HEART WARS (KARA Empire Strikes Back)


 「マルチさんもいるみたいですよ」
同乗するセリオさんの問いに私は答えました。
やはり同じドロイドとして、マルチさんのことが心配なのでしょう。
地上にあるから“グラウンドシティ”。安直な名前だと思いましたが、私は芹香さんや雅史さんがいる
その街へXウィングを飛ばしました。

 暗く妖しげな雰囲気ただよう密室に、雅史はいた。
嫌な予感がしたが、周りを兵隊に囲まれているため、迂闊に動くことができない。
突然、雅史の体に白い霧のようなものが吹き付けられた。
視界を奪われ、顔を背ける。
直後、雅史は気を失って地に伏した。
「佐藤さんはこの賞金稼ぎに渡して」
雅史が倒れるのを待って、葵は静かに部下に言った。
「ちょっと待って下さい。そんな話は聞いてませんよ」
対照的に、垣本が驚いたように言う。
明らかに自分より年下の葵に、丁寧語で話さなければならないことに憤りを覚えた。
「逆らうつもりですか? 占領されないだけありがたく思うことですね」
その言葉の裏に空帝国の脅威を見せつけようとする意思が感じられた。
垣本もこれには言い返すことができない。
なんて冷徹な奴なんだ。垣本はかつての親友を売った自分を呪った。
垣本は気付いていない。
葵が、“佐藤”ではなく、“佐藤さん”と言ったことに。

 「佐藤さん、大丈夫ですか!?」
赤タイツの2人に連れてこられた雅史に、マルチが駆け寄った。
吠えはしなかったが、その場にいたクマも心配そうだ。
「・・・・・・」
無言の芹香は何を思っているのか、その顔から窺い知ることはできない。
「ヒドイ目に遭ったよ」
こんな時でも雅史は微笑を絶やさない。苦しそうだが、その笑顔のおかげでマルチや芹香はほんの少しだけ安堵
の表情を浮かべた。
その時、部屋のドが静かに開いた。
「垣本さんです!」
ついさっきまで信頼していた垣本を、マルチが睨みつけながら叫んだ。
「悪いが・・・雅史、お前は賞金稼ぎに渡す・・・」
「ずいぶん楽しいことをしてくれたね」
あの雅史が怒っている。垣本は少しだけ怯えた。
「目的は姫川とかいう女なんだ」
「姫川さんですか!?」
ゆっくりと雅史が近づく。
「話だけでも聞いて・・・」
言い終わる前に、雅史の右腕が伸びていた。
分かってはいたが、垣本はあえて避けようとはしなかった。
こんな軽い断罪で済むとは思っていない。
だから垣本は雅史と対峙した。
「オレだって必死なんだ・・・」
そう言うのが精一杯だった。

 巨大な装置を取り囲むようにして、帝国の兵士たちが集まった。
彼らはある人物のクローンだと言われているが、顔も微妙に違えば、背丈もバラバラだ。
どういうわけか性格も違う。
だが、隊列を整える時には、一糸乱れぬ完全な動きをする。
「準備は整いました!」
緑タイツが報告する。
人ひとり入れるほどのこの装置で、琴音を動けなくしてしまおうというのだ。
「輸入肉用だから保障はできませんよ」
吐き捨てるように垣本が呟く。
もちろん、葵は聞き逃さなかった。
「好恵さんの期待を裏切るわけには・・・。佐藤さんの体で試してみよう」
すぐに兵士のひとりが雅史を連れてきた。
慣れた手つきで、兵士たちが雅史の体を装置に固定する。
その様子を葵は黙って見ていた。
芹香が心配そうに見つめる。
「心配ないよ、芹香さん。僕は運がいいからね」
非常な兵士たちは、別れの時間すら2人に与えてくれなかった。
芹香と雅史を引き離すと、赤タイツがスイッチを入れた。
耳障りな駆動音とともに、再び白い霧が雅史を覆った。
「失敗したらどうするの? ワタシは大損だヨ」
黄金の甲冑を纏った金髪の賞金稼ぎ、レミィが葵に訊ねる。
弓道着のような装甲とつがえた弓が、彼女の実力を示している。。
彼女の父、ジョージはかつてジャンゴ・フェットと呼ばれ畏れられた腕利きの賞金稼ぎだった。
パートナーとして共に行動してきたあやめと契り、レミィを授かったジョージは、レミィが10歳の時
『長岡の館』での戦いに参加した。
戦況は最初は有利だったが、戦場を自由に飛び回るためのジェットパックの破損や、ライフルの弾切れが
災いし、ジェダイのひとり・木林に首を切り落とされてしまった。
その様子を遠く離れたところで見ていたレミィは誓った。
父のような賞金稼ぎになり、ジェダイに復讐することを。
おろおろと落ち着きなく動きまわるマルチ。
やがて音が止まり、霧の向こうから大きなプレートが姿を現した。
鉛色のプレートに、雅史の体が浮き上がっていた。
「カーボナイト固化です」
ここでマルチがそう言うべきなのだが、彼女はセリオではない。
何が起きたのかすら分からないマルチは、茫然とした。
赤タイツの兵が葵に耳打ちした。
「Xウィングが接近中です」
「着陸させて」
いよいよ来た。葵は覚悟した。
「この人たちは私の船に乗せて」
葵が言い終わる前に兵たちは、垣本たちを連れて歩き出した。
垣本が密かに味方へサインを出している事に、誰ひとり気付かなかった。

 Xウィングを降りた私は、セリオさんと共にクラウドシティに進入しました。
ブラスターを構えて、慎重に進みます。
無人とも思えるほど静かな施設を歩いていると、前に帝国軍の兵士が見えました。
何か金属の固まりのような物を運んでいます。
その後ろには長身で金髪の女性が歩いていました。
「セリオさんはここで待っていて下さい。ここからは私ひとりで行きます」
「しかし危険です」
「なら、なおさらセリオさんを連れて行くわけにはいきません」
それでもついて来ようとするセリオさんを私はとどめました。
 何かを感じる・・・。強い何かを・・・。
感覚だけを信じて私は歩きつづけました。周囲には誰もいません。
どこかに隠れているわけでもなさそうです。
ふと辺りを見渡すと、いつのまにかホールのようなところに出ていました。
明るいはずなのに暗い。そんないやな雰囲気です。
「フォースを学んだみたいだね」
聞き覚えのある、懐かしい声が聞こえました。

 数人の兵士に囲まれ、垣本たちは無人の施設を歩きつづけた。
もうここまでかと芹香は観念したが、直後、その考えを改めた。
自分達をブラスターを構えた数人の保安部隊が取り囲んだからである。
その銃口は正確に帝国軍兵士を捉えていた。
「よくやった。こいつらは東の監視施設にでも放り込んでおけ」
兵士から素早くブラスターを奪い取った柿本が、部下に伝えた。
そのほとんどはサッカー部の後輩である。
「何をするつもりですか!」
「ここから逃げるんだ」
「ふぐぉぉーー!」
「分かってる。雅史を助けてからさ」
「今さら信用しろって言うんですか!?」
今日のマルチは攻撃的だ。
「しかたがなかったんだよ。とにかく雅史を探すんだ」
各自にブラスターを手渡した垣本が駆け出した。

 葵と琴音が対峙した。唯一無二の親友が向かい合った。
「まだまだジェダイには遠いみたいだけど・・・」
これは葵ではない。琴音は直感した。葵がこんな冷やかな眼をしているはずがない。
自分が知っている葵はもっと魅力的だった。自分が知っている葵はもっと光り輝いていた。
「葵ちゃん、どうして・・・?」
問いかける琴音に、葵はただ黙っているだけだった。
琴音はブラスターを捨て、ライトセーバーを起動した。
藤田にもらった、あのライトセーバーだ。
緑色の光刃を葵に向ける。
葵もライトセーバーを握りしめた。青色の光刃だった。
「葵ちゃんッ!!」
叫びながら琴音が切りかかった。
上段から中段、そして下段への切り返し。
これまでの琴音からは想像もつかないほどの猛攻だった。彼女は短期間で驚くほど成長している。
だが、葵はまったく動じなかった。
両手持ちの琴音の激しい攻撃を右腕だけで捌いている。
琴音と葵では腕力に大きな差がある。
次第に琴音は追い詰めれていく。
「先輩に教わったの?」
ふと葵が問うた。あの頃の口調。それが琴音の決意を鈍らせた。
「どうして藤田さんまで・・・? エクストリームのことはどうでもよくなったの?」
「先輩は私の邪魔をしようとした。だから倒したのよ」
「邪魔・・・? 葵ちゃんは何をしようとしているの?」
「もちろん“支配”だよ。エクストリームなんて遊びをしていたら絶対にフォースには気付かなかった」
一瞬だけ、葵が悲しそうな表情を見せた。
「でも好恵さんが教えてくれた。空手にはもっと強い力があるって」
「・・・・・・」
「それがフォースだったの。好恵さんはそのフォースを使うジェダイなの」
「坂下さんが・・・」
「そのとき思ったの。“私は誰にもかなわないジェダイになる”って」
去を振り返ることで隙が生じたのか、不意の琴音の一撃が葵を捉えた。
身をひねることで回避したものの、数メートルの段差から葵が転落した。
慌てて琴音が追う。

 「あっちだ!」
後に続くマルチたちの反応を待たずに、垣本が走る。
あの賞金稼ぎの船が見えた。アイロンのような形状をしているスレーヴTだ。
クマが構えたが、時すでに遅く、船は飛び立っていってしまった。
「ああ、佐藤さんがぁ〜」
なげくマルチの肩をぽんぽんと叩く者がいた。
「はい・・・あれ、セリオさん?」
驚きの表情が喜びに変わる。
「セリオさん、無事だったんですね!」
「寺女のせリオか?」
垣本がもの珍しそうにセリオを見た。
「はい。と〜っても優秀なんですよ」
「・・・・・・」
「今はそれどころではありません。早く脱出しましょうとおっしゃっています」
会話に割り込んだ芹香の言葉を、セリオが翻訳する。
「しかたねえ。みんな、こっちだ!」
垣本を先頭に反乱軍が駆け出す。
 見えた。修理を終えたミレニアムファルコンだ。
近くに数人のタイツ兵がいたが、垣本たちの勢いは止まらない。
あの芹香でさえ、ブラスターを乱射している。
赤い光が垣本たちと兵士たちの間を飛び交う。倒れていくのはタイツ兵だけだ。
「乗れ! 早く!」
セリオと垣本を残して、芹香たちが乗船する。
おおかたの兵士たちを片付けたところで、2人も乗り込んだ。

 葵ちゃんを追って、私は長い長い階段を駆け上りました。
この施設は意外に複雑な構造で、下に下りるためには逆に階段を上らないといけません。
突然、視界を光が覆いました。
眼を細めて見ると、青空が広がっていました。どうやら屋上に出てしまったようです。
感じる・・・。葵ちゃんの力だ・・・。
「・・・!」
気配を感じ振り向くと、青い刃を向けた葵ちゃんが立っていました。
私は勝負をつけようと、切りかかりました。
すると葵ちゃんは左手をかざしました。
「見て、琴音ちゃん。こんなこともできるようになったんだよ」
言うと同時に、近くに置いてあった木材が私めがけて飛んできました。
真っ直ぐに飛んでくる木材を余裕でなぎ払うと、次々に別の木材が飛んできます。
「私、琴音ちゃんが羨ましかったんだ。だってあんな能力があるんだもん」
ライトセーバーを振り下ろしながら、葵ちゃんが言いました。
私もそれに応戦します。
「クラブをやっててね、私、思ったの。どうしてこんなに必死になって練習してるのかなって」
「それは葵ちゃんが強くなるためでしょ?」
「うん。でも、琴音ちゃんに出会ってからはそれでいいのかなって思い始めたの」
「私に・・・?」
葵ちゃんの剣が少しだけ鈍ったのが分かりました。
「どうして私には才能がないのかなって」
「葵ちゃんには才能があるじゃない。努力することも才能のうちだって藤田さんも・・・」
「そういうのじゃないの。だって、琴音ちゃんにははじめから能力があったでしょ?」
「・・・・・・」
「琴音ちゃんには能力があるけど、それが使いこなせなかった。だから練習したんだよね。でも、私は
違う。私には力がなかった。努力すれば強くなれると思った! でも、琴音ちゃんみたいな能力は練習
しても努力しても、絶対に手に入らなかった!」
「葵ちゃん・・・」
「悔しかった。そんな能力があるのに、いらないって言う琴音ちゃんが分からなかった。欲しくても、
絶対に使えない人だっているのに・・・!」
知らなかった・・・。葵ちゃんがそんな風に考えてたなんて・・・。
瞬間、右腕に痛みが走りました。
放心していた私は、すぐ前に迫っていた葵ちゃんに気付かなかったのです。
弾かれた私のライトセーバーは、真っ直ぐに地面に落ちていきました。
「琴音ちゃんにはもともと能力があるんだもん。好恵さんに訓練してもらえば、もっと強くなるよ」
そう言う葵ちゃんはライトセーバーを私に突きつけました。
「もう勝ち目はないよ。私と一緒に行こう」
「いや! 葵ちゃん、へんだよ! そんなのおかしいよ!」
「どうして?」
「エクストリームはどうなっちゃうの? 綾香さんに追いつきたいって夢も・・・」
少しずつ後退していく私に、葵ちゃんは、
「フォースの方がずっと強いよ。綾香さんだって、好恵さんのフォースには勝てなかったんだもん」
すぐ後ろで飛行音が聞こえました。
「私と琴音ちゃんの力が合わされば無敵だよ。地球を支配することだってできるかも・・・」
「ダメ! そんなのだめだよ・・・」
飛行音がどんどん大きくなってきました。ファルコンの音です。間違いありません。
「ねえ、私と一緒に・・・」
私は屋上から飛び降りました。
思ったとおり、ファルコンはすぐ下に待機していました。
私が飛び乗ると、ハッチが開いて中からマルチさんが出てきました。
「姫川さん! 急いでください!」
言われるより早く、私は乗船していました。

 「じゃあ、オレはそろそろ行くぜ」
ファルコンに乗り込んだ垣本が言った。
「お気をつけて〜」
マルチが手を振る。
そのそばでは、琴音が新しくライトセーバーを作っていた。
大空には無数の戦闘機が列をなして飛んでいた。
その中に見慣れない戦闘機があった。
対地攻撃力は70と強力なものの、対空能力はわずか20と貧弱だ。
この機体はジャビィと名づけられた。
他にもハンターやブレナーといった機体も存在するようだが、まぁそれは別として。
「あの賞金稼ぎが見つかったら、すぐ連絡するよ」
そう言ってファルコンは飛び立っていった。
芹香は黙ってそれを見つめていた。
彼女は悲しんでいた。
雅史が捕まってしまったことと、ほとんどセリフがなかったことに。





   後書き

 今回はエピソード2の内容をほんの少しだけ混ぜています。ほんの少しだけね。
実際なら最後の場面で、琴音ちゃんの右腕を切り飛ばさなければならないのですが、それはあまりにも
痛そうなのでやめました。
でもジョージ(ジャンゴ)の首は刎ねる。その辺りに矛盾を感じる方はエライ。
 次回はいよいよ最終章。 「復讐」がテーマです。
イウォーク役は誰がやるのか?
背丈の低いキャラクタと言えば・・・?
それでは第二章はこれで終わりです。


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