Heart Wars (Return Of The Psychicer)


 予定していた合流地点・来栖川第4基地には、すでに雅史をはじめとする有志が終結していた。
雅史が垣本に声をかけた。
「将軍に出世したのかい?」
「ああ、お前が吹聴してくれたお陰でな」
「でも、まさか攻撃隊長になるなんて思わなかったよ」
「なんならお前がやるか?」
冗談めいた垣本の言葉に、雅史は冗談ではないという風に返した。
「僕にそんな大役は務まらないよ。君が適任さ」
と、いつものやりとりをしているところへ、神岸戦術顧問がやって来た。
彼女は1年ほど前に浩之と知り合った。
空帝国のやり方に反対していた2人はそのことで意気投合し、数々の戦いに助力した。
だが、浩之が死んでからはすっかり意気沈着してしまい、今では日の当たらぬ戦術顧問を担当している。
「敵は致命的なミスを犯しました」
神岸の言葉には、なぜか重みがある。
彼女の一声で、騒然としていた基地内が緊張に包まれた。
「元サッカー部のスパイが得た情報により、新しい戦艦ミレニアムの位置が判明――しかも、敵の攻撃
システムは未完成だそうです」
基地内を静寂が包む。
神岸戦術顧問はさらに続けた。
「敵の大部分も私たちの捜索に出ているため、防御は手薄です」
そこで神岸は口調を変えた。
稀に見る、真剣な彼女の眼差しだ。
「最も重要な点は、皇帝自らが戦艦ミレニアム内で指揮を執っているということです」
そこまで言うと、今度は雛山提督が現れた。
彼女は提督とは思えないほど才能には恵まれていない。にもかかわらず、提督という地位にまで漕ぎ着け
たのは、ひとえに彼女の経験の多さが一役買っていたに違いない。
雛山提督は、これまでに数々のバイト経験を積んできた。
貨物の運搬から営業、販売まで。その数、およそ25種。
このたゆまぬ精神力が称えられてか、彼女はこの春、ついに提督にのし上がったのである。
「えっと、敵の攻撃システムは未完成とはいえ、強力な防御システムを備えています?」
なぜか、近くにいる人に尋ねる雛山提督だった。
神岸戦術顧問がうなずく。
「戦艦ミレニアムは、学校裏の森の上空にあります。どうやら、そこにある神社からデス・スター・・・
じゃなくて、戦艦ミレニアムに向けてシールドが放射されているようです」
昔やったバイトの記憶が混ざってしまったらしい雛山は、慌てて修正した。
部屋の中央に出現したホログラムを指差しながら、雛山は続けた。
「これを破壊しないかぎり、戦艦ミレニアムへの攻撃はできません。そこで、まず神社にあるシールド
発生装置を破壊、その後、主戦力で戦艦ミレニアムを取り囲みます!」
雛山が目の前の机をドンと叩いた。が、驚く者は誰ひとりいない。
「隙をついて戦闘機隊が内部に侵入・・・メイン反応炉を爆破します」
ホログラムの戦艦ミレニアムが木っ端微塵になった。
「攻撃隊長は垣本さんです」
言いながら、雛山は密かに誰が垣本か探した。
名を挙げてしまった手前、今さら訊くこともできず、ドジな提督は悩んだ。
「死なない程度に頑張ってね」
垣本の隣りにいた雅史が声をかけたお陰で、提督はようやく誰が垣本なのかを知ることができた。
垣本を確認した後、雛山提督は辛島美音子将軍を呼んだ。
「今日の1発目! 帝国軍のシャトルを奪い取ることに成功しました。それに乗り込み、進入コードを
使って学校裏の森に潜入、シールド発生源である神社を破壊します――だって・・・ふーん・・・」
辛島美音子将軍は手元のボックスからハガキを手に取り、読み上げた。
「一体、誰がやるんだ?」
反乱軍の1人が問うた。
「佐藤将軍、潜入隊の準備は整いましたか?」
「それがね、乗組員がまだ決まってないんだ」
申し訳なさそうにはにかむ雅史。
その仕草を見せられ、辛島将軍も反応に困ってしまったようだ。
と、その時、
「ぐおおぉぉ〜〜!」
雅史の後ろでクマが吠えた。
「大変な仕事だよ?」
「ぐぅおおぉぉ〜!!」
両腕を高々と上げるクマ。
「じゃあ1人決まり」
雅史がまたもはにかむ。
実はこの時、クマは参加したいという意思を示したのではなかった。
存在すら忘れ去られようとしていたので、クマは慌てて自己を主張したのだ。
が、結果的に彼も参加することになってしまった。
そして、そんな境遇にいる人物がもう1人・・・。
「ん? どうしたの芹香さん」
さっきから雅史の袖をくいくいっと引っ張っているのは芹香だった。
「・・・・・・」
「参加したいって?」
こくん。
初めて、芹香の言いたいことが雅史に伝わった瞬間だった。
「分かったよ。じゃあ芹香さんも――」
そこまで言いかけた時、
「私も行きます」
そう言って現れたのは、琴音だった。
「姫川さん、遅かったじゃないか」
「・・・・・・」
「え? 心配しておりましたって? すみません」
琴音がペコリと頭を下げた。
その様子を離れたところから、マルチとセリオが見ていた。
「心配ですぅ・・・大丈夫でしょうかぁ・・・?」
「大丈夫ですよ。私が着いて行きますから。あ、マルチさんは・・・」
口をつぐむセリオ。ここから先は高度な感情抑制機能が働いて声には出せない。

 未完成の戦艦ミレニアム内で、葛藤する少女がいた。
フォースというものを見せられ、綾香を下し、皇帝の地位に君臨する好恵。
その好恵に今までついて来た葵。
だが、本当にこれで良かったのだろうか?
彼女の脳裏に不安がよぎる。
綾香は自分の最も尊敬する目標であったはずだった。
もちろん好恵のことも尊敬しているが、綾香の比ではない。
だがその目標が、目の前で好恵に敗れた。
試合でも一度も綾香に勝ったことのなかった好恵がである。
葵ははじめ、その力が欲しいと思った。
その一心で好恵に付き従い、彼女の指示を受けてきた。
しかし今、彼女は――松原葵は間違いなく悩んでいた。
かつてこのような悩みに直面した時、支えとなってくれる少女がいた。
だが、今や葵はその少女を・・・。

 帝国軍のシャトルには私と佐藤さんにクマ、そして芹香さんとマルチさんとセリオさんと、いつもの
メンバーが乗り込みました。
垣本さんは、ファルコン号で攻撃隊を指揮することになっています。
「どうしたんですか、佐藤さん?」
ファルコンを見つめる佐藤さんに私は尋ねました。
「いや、もう会えないような気がしてね・・・」
「ファルコンにですか? 垣本さんにですか?」
「・・・もちろん両方だよ」
「さあ参りましょう。あまり時間がありません」
ちょっとしんみりしたムードを苛立たしげに破ったのはセリオさんでした。
「じゃあ行くよ!」
佐藤さんの合図で、シャトルは離床し、全速力で森を目指しました。

 「お呼びですか、好恵さん?」
未完成の戦艦ミレニアムの、つい最近完成したばかりの広間に好恵がいた。
「学校裏の森、南35の地点に艦隊を移動させなさい」
久しぶりの登場に、いつもより1オクターブ上がった声で好恵が命令した。
「でも、反乱軍の勢力が北18地点に終結してますが・・・?」
「大丈夫よ。姫川琴音はまもなく私たちの手に落ちるわ。あなたは司令艦で待機しなさい」
「・・・分かりました」
ちっとも分かっていない風に葵が答えた。
女が気にしていたのは、命令の内容ではない。
なぜ好恵の空手着が新調されているのか・・・答えが出ずに葵はまたも悩みこんでしまった。

 学校裏の森の近くまで来た私たちの前に、帝国軍の船が待ち構えていました。
『そちらの船名は?』
「タイディリアムだ。シールドを解除してよ」
まったく臆することなく答える佐藤さん。たまにみせる頼もしい姿です。
『進行コードを送信しろ』
再び、敵艦からの通信が入りました。
「あれ? コードってどこに置いたっけ?」
後頭部に右手をあてながら、佐藤さんはあたりを探し始めました。
「どこって・・・なくしちゃったんですか!?」
マルチさんがオロオロし始めました。
表情からは読み取れませんが、きっと芹香さんも動揺しているのでしょう。
「うん、おかしいなぁ・・・広告の裏に書いたと思うんだけど・・・」
「広告? その広告とはこれのことですか?」
セリオさんが差し出した一枚の広告。不動産屋の広告でした・・・。
「そうそれ! 助かったよ」
「いえ、皆さまをお助けするのが私・・・私たちの役目ですから」
途中で言い直したのはなぜでしょうか。
『どうした? 早くしろ』
「今送るよ」
122333444455555666666・・・・・・。
なんて意味のない暗号なんでしょう。
まあ、もともと暗号にする数字に意味はないんでしょうけど・・・。
・・・・・・!?
この感じは・・・まさか・・・?
「葵ちゃんがいる・・・」
「姫川様、神経質になるのはおやめになった方がいいかと・・・」
強いフォースを感じた私に、セリオさんの声は聞こえませんでした。

 「これは松原卿。どういたしました?」
赤タイツの兵が敬礼する。
「あのシャトルの行き先は?」
妙にこわばった様子で葵が訊いた。
「行き先と積み荷は?」
赤タイツがタイディリアムに呼びかけた。
「学校裏の森に補給物資を――」
しばらくして、返事が返ってきた。
「進行コードは確認したの?」
「はい。古いコードですが、問題はありません」
「・・・・・・」
葵が考え込む。
「あの・・・止めますか?」
こんな葵を見たのは初めてだ。
赤タイツも反応に困ってしまった。
「ううん、通して。あの船は私に任せなさい」
「分かりました。通せ」
赤タイツは内心、ホッとした。

 間違いない。葵ちゃんだ・・・。
「私がいることに気付いたんだ・・・」
「考えすぎだよ」
「でも・・・」
「・・・・・・」
「え? 少し落ち着いた方がいいって?」
芹香さんにまで言われ、私は平静を取り戻しました。
『タイディリアムへ。シールドを解除する。そのまま進め』
どうやら、作戦は成功したようです。
でも、私は何か釈然としないものを感じていました。
 学校裏の森には、2、3人のタイツ兵が待機していました。
茂みに隠れてチャンスをうかがいます。
「これじゃ、近づけませんよ。回り道しませんか?」
私の提案に佐藤さんは首を振りました。
「時間がないよ。僕とクマで片付けてくる」
そう言って、佐藤さんはクマを連れて離れていきました。
大丈夫でしょうか?
よそを向いているタイツ兵の後ろから、佐藤さんが忍び寄ります。
あと1メートルという距離で、突然タイツ兵が振り向きました。
慌ててブラスターを発射する佐藤さん。
それを見ていた別のタイツ兵が、バイクに乗るのが見えました。
大変、もし報告されたら・・・!
「・・・・・・」
「追いかけます? って芹香さんっ!」
呼びかける前に、芹香さんはどこから持ってきたか、ホウキにまたがりました。
私も慌ててその後ろにまたがります。
すると、ホウキが浮かび上がりました。私がフォースを使ったわけではありません。
にもかかわらず、ホウキが空を飛んでいるのです。
「・・・・・・・・・」
「3WAYショットもホーミングもありませんが我慢してください?」
こくん。
「・・・あの・・・それってどういう・・・?」
ホウキはバイクに乗ったタイツ兵を追いかけます。
木が多いため、芹香さんは思った通りにホウキを動かせないようです。
「・・・・・・」
「えっ? 2人も乗っていたら重くて速さがでません。私が降りますから追いかけてくださいって?」
こくん。
そう言うやいなや、芹香さんは勢いよくホウキから飛び降りました。
後ろで鈍い音がしたような気がしましたが、私は前の敵を追うことに集中しました。
芹香さんが降りた事で重量が軽くなったのか、ホウキの速度は格段に上がりました。
さっきまで点だったタイツ兵が、どんどん大きくなってきます。
私はバイクの左後ろにピッタリくっつくと、右手でライトセーバーを起動させました。
そして、間をおかずバイクを切り払いました。
バイクは失速し、衝突。これではタイツ兵も無事ではありませんね。
私はみんなの元に戻る事にしました。

 琴音が聞いた鈍い音は、間違いなく芹香が着地した時の音だった。
だが頭部を打ちつけたわけではない。彼女は着地する瞬間、無意識のうちにボムを作動させていたのだ。
一時的に無敵状態となった芹香には、怪我もなく安堵の様子が見て取れる。
 突然、茂みの中から小さな影が飛び出してきた。
慌てて芹香が振り向くと、男の子が立っている。
「誰だっ!」
「・・・・・・」
「誰だって聞いてるんだ!」
「・・・・・・」
「ばかにしてるなぁ!」
さっきから芹香は名乗っているのだが、当然男の子に聞こえるはずがない。
意思疎通ができないとみた芹香は、ポケットからチョコレートを取り出した。
お腹が空いたら食べようと思っていた、1個2千円のアーモンドチョコだった。
芹香はそれをそっと男の子に差し出した。
「くれるのか?」
こくん。
「じゃあ、もらってやる!」
男の子は実に嬉しそうに包みを開け、中のチョコレートをかじった。
「お前、いい奴だな!」
満面の笑みで男の子が言った。
それを見ていた芹香は思った。
“何となく・・・雛山提督に似てる・・・”

 数分後、琴音が雅史たちの元に戻ってきた。
「あれ? 芹香さんは?」
雅史が訊く。
「え? 先に戻ったはずなんですが・・・」
「芹香お嬢様はまだ戻られておりませんが・・・」
「そんな・・・」
こういう時、セリオの無機質な言い方はさらに不安を煽る。
その時、
「ぐぉ、ぐぉ、ぐおお!」
何かを見つけたらしい、クマが吠え出した。
「どうしたんだい?」
雅史の問いかけにも答えず、クマは勝手に歩き出した。
その場にいた者たちもクマについて行く。
 それを見た雅史が言った。
「これがどうかしたの?」
「ぐおお!」
「うん、確かにこんなところにあるのは変だと思うけど・・・」
雅史はもう一度、それを見た。
木の根元に鮭が置いてあった。上にかかっている白いものは、恐らく塩だろう。
「どうして鮭がこんなところに・・・?」
琴音がつぶやいた途端、周囲で物音がした。
茂みから何人もの子供たちが現れたのだ。
年は小学生の高学年くらいだろうか。中には金髪の子も見える。
木の棒や石ころを手に持った子供たちが、雅史達を取り囲んだ。
「お前らもあいつらの仲間かっ!?」
「あいつらって?」
雅史が少年の目線に合わせて言った。
「ヘンな服着たやつらだよ!」
「佐藤さん。もしかしたら帝国軍の兵士のことを言ってるんじゃ・・・」
「みたいだね」
琴音と雅史が顔を見合わせる。
「ご心配なく。私たちはあなた方の味方ですよ」
セリオが恭しく言った。
「敵にまわすのは危険だと判断したので」
誰に訊かれるともなく、セリオが言った。
「賢明な判断だと思うよ」
雅史がうなずく。
「分かったよ。信用していいんだな!」
金髪の少年が念を押した。
「俺たちの秘密基地に案内してやるよ」
子供たちは金髪を先頭に歩き出した。
琴音たちもそれについて行く。
「ぐおお〜・・・」
最後尾を歩くクマは、さっき見た鮭が頭から離れないらしい。
 ほどなくして、彼らの秘密基地が見えてきた。
秘密のハズなのに、立てかけられた看板には、“こわよりさき、ひみつきち”と書いてある。
“れ”と“わ”を間違うあたりが、まだまだ幼い証拠だ。
複雑な森の地形を生かした秘密基地は、作りこそ脆かったものの、施設としての機能は十分に備えて
いるようだった。
木材で組み立てられた基地が、あちこちに点在している。大きなものでは、大木の枝の上にまで作られる
など、たしかに“基地”という言葉がしっくりくる。
そこへ、
「芹香さん!?」
芹香が現れた。
周りの子供たちと同じように木の棒を持っている。
「無事だったんですね」
こくん。
「なんだ、お前ら知り合いか?」
黒髪の少年が偉そうな態度で尋ねる。
「そうだ、まだ名前を教えてなかったな。俺は良太ってんだ」
「俺はミッキー」
黒髪と金髪が自己紹介した。
「僕は雅史。そっちにいるのは芹香さんだよ」
「姫川琴音です」
「マルチです」
「セリオと申します」
「ぐおおぉ!!」
「こいつのことは“クマ”でいいよ」
しばし、和やかな雰囲気があたりを包んだ。

 戦艦ミレニアム内。
「なぜ司令艦にいないの?」
戦艦ミレニアムに引き返してきた葵に、好恵は冷やかに言った。
「学校裏の森に、数人の反乱軍が――」
「知ってるわ」
葵の言葉を全部聞かず、好恵がさえぎる。
「姫川琴音もその中にいます」
「本当なの?」
「はい。フォースを感じました」
「私は何も感じなかったわ」
「でも、間違いありません」
葵の強い口調に、好恵は口を閉ざしてしまった。
時おり見せる彼女の本当の性格だ。
「分かったわ。あなたは学校裏の森で待ちなさい」
「向こうからやってくるってことですか?」
「そうよ。姫川琴音は必ずやってくるわ。そうしたら、私のところに連れてきなさい」
好恵の指示に、葵は想像もつかぬ言葉を返した。
「連れて来て・・・どうするんですか?」
「何ですって?」
「連れて来て・・・どうするんですか?」
葵はもう一度訊いた。
「決まってるわ。彼女を暗黒面に導くのよ」
「・・・分かりました」
頭を下げ、葵は広間を後にした。
「あの娘・・・まさか、今になって・・・」
好恵の顔に不安の色が見えはじめた。
切れ長の彼女の両眼がさらに険しくなる。

 子供たちと打ち解けた私たちは、これから行われる作戦について話し合っていました。
「この近くにある神社なんだ」
佐藤さんが地図を広げます。
「それなら秘密の抜け道を知ってるぜ、なあみんな?」
良太君が子供たちに呼びかけます。どうやら良太君とミッキー君がリーダーのようです。
「そうなんですかぁ。助かりますぅ」
マルチさんも本当に嬉しそう。
その時、私は何か強い念を感じました。
これは・・・葵ちゃん・・・?
ううん、違う。これは・・・。
「あの、私、ちょっと外を見てきますね」
そう言って席をはずそうとすると、
「・・・・・・」
「え? 心配ですから私もついて行きますって? 大丈夫ですよ」
「あ、それじゃあ私が・・・」
「マルチさんはやめた方がいいと思います」
セリオさんが止めてくれました。
「本当に私だけで大丈夫ですから」
「分かったよ。でも、何かあったら大声で助けを呼ぶんだよ」
「ありがとうございます、佐藤さん」
 さっきの念は何だったんだろう・・・?
たしか、こっちの方から感じたような気がしたけど。
・・・!!
私は慌ててライトセーバーを起動させました。
茂みから放たれた光弾を、何とか弾き返すことができました。
「誰ですかっ!?」
私が叫ぶと、森の奥から見覚えのある姿が現れました。
「あなたは・・・!」
公園での戦いで私を苦しめた、金色の甲冑を纏った賞金稼ぎでした。
甲冑のところどころに傷がついていましたが、その姿は戦ったときよりも邪悪に見えました。
「今度は逃がさないネ・・・」
そう言い、賞金稼ぎはブラスターを抜きました。
私もライトセーバーを構えます。
「生きてたんですね」
「当然ダヨ。ワタシはジャンゴフェットの娘、ボバ・フェットだからネ!」
ボバと名乗った賞金稼ぎが引き金に手をかけました。
「DIE! JEDI!」
慌てて身をかわしました。ボバがブラスターを放ったのです。
私はライトセーバーを盾に、ボバに挑みました。
ブラスターは的確に私を捉えますが、これまでの訓練の成果でしょうか、難なく捌くことができました。
「NOーーー!!」
接近に成功した私はライトセーバーを振りかぶり、力いっぱい振り下ろしました。
切っ先は見事に甲冑を両断し、その衝撃でボバは倒れました。
傷が深ければ死んでしまったかも知れません。
私は剣を引き、ボバを見下ろしました。ピクリとも動きません。
とりあえず、私はボバの遺体を目立たないよう茂みに隠しました。
そして、改めて気付きました。
フォースが・・・あの強い念がまったく消えていないことに・・・。
あの邪念がボバから発せられたものなら、すでに消えているはずです。
なのに強いフォースを感じる・・・。これはやっぱり・・・。

「やあ、早かったね」
「あ、姫川さん。おかえりです〜」
地図を見ながら、雅史とマルチが言った。
「作戦の内容が決まったんだ。姫川さんにも説明するよ」
雅史の言葉に、琴音は寂しそうな表情を見せた。
「どうかなさいましたか? 顔色がすぐれないようですが・・・」
セリオがプログラムされたとおりに心配した。
琴音がゆっくりと口を開く。
「葵ちゃんが・・・葵ちゃんがこの近くにいるんです。感じるんです! だから・・・」
「・・・・・・」
「私は葵ちゃんと対決します・・・」
「ええっ!?」
皆、信じられないという顔で琴音を見た。
特に心配そうなのは芹香だ。
「・・・・・・」
「ええ、分かってます。でも・・・これはもう決めた事ですから」
「危険すぎるよ。やめた方がいいんじゃないかな?」
「いいえ。それに私がここにいれば、皆さんこそ危険です。今の葵ちゃんは・・・どんな手を使って
くるか分かりません」
芹香も雅史も、なんとか琴音を引きとめようと試みたが、琴音の意志は固かった。
マルチがオロオロしながら琴音を覗き込む。
セリオは何も言わない。
クマは雅史のそばから離れようとしない。
「・・・やれやれ、姫川さんがそこまで融通の利かない人だとは思わなかったよ」
雅史がため息まじりに言った。さも迷惑そう、といった風に。
「行っておいでよ。僕たちもこれ以上は止めないよ。ただし――」
雅史の顔が険しくなる。
その表情に琴音もたじろいでしまった。
「必ず無事に帰ってくること。約束できるよね?」
「はい! 絶対に・・・」
そう言い残し、琴音はライトセーバーを手に秘密基地を後にした。

 白タイツの兵に囲まれて、私は引きずられるようにして歩いていました。
両手首には手錠をはめられ自由が効きません。
先頭を歩いていた兵が威圧感のある建物の扉を開くと、ここがどこであるかがハッキリしました。
ここは小型艇の発着場でした。戦艦ミレニアムへ直通のルートなのでしょう。
狭い廊下の向こう側に、葵ちゃんはいました。こちらへ近づいてきます。
「松原卿。投降者を捕らえました」
タイツの兵が姿勢よく言います。
「武器はこれだけです」
そう言って、タイツ兵は私のライトセーバーを葵ちゃんに手渡しました。
「よくやったわ」
「付近にも仲間がいるかと思われます。捜索の許可を」
「後は私に任せて、あなたたちは反乱軍の仲間を探し出しなさい」
「了解しました」
兵は再度姿勢を正してから、来た道を引き返していきました。
が、私には彼らを見送る余裕はありませんでした。
「好恵さんが待ってるよ」
葵ちゃんが冷やかに言いました。
「松原葵・・・」
「え・・・?」
「葵ちゃんは完全にダークサイドに堕ちてないよ」
「・・・どういうこと・・・?」
「いくら坂下さんでも、葵ちゃんの心までは完全に操れなかったんだよね」
「・・・・・・」
「だから私を殺さなかった・・・そうでしょ?」
葵ちゃんは何も言いませんでした。
私は葵ちゃんに背を向け、続けました。
「今度だって、坂下さんには渡さないでしょ?」
私は言葉を選びながら、葵ちゃんの反応をうかがいました。
葵ちゃんにまだ善の心が残っているなら、考え直してくれるはずでした。
突然、後ろで低いうなり音が響きました。
振り向くと葵ちゃんが私のライトセーバーを起動していました。
「新しいライトセーバーを作ったんだね」
光刃を見ながら、葵ちゃんが言いました。
沈黙が続きます。
光刃を収めて葵ちゃんが言いました。
「訓練は終わったってことなんだ」
「・・・葵ちゃん」
「好恵さんが思ったとおり、琴音ちゃんはすごく強くなってる」
その言葉には、いくつもの意味があるようでした。
口調が・・・少し変わった・・・?
「葵ちゃん・・・私と来て」
「先輩も私を引き戻そうとしたわ」
もしかして、後悔してるの?
自分の間違いに気付いたの?
「ダークサイドの力を知らないからそんなことが言えるんだよ」
「そんな力、葵ちゃんには必要ないよ!」
「琴音ちゃんも同じこと言うんだね。でも、私は好恵さんの所へ連れて行くわ」
「・・・もしダークサイドに入らなかったら・・・私を殺すの?」
私の問いかけに、葵ちゃんは目を伏せました。
そしてしばらく考えた後、
「・・・それが葵ちゃんの運命なら・・・」
「自分の心を見つめて! 私は殺せないよ」
動揺している風の葵ちゃんは、私はさらに言い寄りました。
「葵ちゃんは迷ってる。いつもみたいに迷ってるんだよ。今からでも遅くはないよ・・・だから・・・」
「・・・今さら遅すぎるよ・・・わたしは・・・好恵さんには逆らえないから・・・」
そう言って葵ちゃんが手を振ると、数人のタイツ兵が現れました。
赤いタイツが私の腕を取ります。
「好恵さんからダークサイドの力を学ぶといいよ。今から好恵さんが琴音ちゃんのマスターだから」
タイツが私の背を押しました。シャトルへと続く通路を進めと言っているようです。
もう・・・手遅れなのかな・・・。
「葵ちゃんは本当に死んだんだね」
私は葵ちゃんを睨みつけると、タイツ兵に促されるまま通路を進みました。
両手の自由は利かないし、武器もない。
こんな状況では下手に動くのは危険です。
でも、たとえ自由に体が動かせるようになったとしても、私は坂下さんに勝てるのでしょうか?
そして、葵ちゃんを救うことができるのでしょうか?





   後書き

 少しだけ、映画と違うシーンを書いてみました。ボバ(レミィ)の再登場です。
もともとボバやジャンゴは好きなのですが、ジャンゴはともかくとしてボバにはかっこいいシーンが
ありませんでした。
人気は高かったのに、アッサリ敗れてしまうのです。
そこでボバを復活させることにしました。
実際、映画でもカークーンの穴に落ちて以降ボバ・フェットは登場しませんが、実は生きています。
そういう理由もあってボバを再び出したのですが、結局はかっこいいシーンは書けずに終わりました。
 次でいよいよ完結。
結末は・・・もうお分かりですね。


   戻る