Heart Wars (Return Of The Psychicer)


 子供たちと力を合わせた雅史達は、敵の大群を前に躊躇した。
白タイツが群れを成して周囲を警備している。
「これでは私たちに勝ち目はありません。どうなさいますか?」
表情ひとつ変えずにセリオが問うた。
「さあね。セリオはどうしたらいいと思う?」
「・・・最善策を模索しておりますが・・・この状況を打破することは・・・」
やはり表情を崩さずのセリオだったが、マルチにだけはセリオが落胆しているのが分かった。
「心配するな。秘密の抜け道があるんだ」
そう言ったのは良太だった。
「そこを通れば、あいつらに見つからないでお前たちが言ってる社まで行けるぜ」
ミッキーがそれに続く。
「ついて来いよ」
言うが早いか、良太たちは狭い道を走っていく。
雅史達も急いでそれに続いた。
 慣れない道を突き進むと、遠くに社が見えてきた。
「俺にまかせろ」
良太が近くにあったバイクに乗り込んだ。
もちろん、こんな子供が運転などできるハズがない。
バイクは暴走したように社とは正反対に消えていった。
「おい、追いかけろ!」
社近くにいた4人のタイツ兵が、良太を追いかけた。
「ぐおおぉ」
「うん、今のうちに」
雅史たちは音を立てないように社に近づいた。
 雅史、クマ、芹香が社の右側に潜んだ。
マルチたちは、茂みに隠れて待機するよう雅史に命じられている。
「そうだ、芹香さんにも渡しておくよ」
そう言って雅史はホルスターからブラスターを取り出し、芹香に手渡した。
「・・・・・・」
何か言いながら、芹香が小さく頭を下げる。
 神社の正面には、わずかに1人の見張りがいるのみ。
雅史は開けたところに踊り出、すばやく引き金を引く。光弾は見事に命中し、タイツ兵はその場に
崩れ落ちた。
その勢いに乗じて、雅史たちは神社に侵入した。

 垣本をはじめとする主力部隊が学校上空に集結した。
「まさか、またファルコンに乗れるとは思わなかったぜ」
垣本の体内を、サッカーをしている時とはまた別の興奮が駆け巡った。
その後ろにはXウィングや、Yウィングが続く。
さらに新規に開発された、ジャビィやハンター、ブレナーなどが加わった。
「予定時刻まであと22分!」
小型機を中心とした混成部隊は、一定の速度を保って戦艦ミレニアムへ飛んだ。

 シャトルを降りて、私は広間の中央にいました。
戦艦ミレニアム内に間違いありません。
私は手錠を掛けられ、その上ライトセーバーも取り上げられてしまいました。
今それを持っているのは、私の隣りを歩いている葵ちゃんです。
広間にある階段を上がると、向こう側には柔道着を着た女性が立っていました。
「よく来たわね、姫川琴音・・・待っていたわよ」
そう言って女性は手を軽く振りました。すると私の自由を奪っていた手錠が粉々に砕け散りました。
坂下好恵・・・!
彼女が・・・。
坂下さんは私から目をそらすことなく、近づいてきました。
「あなたの訓練を完成させてあげるわ――その時、あなたは私のことを“マスター”と呼ぶのよ」
不敵な笑みを浮かべています。
「あなたは勘違いしてる・・・! 私は・・・私はダークサイドなんかに負けません!」
「ふふ・・・それはどうかしら? 勘違いしてるのはあなたの方よ」
私の毅然とした態度にも、坂下さんは全く動じませんでした。
その時、葵ちゃんがライトセーバーを坂下さんに手渡しました。
「ライトセーバーです」
「ふうん・・・ジェダイの武器ね。葵のによく似てるわ」
坂下さんはライトセーバーを眺めました。
「言っておくけど、葵を暗黒面から引き戻そうなんて馬鹿なことは考えないことね。一度その力に目覚め
れば、二度と戻ることはできないのよ」
まるで隙を見せない坂下さん。さすがに空手をやっていただけのことはあります。
「あなたも同じ運命なのよ」
「それは違います」
「どう違うっていうの?」
「私はあなたを道連れに死ぬ覚悟で来たんです」
私がそこまで言っても、坂下さんは全くひるむ様子も見せませんでした。
視線を横に移すと、葵ちゃんが私を見ていました。
「ふふ・・・反乱軍の総攻撃のことを言っているのね?」
小さく笑って、坂下さんは続けました。
「ここにいる限り、反乱軍は無力なのよ」
「あなたは自信過剰です!」
「あなたは仲間を信じすぎてるわ!」
冷静だった坂下さんが、取り乱したように叫びました。
仲間を信じるのは当たり前ですよ。
それが分からないなんて、坂下さんはかわいそうです。
きっと、そんな考え方が彼女をダークサイドに導いたのでしょう。
「琴音ちゃん、抵抗は無意味だよ・・・・・・お願いだから、逆らうのはやめて・・・」
冷酷な口調の葵ちゃんが、最後に言った言葉が気にかかりました。
やっぱり葵ちゃんはダークサイドに完全には堕ちてない!
私のライトセーバーを持って、坂下さんは踵を返し玉座に腰掛けました。
「全ては私の思惑どおりよ」
「どういうことですか?」
「シールド発生器の場所をわざと教えたのよ」
「はったりです! そんなハズありません!」
「学校裏の森にいるあなたの仲間は罠にはまるわ。反乱軍の艦隊もね」
「そんな・・・」
「シールド発生装置は決して破壊されないわ。精鋭部隊が待機してるからね。仲間の艦隊が到着したら
ビックリするでしょうね」

 神社へは、まず雅史とクマが進入した。
少し離れて芹香が続く。
マルチやセリオは茂みで待機するよう、雅史に命ぜられた。
社内には数人のタイツがいたが、クマが咆哮すると彼らは慌てて脇によけた。
思いのほか、呆気ないほどの侵入劇だった。
「よし、早く爆薬を仕掛けて逃げよう」
後ろで芹香がこくんと頷いた。
それを合図に、雅史が素早く爆薬を効果の期待される位置に・・・。
置くことができなかった。
「動くな! 反乱軍め!」
四方から数え切れないほどのタイツ兵が現れ、雅史たちにブラスターを向けたのだ。
「いつの間に・・・」
雅史は、かつて自分がサッカー部のレギュラーになれなかった、あの時の絶望感を再び味わった。

 一方。
定刻どおり、垣本たち反乱軍の主力部隊が戦艦ミレニアムを射程内に捉えた。
垣本を乗せたファルコンは、彼の後輩を乗せた戦闘機隊を従えている。
「垣本隊長。戦艦ミレニアムを捉えました」
「ちょっと待て、様子がおかしい」
簡単に事が片付くと思っていた柿本に不安がよぎる。
「どうかしましたか?」
「シールドが・・・消えてねえぞ!?」
「まさか! モニターには何も・・・」
「いや、間違いない。おい! 引き返せ!」
垣本が叫ぶと、後に続いていた戦闘機隊が四散した。
戦艦ミレニアムはたしかに正面にある。だが、シールドは依然としてそれを守っていた。
「回避して! 巡航艦は南44区に!」
雛山提督が命令した直後、彼女を驚かす報告が飛び込んできた。
「南44区に敵影を確認しました!」
「わ・・・罠・・・」
雛山提督乗艦のモンカラマリも、多数の艦船を率いて退避した。
 前線の戦闘機隊はたちまち、帝国軍のタイファイターに取り囲まれてしまった。
中には見慣れない戦闘機もあったが、反乱軍にそれらを分析している余裕はない。
もちろん、その見慣れない戦闘機がクレーネやテミステーという名称であることなど、誰もが知ろうと
はしなかった。
「大群です! 避けられません!」
部下の悲痛な声が飛び交う。
実戦経験に乏しい柿本は、この窮地を脱する方法を模索していた。

「ここに来て、見てみなさい」
坂下さんがガラス張りの壁を指差して言いました。
向こう側では、反乱軍と帝国軍の戦闘機が入り乱れていました。
「反乱軍が全滅するところが見られるのよ。面白いでしょ?」
挑発のつもりか、坂下さんは不敵に笑いました。
「反乱軍は負けません!」
「ふふ、どうかしら。私の指示ひとつで簡単に滅ぶのよ」
後ろを見ると、坂下さんが座っている玉座の肘掛けに私のライトセーバーがありました。
少しフォースを使えば簡単に引き寄せることができるのに、なぜか坂下さんは私に警戒するどころか、
わざと私に見える位置にライトセーバーを置いているようでした。
「これが欲しいんでしょ?」
私の心を見透かすように、坂下さんは手元のライトセーバーに手をかけました。
「あなたの心の中に憎悪が溢れてきた証拠よ」
「・・・・・・」
「いいわよ。さあ、武器を取りなさい。私は無防備なんだから」
だめだ・・・。ここは自分を抑えないと・・・。
「自分の気持ちに素直になりなさい。さあ、怒りに身を任せて」
「無駄ですよ。何と言っても、私はダークサイドなんかに負けません」
「いいえ、あなたは少しずつ私の僕になろうとしているわ。葵のように・・・。これはあなたの運命
なのよ。気付いてるんでしょ?」
「私は葵ちゃんを助けに来たんです。あなたの僕になるために来たんじゃありません」
私は毅然と突っぱねました。
ここで私がライトセーバーに手をかけたら、それこそ坂下さんの思うつぼです。
感情を抑え、誘いをはねのけることに集中しました。

 雅史たちはタイツ兵に連れられ、神社前の開けた場所に留まった。
ブラスターは取り上げられ、相棒のクマとも離れた位置にいる。
芹香は2人のタイツ兵に左右を固められていた。敵兵も芹香が抵抗をするとは思っていないのか、雅史に
比べれば、ずいぶんと監視が甘い。
広場には、数十人のタイツ兵が集まっていた。
凶悪なブラスターを背中に突きつけられ、さすがのクマも手が出せない。
そこへ、
「みなさ〜ん、こっちで〜す!!」
茂みの奥から、マルチがひょっこり現れた。
その場違いな口調に、タイツたちが一斉に振り向く。
「連れてこい!」
リーダーらしき兵が指示した。
数名のタイツがマルチのいる茂みに向かう。
その途中、
「今だ! やっつけろ!」
マルチがいる茂みとは別の方向から、ミッキーの声が聞こえた。
直後、あらゆる方向から木の棒やパチンコ、小石を手に持った子供が姿を現した。
ミッキーがこの森にいる仲間に声をかけていたのだ。
突然の乱入に浮き足立ったタイツたちは、あらぬ方向へブラスターを乱射する。
雅史たちにとって有利だったのは、仲間になった子供たちがこの森の地形を知り尽くしていることだった。
反乱軍に加担した子供たちは、微妙な窪みや絡まった木の枝を巧みに利用して、タイツ兵を翻弄する。
タイツ兵も負けじと応戦した。彼らがはなった光弾の数発は子供に命中したが、もともと位置的にも
数の上でも不利だった帝国兵は、次第に追い詰められていった。
「撃て、撃つんだ!」
タイツの虚しい叫びがこだます。
「セリオ! 早く来てよ!!」
社の前で雅史が声を張り上げた。普段、なかなか聞くことのできない雅史の大声だった。
「急いで!」
セリオが駆けつける。マルチは全く必要とされていなかった。
「さっき閉じられちゃったんだ。番号、分かるかい?」
雅史が社を指差して言った。
反乱軍が外に連れ出されている間に、タイツ兵が鍵をかけてしまったのだ。
鍵の種類は、よく郵便受けにみられるナンバー式だった。5ケタの番号を正しい位置にあわせれば、
開錠される。
「しばらくお待ちください。考えられる組み合わせを検討します」
そう言って、セリオは動きを止めた。
「0から9で5ケタなんだから、10万通りなんじゃ・・・」
雅史が言おうとしたがセリオに睨みつけられ、口を出さないことにした。
「でもやっぱり10万・・・うぐっ・・・」
雅史の小さなツッコミは、セリオの左ストレートに中断された。

 頭上では反乱軍と帝国軍による激しい空中戦が展開されていた。
「垣本隊長! 後ろから何機か来てます!」
「何機かって何機だ!?」
「いま数えてます! でも、あいつら動き回ってるんで・・・」
「当たり前だ! 反転して撃墜しろ」
始めは陣形を組んでいた戦闘機も、敵の総攻撃を前に散り散りになってしまっていた。
タイ・ファイターの執拗な攻撃に、味方のXウィングも次々と撃破されていく。
「リーダー! 丑の方向からエネミーフライファイターが接近中です!」
英語と古典が得意な部下が連絡する。そのどっちもが苦手な垣本は、彼とは親しくはないが、いまは
そんなことを言っている場合ではない。
ジャビィやハンターも果敢に敵に立ち向かった。
ジャビィの機関砲が命中すると、後方からハンターが攻撃力70のミサイルを放つ。
見事な連携プレーで、帝国の戦闘機は次第に勢いを失っていった。

「見てのとおりよ。あなたの仲間は失敗したのよ」
目の前で繰り広げられているのは、数を失いつつある反乱軍の戦力でした。
圧倒的な戦力差を武器に、帝国軍が反乱軍を押さえつけていたのです。
「ふふ、動揺してるわね。でもこれだけじゃないのよ」
そういうと坂下さんは、玉座から小型の通信機を取り出しました。
「いつでもいいわよ」
一体何が始まるのか。私は少し恐怖を感じました。
あの余裕の笑み・・・。
「さあ、よく見てなさい」
言われて外に視線を移した瞬間、地面が大きく揺れました。
いえ、地面ではなく、この戦艦ミレニアムが揺れているのです。
そして・・・。
緑色の禍々しい一本の光が、恐ろしい速さで突き抜けていきました。
その先には、仲間の戦艦があります。
「そんなッ!?」
目の前には悪夢の光景が広がっていました。
あの光線が、味方の艦体を貫いたのです!
ほんのわずかな沈黙の後、戦艦は赤く燃え上がり四散しました。
「ああ・・・」
私はその場に崩れ落ちそうになりました。
自分が見たものが信じられませんでした。
「反乱軍の負けよ」
後ろで憎むべき坂下さんの声が聞こえました。
「森にいるあなたの仲間も死ぬわ。あなたはもう、私のものよ・・・」
心の中にモヤモヤしたものが広がり始めました。
私はそれを必死に抑えます。
「いいわ。あなたの中に怒りを感じるわ・・・さあ、武器を取りなさい。私は無防備よ」
「・・・・・・」
「どうしたの? さあ、私を倒すのよ。そうすればあなたも葵と同じ、暗黒面に導かれるのよ」
その言葉に、私の中で何かが爆発しました。
一瞬、頭の中が真っ白になった気がします。
気がつくと、私は玉座にあったはずのライトセーバーを手にしていました。
迷うことなく坂下さんに斬りかかろうとしました。
しかし、
「ふふ・・・あはははは! そうよ! それでいいのよ!!」
私の剣は、同じくライトセーバーを起動した葵ちゃんの光刃に防がれてしまいました。

空中では、依然、反乱軍が劣勢だった。
「さっきのは、戦艦ミレニアムからか!?」
戦艦ミレニアムからのシャングリラ砲が、決定打となった。
「提督、どうなさいますか?」
見る間に不利になる状況に、垣本の後輩にあたるパイロットが問うた。
「えっと、撤退! そう、撤退しよ!」
逃げ腰の雛山提督が、そう指示した。
もっとも、本人は劣勢となった状況や反乱軍の未来などは微塵も考えていない。
にも関わらず彼女が撤退を命じたのは、実は次のバイトの時間に間に合いそうになかったからだった。
今すぐに駆けつけても、時給450円のヤックのバイトには10分遅れる計算だ。
これは『時給少女(じきゅうがーる)』としての雛山提督のプライドが許さなかった。
「でも、これが最後のチャンスだぜ!?」
諦めの早い同級生に、垣本が噛み付いた。
「そんなことしてたらバイトに間に合わなくなっちゃうよ」
小声で言ったが、垣本の耳にはちゃんと入っていた。
「そんなこと言ってる場合か! 逃げたら終わりなんだぞ!」
「あなたには私の気持ちなんて分からないわよ! 今だって弟がお腹を空かせて待っているのよ!?
お母さんだって病気で入院してるっていうのに! 私が働かなきゃ誰が稼ぐって言うのよ!?」
口論がいつの間にかケンカになっていた。
「そんなに怒らなくたっていいだろ。いいよ、俺たちは勝手にやるから!」
垣本も負けじと反論する。
「一応言っとくけど、俺たちは戦艦ミレニアムに急接近するからな!」
吐き捨てるように言った。
「無理だって、シールドも消えてないんだから」
「いや、雅史が必ずシールドを破壊してくれる!」
「でも予定時間はとっくに・・・」
「絶対に破壊してくれる!」
垣本は譲らなかった。
彼は雅史を本当に信頼しているのだ。

「葵ちゃんとは闘わない!」
琴音の悲痛な叫びがこだまする。
彼女に闘う意志が全くないことは、光刃を納めたことで分かる。
だが、葵はあくまで闘う構えだ。
「避けられない運命だよ」
葵が赤い光刃を琴音に向けた。
そして間合いを一気に詰める!
「・・・!!」
観念したように、琴音が再びライトセーバーを起動した。
紫色の光刃だった。
琴音という存在を示す紫色の光刃だった。
それを見て、葵の瞳が一瞬変わった。
構えを一度解き、ライトセーバーを水平に構える。
「・・・」
その動作の意味が琴音には最初分からなかった。が、次の瞬間、葵が手に力を入れた。
すると、ライトセーバーの逆端からも赤色の光刃が現れた。
そして両手持ちに構える。
双刃のライトセーバーだった。
琴音の体に緊張が走る。
「葵ちゃんッ!!」
目にも止まらぬ速さで、琴音が紫色の光刃を振るった。
姫川琴音とは思えぬほど素早い動きだった。
BGMは“激戦の始まり”ではなく“DUEL OF THE FATE”だ。
だが、それ以上の速さで葵が捌く。その体勢のまま、葵は左足を軸足に身をひねった。
その動きを予測していた琴音は冷静に攻撃を弾き返す。
「そうよ! 怒りのエネルギーをぶつけるのよっ!!」
離れたところから、好恵が叫ぶ。彼女はこの時を待っていた。
今度は琴音の番だった。
下段から斬り上げ、振りかぶった状態から水平にライトセーバーを滑らせる。
予想もしなかった琴音の攻撃にたじろぎ、葵は双刃のライトセーバーを真っ二つに叩き斬られた。
片方は手から滑り落ち、広間の隅へ転がっていく。
「藤田先輩に教わったんだね」
体勢を立て直した葵が訊いた。

 葵ちゃんの力は、私が思っていたよりも遥かに強力でした。
「心が乱れてるよ・・・葵ちゃん」
私はライトセーバーを油断なく構えながら言いました。
「善の心が闘ってるんだよ」
「心の乱れなんか・・・!」
「葵ちゃんは迷ってる。だから私を倒せなかった。今度もきっとそうよ」
「琴音ちゃんはダークサイドを甘く見すぎてる! 闘わなきゃ死ぬんだよ!」
葵ちゃんのフォースを感じる・・・。
頭が痛くなりそうなほど邪悪なフォースを・・・。
私はライトセーバーを持ち直しました。
絶対に・・・葵ちゃんを救ってみせる!

 琴音が闘う意志を見せたことで、葵も同じくライトセーバーを構えた。
と思いきや、葵は琴音に背を向けて左手を小さくかざした。
そして、さっきの闘いで落としたライトセーバーを引き寄せた。
ライトセーバーを琴音に断ち斬られる直前に、葵は素早く両方のライトセーバーを引き離したのだ。
葵は無傷だったもう一方のライトセーバーを起動した。
浩之ですら使うのをためらった二刀流だ。
と、ここで変化が起きた。
さっきまで赤だった光刃の色が、青色に変化したのだ。
右手に持つライトセーバーの光刃は赤のままだったが、左手に持ち直した光刃は青かった。
これが何を示すのか、琴音にはすぐに分かった。
ダークサイドの象徴である赤と、葵の存在を示す青がぶつかり合っているのだ。
だが、葵自身はこのことに気付いてはいない。
グリップを握る手に力を込め、琴音が踊りかかった。
葵が反射的にサイドステップで身をかわす。間髪をいれず、琴音の二撃目が振り下ろされる。
だがこれも葵は冷静に見切り、すかさず左のライトセーバーで応戦する。
この葵の動き方は、間違いなくエクストリームで培われた技術だった。
葵の素早いコンビネーションに、琴音はじりじりと後退していく。間断なく繰り出される葵の攻撃に、
隙がまったくないのだ。
単純に考えれば、葵は琴音の2倍の攻撃を放つことができるが、力は半減する。
ハズだった。
だが、葵の1回1回の攻撃は、琴音と互角かそれ以上だ。
追い詰められた琴音は目標を変え、まず葵のライトセーバーを狙うことにした。
琴音の動きの変化に対応できず、葵がひるんだ。
その隙をついて琴音が前に出、大きく振りかぶった。
「うあ・・・!」
突然のことに葵が小さくうめいた。次の瞬間には、右手のライトセーバーが叩き割られていた。
これで力は対等となった。
「いいわ、もっとやりなさい」
高見の見物を洒落こんだ好恵が笑う。
 琴音は葵の動きを見ながら、広間の中央まで回りこんだ。退けない状況では不利だと判断したのだ。
「琴音ちゃん、信じられないくらい強くなったんだね」
「坂下さんを倒すためにね」
「・・・無理だよ・・・好恵さんには勝てないよ」
「私はできるって信じてる!」
再び琴音が斬りかかった。左から右になぎ払うようなかたちだ。だが、この一撃は葵にはわざと回避させ、
体を1回転させてさらになぎ払った。
葵はそれを余裕で見切ると、体を大きく回転させた。葵の動きが一瞬、琴音の視界から消える。
「あぁ・・・!!」
慣れない痛みが琴音を襲った。
葵の上段回し蹴りが直撃したのだ。
琴音がその場にうずくまる。葵はそれを黙ってみていた。
ふらつきながらも何とか体勢を立て直そうとする琴音。
「私に勝てないようじゃ、好恵さんを倒すなんて無理だよ」
「う・・・くっ・・・」
「琴音ちゃんもダークサイドの力を知ったら、そんなつまらないこと考えなくてすむよ」
そこまで言った時、琴音が力強く立ち上がった。
紫色の光刃がひときわまばゆく輝いた。
琴音のただならぬ様子に、葵も警戒する。
2人が同時にライトセーバーを構えた。
お互い対峙したまま、まったく動かない。
数十秒が流れた。
先に攻撃を仕掛けたのは葵だった。
インサイドステップが琴音の注意を散漫させる。だが、琴音には葵の動きが手にとるように分かる。
予測どおり、葵が左側から攻撃してきた。琴音は素早く後ろに一歩退き、空振りを待ってからライト
セーバーを振り下ろした。
天性の素質で間一髪かわした葵だったが、その回避行動すら琴音に予測されていた。
琴音は即座に葵の背後に回りこみ、ライトセーバーを振りかぶった。葵の上段回し蹴りが来ることも
予想されたが、このチャンスを逃しては葵に勝つことは不可能だった。
琴音が剣を振り下ろすのと、葵が体を反転させたのは同時だった。
葵の視界に紫の光刃が見えた。とっさに防御の構えをとったが、わずかにタイミングがずれた。
紫色の光刃は葵の体をかすめ、ライトセーバーのグリップをなぎ払った。
無防備になった葵に、琴音が光刃を突きつける。

「分かりました。“78585”です」
セリオが言うと同時に番号は指定と一致し、鍵が開いた。
「“分かりました”って順番にやってただけ・・・」
雅史のツッコミは、セリオの標準装備であるスタンガン(射程距離2)に抹消された。
「・・・・・・」
「とにかく急ぎましょう。時間がありませんとおっしゃっています」
芹香の超小声をセリオが訳した。
「そうだね。クマ、行くよ」
爆薬を持った雅史がクマを連れて社に入っていく。
「私たちはここを守ります」
「私たちって、私もですかぁ?」
マルチが泣きそうな声で泣いた。
「当然です。何の役にも立たないで終わらせるつもりですか?」
今日のセリオは何かが違う。
普段なら高度な感情抑制機能が働いて、マルチに対する日々の鬱憤も口に出さないでいた。
だが、今となってはそんなセリオの面影もない。
「ぅぅ・・・分かりました。がんばります・・・」
 素早く内部に侵入した雅史は、やはり慣れた手つきで爆薬をセットする。
「よしっ、これで全部だ」
セットし終えた雅史が、ちょっと赤く腫れた左頬をさすりながら言った。
「ぐおおお、ぐお」
「分かってるよ。早く行こう」
外には心配そうに見守る芹香たちがいた。
「早く逃げないと爆発に巻き込まれるよ!」
その顔をいちいち確認せずに雅史が言う。
「5・・・4・・・3・・・」
茂みに隠れた雅史が秒読みを始めた。
「1・・・0・・・・・・あれ?」
ゼロでかっこよく爆発するはずだったのだが、マイナス5を過ぎても社に変化はない。
その時!
轟音と地響きが森を襲った。
爆薬がその本来の力を発揮したのだ。
凄まじい閃光がまたたき、次の瞬間には社は影も形も無くなっていた。
「やったじゃんか!」
それを見ていたミッキーが雅史たちの元に駆け寄る。
振り返ると、タイツ兵が1人残らず捕虜にされていた。
「・・・後は垣本が頑張ってくれれば・・・」
雅史のつぶやきは誰にも聞こえなかった。

 ライトセーバーを失った葵ちゃんは、覚悟を決めたようです。
負けた時でさえ堂々した姿勢は、あの頃の葵ちゃんと同じでした。
「よくやったわ。憎しみがあなたに力を与えたのよ」
いつの間にか坂下さんが広間の中央にいました。
「さあ、その剣で葵を殺しなさい。葵に代わってあなたが私の僕となるのよ」
吸い込まれそうな目で私を見る坂下さん。葵ちゃんはまったく表情を変えませんでした。
私は手にしたライトセーバーと葵ちゃんを交互に見ます。
そして。
私は光刃を納め、ライトセーバーを投げ捨てました。
そうしなければ誘惑に負けて、本当に葵ちゃんを殺してしまうかもしれないと思ったからです。
「残念ですけど、ダークサイドに入る気はありません」
「・・・・・・」
「あなたの負けです!」
私は坂下さんを睨みつけてやりました。
葵ちゃんをこんなにしてしまった坂下さんを。
坂下さんは少し間をおいて、
「・・・いいわよ、それでも。・・・味方にならないなら・・・・・・殺すまでよっ!!」
そう言うと、坂下さんは右手を前に突き出しました。
「!? ああああっ!!」
指先から放たれた電撃が私を襲いました。
立っていられないほどの衝撃に、全身の力が抜けていきました。
「くっ・・・!!」
「ふん、愚かな娘ね。殺されなければ分からないなんて!」
「うああああッ!!」
蒼い電撃が断続的に放たれました。
そのたびに私の体から力が抜けていきます。
「あなたの能力なんて、ダークサイドにはまるで通用しないのよっ!」
意識が朦朧としてきました。
邪悪な力が私の体を駆け抜けていきます。
やっぱり・・・坂下さんを倒すなんて初めから無理だったんでしょうか。
「姫川琴音・・・あなたは死ぬのよっ!!」
「ああああああッ!!」
ぼやけた視界の中に、坂下さんのすぐ隣に立っている葵ちゃんが映りました。
もうダメ・・・意識が・・・。
その時でした。
葵ちゃんがゆっくりと歩き出し、坂下さんを正面に捉えました。
「好恵さん・・・・・・」
葵ちゃんに呼びかけられ、坂下さんは私を攻撃する手を止めました。
「・・・葵・・・!?」
次の瞬間、葵ちゃんの鋭い突きが坂下さんの体を突き抜けました。
あれは・・・崩拳です!
前に一度だけ見たことがあります。
思いもしなかった一撃に、坂下さんがその場に崩れ落ちました。
「・・・琴音ちゃん・・・」
雷撃のダメージがいくらか和らぎ、私は坂下さんから離れるようにして立ち上がりました。
目の前にいる葵ちゃんの目。
クラブを続けていた、あの時の瞳と同じでした。
「私を・・・助けてくれたんだね・・・?」
「・・・・・・」
「さあ、私と一緒に逃げよう」
「ダメ・・・」
「どうして!? 葵ちゃんはダークサイドに克ったんだよ!?」
「わたしは・・・行けない」
「そんなの、私が許さない! だって、葵ちゃんを助けるために来たんだもん!」
「もう助けてくれたよ・・・」
あくまで私を拒みつづける葵ちゃん。
「琴音ちゃんは正しかった。私は・・・私は間違ってた!」
「そんなの関係ないよ!」
「罪を償わなきゃ・・・。私はここに残る。琴音ちゃんは早く逃げて」
「ダメ! 絶対に連れて行くから」
「お願いだから・・・早く逃げて・・・」
葵ちゃんはどうしてもここを離れないようです。
仕方ありませんね。
「・・・だったら、私もここに残る」
「えっ!?」
「葵ちゃんが行かないなら・・・私も行かない」
「琴音ちゃんは帰らなきゃ! ここにいる必要は・・・」
「だったら、葵ちゃんも来て」
「・・・・・・」
「それができないんだったら、私もここに残る・・・」

「やったぜ! シールドが消えた!」
ファルコンから垣本の歓喜の叫びが聞こえた。
「見ろ! 雅史はやってくれるだろっ!?」
垣本が勝ち誇ったように雛山提督に言った。
「う、うん。そうだね、すごいね!」
バイトのことが頭から離れない提督は、シールドどころではない。
「よし、何機か俺についてこい! 一気に決着をつけてやる!」
元サッカー部レギュラーの血が再びわきたいた。
垣本は近くで交戦中だったXウィング数機を引き連れ、戦艦ミレニアムへ侵入した。
作戦にしたがって、奥へ奥へと侵入する。
帝国軍の妨害も考えていたが、これまでの戦いで敵戦力のおおかたは片付いていた。
おかげで、実にたやすくメイン反応炉までたどり着くことができた。
「隊長、あれが目標です」
「ああ、ついにここまで来たんだな」
「あれを破壊すれば全て終わりですね」
「そうだ。まったく、雅史たちのおかげだぜ」
反応炉がファルコンの射程距離内に入った。
「よし、見てろよ!!」
垣本は操縦桿を力いっぱい握りしめ、トリガーに手をかけた。
「発射ッ!!」
先端から発射された緑色の直線が反応炉を直撃。
耐久度を超えた衝撃に、反応炉が大きく揺れだした。
閃光が迸り、辺りが真っ白な光に包まれる。
「隊長、速やかに退避を!」
「分かってる!」
言うが早いか、垣本を乗せたファルコンはXウィング小隊と共に、来た道を全速力で駆け抜けた。
後方からは炎の渦が押し寄せてくる。
内部から爆発しているのだ。
垣本はファルコンの性能を信じて、脱出を試みた。
もはや自分を攻撃する敵機は見当たらない。
追いかけてくるのは、反応炉爆発の余波だけだ。

 広間の外が騒がしい。
戦艦ミレニアム内の通路を、絶えずタイツ兵が走り回っている。
「早く逃げないと間に合わないよ!」
「言ったでしょ? 葵ちゃんが行かないなら私も行かないって」
重苦しい沈黙が場を支配する。
「リアクターがやられた! 早く脱出を!」
「小隊は第3ポートに急げ!」
外からそんな声が聞こえてきた。
「もう間に合わないみたい」
「・・・・・・」
「本当にいいの?」
「うん・・・」
「仲間が待ってるんじゃないの?」
「たぶんね・・・」
「なら、どうして・・・?」
「葵ちゃんは充分苦しんだよ。これ以上、苦しむ必要はないと思う。なのに、葵ちゃんはここに残る
もりなんでしょ?」
「うん」
「葵ちゃんが独りで苦しむことはないよ。私も一緒にいてあげるから」
艦が大きく揺れた。
下からは爆音が轟く。
この艦もそう長くはもちそうにない。
「でも私のせいで・・・画家になるって琴音ちゃんの夢が・・・」
「いいのよ。私の夢はもう叶ったから」
「え・・・? 叶ったって・・・?」
「人の役に立ちたいっていう夢」
立っていられないほどの衝撃が葵と琴音を襲った。
バランスを崩し、2人が座り込む。
葵は壁に挟まれたような窓を見つめた。
赤い。
爆発の余波が戦艦ミレニアム全体を包んでいた。
琴音もつられて窓を見た。
ファルコンが小さくなっていくのが見えた。
あれには垣本が乗っていたはずだ。
葵は好恵を見た。
崩拳をまともに受けた好恵は、ピクリとも動かない。
あんな手段で綾香に勝って、果たして本当に満足しているのだろうか。
葵には解からなかった。
琴音も好恵を見た。
葵の心を弄び、自分をも誘惑しようとした。
琴音は好恵を憎んでいた。
だが、今にしてみると、好恵が何となくかわいそうに思えてきた。
彼女はなぜダークサイドに堕ちてしまったのか。
琴音には解からなかった。
戦艦ミレニアムの揺れがだんだんと大きくなる。
「葵ちゃん・・・」
「琴音ちゃん・・・」
2人が見つめ合った。
広間は真っ白な光に包まれた。

 突然の轟音に、雅史たちは空を見上げた。
上空に停滞している戦艦ミレニアムからは、真っ赤な炎が燃え上がっていた。
「垣本のやつ、どうやら成功させたみたいだね」
「・・・・・・」
「作戦が成功して嬉しいです、とおっしゃっています」
「やりましたねえ」
反乱軍の有志たちは作戦の成功を知り歓喜した。
「やったじゃん! すげえな、花火みたいだよ」
ミッキーと良太がやってきた。
他の子供たちも雅史らの元に集まってくる。
「君たちが協力してくれて、本当に助かったよ」
雅史にしては珍しい発言をした。
「気にするなよ。ここは俺たちの庭みたいなもんだからさ」
ミッキーが言った時、エンジン音が近づいてきた。
「垣本だ」
神社があった辺りに、ファルコンと数機のXウィングが降り立った。
「見たか、雅史? 派手にやってやったぜ!」
「うん、すごかったよ」
「垣本隊長。お疲れ様です」
後輩たちが垣本を取り囲む。
「お前たちもよくやってくれたな」
「そうだ。今夜、ここでパーティーをしようかと思うんだけど」
「お、いいな。早速仲間を集めてくるよ」
垣本が言った時、爆発音が辺りを支配した。
続いて、目が眩むほどの閃光。
その場にいた全員が同じ場所を見た。
大きく傾いた戦艦ミレニアムが大爆発を起こしたのだ。
無数の火花を飛び散らせて、光が四散する。
芹香の表情が変わった。
しばらくして、その意味をようやく知った雅史も顔色を変えた。
「姫川さんは・・・姫川さんはどうなったんだ?」
雅史はこの中で最も頼りになる人物、セリオに問うた。
「・・・分かりません。今の段階では何とも・・・」
「姫川さんなら、きっと大丈夫ですよ。ね、セリオさん?」
無邪気なマルチが、その場を取り繕うに笑った。

 学校裏の森は、和やかな雰囲気につつまれた。
反乱軍のメンバーがパーティーに参加するために集まったのだ。
バイトを終えた雛山提督も、ラジオの収録を終えた辛島美音子将軍も、どこか寂しさを抱えた様子の
神岸戦術顧問も一緒だった。
開けた場所には真っ白なテーブルクロスを掛けられた巨大なテーブルがかまえている。
その上には、場違いなほど高価な料理がずらりと並ぶ。
未成年者が集うため、さすがにワインは出なかったが。
これらのもてなしは当然ながら来栖川が全額出している。
「こんなにたくさん、本当に食べてもいいの? ねえ、いいの?」
雛山提督が誰かれ構わず訊きまわる。
恐らく一生バイトしても食べられそうにない珍味が、彼女の目を輝かせた。
「雅史、お前もこっちに来いよ」
後輩たちに囲まれた垣本が遠くにいる雅史を呼んだ。
「うん、あとで行くよ」
元気のない声で答える。
主催者である芹香の表情は晴れない。
それは雅史もクマもマルチもセリオも同じだった。
「姫川さん、遅いですね」
「もうあれから2時間も経ってるよ」
芹香が空を見上げた。
「もう帰ってこないのかな・・・」
ふと雅史がつぶやいた。





 上も下も分からない空間。
どこまで行っても白しか存在しないはずのこの空間に、4つの意識が存在する。
「よう、葵ちゃん。久しぶりだな」
「先輩・・・」
「ようやくダークサイドから解放されたみたいだな」
「皆さんのおかげです」
「いや、俺たちはたいしたことはしてないよ。琴音ちゃんががんばってくれたおかげさ」
「琴音ちゃん、本当にごめんなさい・・・」
「気にしないで。私はちょっとお手伝いしただけ」
「だが、ともかくこれでダークサイドは滅びた。フォースにバランスがもたらされたのだ。わしらの
役目はこれで終わった」
長瀬の意識体がわずかに輝いた。
「でも、私・・・すごく嬉しいです。私の能力が初めて人の役に立ったことが・・・」
「それがフォースと言うものだ。姫川よ。お前は本当によくやった」
「俺もそう思うぜ。ちょっと前の琴音ちゃんからは想像もつかないもんな」
浩之の意識体が共鳴する。
「私、自分が恥ずかしいです。好恵さんの誘いに乗ってしまって・・・」
「気にすることはない。坂下はお前の弱みにつけ込んだのじゃ。お前と同じ境遇であれば、誰であろうと
奴の術にはまっただろうな」
「そうだよ。葵ちゃんは本当は強いんだもん。だから、最後に私を助けてくれたんでしょ?」
「う、うん・・・」
琴音の意識体が小さく呼びかけた。
葵の意識体がそれに反応し、小さく答える。
「時間が来たようじゃな」
「ああ・・・」
「あの、私たち、これからどうなるんですか?」
「怖がることはない。わしらはフォースの元へ還るだけじゃ」
「フォースの元へ・・・?」
「そうじゃ。フォースがわしらが還るのを待っておる」
長瀬の意識体が四散した。
「やれやれ・・・じゃあ、俺も運命に従うか」
浩之の意識体が四散した。
「葵ちゃん、行こう」
「うん!」
琴音の意識体と葵の意識体が同時に四散した。





   何もない空間は、再び虚空の空間を取り戻した。





   後書き

 ラストの意識体の話は書き終わった後に思いつきました。
当初は映画と全く同じ終わり方にする予定でした。
ところがそうすると、葵ちゃんを死なせなくてはならない。でも、そんな結末はいやだ。
と言う事で、琴音ちゃんにも付き合ってもらうことにしました。
大丈夫。2人はフォースで結ばれているのだから。
 同じ場所で消滅したのに、坂下好恵の意識体が出てこないのは、彼女が本当のダークサイダーだった
ためです。葵ちゃんは途中で過ちに気付き、フォースの意思に従ったから・・・というふうに解釈して
下さい。
後先考えずに書いた為に、まとまりもなく納得も行かない結末になってしまった感があります。
また機会があれば、この続きを・・・といっても主要なメンバーでは話を続けるのは難しいかも
知れません。
また時間があれば書いてみたいなと思います。
お付き合い下さり、ありがとうございました。


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