの魚雷は吸い込まれるようにして砲塔内部へと
突き進みます。
「成功ですっ!!」
誰にともなく私は叫び、ミレニアムから離脱しました。
戦艦から離れる途中、凄まじい爆音が轟きました。まるで花火のように何色もの光を発散させ、放射線状
に戦艦ミレニアムは爆発しました。

 来栖川重工第3工場に帰還した私たちに、芹香さんをはじめ多くの仲間が駆けつけてきてくれました。
「・・・・・・」
「えっ?よくやってくれましたって?そんな・・・」
芹香さんの声は相変わらず小さく、耳をすまさないと聞こえないほどでした。
ふと隣りを見ると、いつの間にか私の横に雅史さんが立っていました。
「雅史さん、来てくれると思ってました!」
無意識に私は雅史さんに飛びついていました。雅史さんははにかんだように、
「手柄よりお金をもらうよ」
と芹香さんに言いました。
「・・・・・・」
「またそんなこと言って、本当は優しい方なのにって?」
どうやら雅史さんには芹香さんの声が聞こえないようです。私が代わりに雅史さんに伝えると、雅史さん
は顔を赤らめてさっさと向こうへ行ってしまいました。
「姫川さぁん、無事で何よりです〜」
雅史さんと入れ替わりに、マルチさんとセリオさんがやって来ました。
「お怪我はありませんか?」
感情をめいいっぱい表に出すマルチさんとは対照的に、常に一定の口調で話すセリオさん。
と、そこへ、
「・・・・・・」
「セレモニー?何かあるんですか?」
私の問いに、芹香さんはコクンと頷きました。周りを見ると、隊員が大きなホールへと向かっているのが
目につきました。
「・・・・・・」
「さあ行きましょうって?どこへですか?」
私は黙ってホールへと向かう芹香さんについていきました。
 「ここでしばらく待っていて下さい・・・?わかりました」
ホールの外に私と雅史さんは取り残される形で待ちました。
「雅史さん、見直しました」
芹香さんの後ろ姿をぼ〜っと眺める雅史さんに私は言いました。
「僕は帰ろうと思ったんだけどね。クマがどうしても引き返せって」
「でもそれで引き返してくれたんですよね」
私がそう言うと、またまた雅史さんの顔が赤くなりました。そしてごまかすように、
「ほら、向こうで芹香さんが呼んでるよ」
と言いながら、手招きしている芹香さんの方へと逃げるように走っていきました。
ホールには花道が作られており、左右は来栖川の兵士たちでいっぱいでした。
私たちが姿を現すと、その兵士たちは一斉にこちらを向き、続いてホール奥に向き直りました。
奥にはお嬢様らしい煌びやかなドレスを着た芹香さんが立っていました。
雅史さんを先頭に、私とマルチさんとセリオさんはゆっくりとその花道を進み、壇上の芹香さんの前に
整列しました。
芹香さんは横にいた男の人からメダルを受け取り、私たちの首にかけてくれました。
そして大勢の方を振り向いた瞬間、ホールは拍手の波に包まれました。
藤田さん、見てください。私は、私はここまで頑張れました!
私は胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じました。





   後書き

 ようやく「新たなる希望」もとい、「新たなる超能力者」の完成です。
既存のストーリーを元にしているので、すんなり書けるかと思いきや、キャラクタの性別が全く違うので
どう書き分けたらいいのか、四苦八苦しました。
この分ではエピソードXも大変不安です・・・。


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