能力−葵−
「琴音ちゃんッ!?」
もしかして・・・琴音ちゃんの超能力が?
「葵ちゃん!! はやく離れて!!」
「えっ・・・?」
私は琴音ちゃんと、琴音ちゃんが見ている方を交互に見ました。
周囲が重い空気に包まれたような気がしました。
別の空間にいるような、そんな不思議な感覚でした。
その時、突然強い耳鳴りがしたかと思うと、吊るしてあったサンドバックが小さな音を立てました。
するとその音と共に、サンドバックを支えていた枝が折れ、そのはずみで・・・。
えっ・・・?
そのまま落ちるかと思っていたサンドバックが、こっちをめがけて飛んできました。
「葵ちゃん、危ない!!」
突然のことに、私は飛んでくるサンドバックを避けることができませんでした。
「あっ・・・!?」
鈍い音がして、私は前も後ろも分からない暗闇に落ちていきました・・・。
「・・・ちゃん・・・いちゃん・・・」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえてきました。
誰かに体を揺すられて目を開けると、ぼんやりとした視界の中に琴音ちゃんの姿が見えました。
「あれ・・・琴音ちゃん・・・?」
「葵ちゃん・・・よかった・・・」
「つっ・・・!」
ゆっくり体を起こすと、左肩に痛みが走りました。
何が起こったのか分からず周囲を見回すと、吊るしていたはずのサンドバックが傍に転がっていました。
「葵ちゃん、ごめんね! 私のせいで・・・!」
「どうして? どうして、琴音ちゃんのせいなの?」
「私が・・・私があんな予知をしたから・・・」
そう言って悔しそうにサンドバックを見る琴音ちゃん。
あれが・・・あれが予知なの・・・?
たしかに琴音ちゃんは、この事を予知してた。だから私に逃げて、って叫んだ。
でも、これは予知とはちょっと違うような気がする・・・。
「違うよ・・・あんなの、予知じゃないよ・・・」
枝が折れてサンドバックが落ちてくるだけなら予知なのかも知れませんが、それが私に向かって飛んで
くるなんて、普通ではありえません。
「だって予知なら、サンドバックが落ちてくるだけで終わるでしょ?」
「うん・・・」
「私もよく覚えてないけど・・・サンドバックがあんな風に飛んでくるなんておかしいよ・・・」
そう言いながら予知を否定する私は、考えたくない事を考えていました。
今のが予知じゃないとしたら・・・たぶん念力みたいなものだと思う・・・。
だったらどうして、あんなことを・・・?
「やっぱり、念力かなにかだと思うんだけど」
「予知じゃなくて・・・?」
「うん。それが使いこなせてないだけだと思うの」
私が言うと、琴音ちゃんは少しうつむいてしまいましたが、
「私に・・・できるかな・・・」
「えっ?」
「能力、使いこなせるようになるかな・・・」
「できるかできないかはやってみないと分からないよ。やろうよ!」
「私、頑張ってみる」
「だめだめ。頑張ってみるんじゃなくって、頑張るの」
「うん!」
2人ともしばらく黙ったままでしたが、やがて、
「ごめんね・・・」
「え・・・?」
「私、いろいろ葵ちゃんに迷惑かけちゃうけど・・・」
「そんなこと言わないで」
複雑な表情の琴音ちゃんに私は、
「私こそ・・・琴音ちゃんに迷惑ばっかりかけてた・・・。いま私がこうやってクラブを続けられるのも
琴音ちゃんのおかげだから・・・」
「葵ちゃん・・・」
琴音ちゃんは真っ直ぐにこっちを見て、
「ありがとう・・・」
そう言ってくれました。
琴音ちゃんは涙を溜めていました。
琴音ちゃんの辛さや苦しみは、どんなに頑張っても私には完全にはわからない。
でも、わかってあげたいと思う。
同情じゃない。
友達だから。
その日の帰り。
琴音ちゃんと別れた私はすぐに家に帰らず、よく行っている本屋さんに入りました。
いつもは格闘技関連の本ばかり買う私ですが、今日は違います。
超能力について書かれた本を探しているのですが、なかなか見つかりません。
10分ほど回って、ようやく見つけた1冊の本。
超能力について現代の科学で解明しようという内容の本でした。
私は中身も確かめずに、その本を買いました。
これで、少しでも琴音ちゃんの能力について分かったらいいな。
家に帰った私は、さっそく買ってきた本を開きました。
本当は学校の宿題を先に済ませなければならないのですが、それよりももっと大事なことがあるのです
から仕方ありません。
翌日。
私が琴音ちゃんと会うのは、たいていお昼休みです。
今日もいつものようにBランチを持って、いつもの席につきます。
ほどなくして琴音ちゃんがやって来ました。
「葵ちゃん、今日は早いね」
「うん。琴音ちゃんに話したいことがあったから」
「え、なに?」
お茶を一口飲んで、私は昨日読んだ本の内容を話しました。
「私が逆に意識しすぎてるってこと・・・?」
「うん、多分。それがストレスみたいになってるんじゃないかなって」
「でも・・・ううん、そうかも知れない・・・」
「本で読んだくらいだから、私もよく分からないけど。あ、それとね」
「うん」
「練習すれば、能力のコントロールもできるって」
「ええっ? できるの?」
「毎日少しずつでもやれば、少なくとも暴走したりはしないって書いてあったよ」
「じゃあ、やっぱり私の能力は予知じゃないのかな」
「そうだと思う。私の想像だけど・・・」
「言ってみて」
「頭の中で思い浮かんだことを、無意識のうちに起こそうとしてるんじゃないかなって思うの」
琴音ちゃんはちょっとだけ俯いて、
「それじゃあ・・・」
「え・・・?」
「昨日のことも・・・」
「あ・・・」
「私が葵ちゃんに・・・」
琴音ちゃんの顔は悔しさでいっぱいでした。
「あ、あれは何かの間違いだよ。きっと」
「でも・・・」
「気にしないで、ね」
「ありがとう・・・」
よかった。琴音ちゃんが少し元気を取り戻してくれた・・・。
「でも、ちょっと寂しいかな・・・」
「どうして?」
「どんなに頑張っても・・・琴音ちゃんの苦しさを100パーセント分かってあげられないから・・・」
「・・・・・・」
「私が大丈夫だなんて言っても、そんなの慰めにも何にもならないから・・・」
「・・・・・・」
「琴音ちゃんがどれだけ辛い思いをしてるのか、分かったつもりでいた。でも、それは・・・琴音ちゃん
にしか分からないことだもんね・・・。だから・・・」
「ちがうよ!!」
突然の大声に私はびっくりしました。
周りを見ると、何人かがこちらに注目しています。
琴音ちゃんもあんな声出すんだ・・・知らなかったな・・・。
「ごめんね・・・大きな声だして・・・。でも、葵ちゃんにそう思ってほしくないの」
「え、どういうこと?」
「葵ちゃんは・・・葵ちゃんは充分わたしの事を分かってくれてるよ」
「そう・・・かな・・・」
「誰よりも私のことを分かってくれて・・・誰よりも私の力になってくれて・・・」
「それは・・・」
言いかけて琴音ちゃんを見ると、真っ直ぐに私を見ていました。
「だから頑張ろうって気持ちになれた」
そう・・・そうだよね・・・。
私、何を勘違いしてたんだろう・・・。
また私の悪い癖が出ちゃった・・・。
翌日から私たちの訓練が始まりました。
毎日お昼休みと放課後、クラブが終わってからの時間を利用することにしました。
小さなボールをまだ完全ではないにしても、自在に操るその能力に私は見とれてしまいました。
数日も経つと、ボールを自由に動かせることができるようになりました。
ふわふわと宙に浮いているボールを見ながら、私は思いついたことを琴音ちゃんに言ってみました。
後書き
そろそろ後書きで書くこともなくなってきたような・・・。
このあたりから、琴音ちゃんメインで話が進んでいくことになりそうです。
ボールを使った訓練はゲームと同じですが、その訓練法は具体的にどういうものなのか、ちょっと気に
なったりもします。
やっぱりスプーンよりも扱いやすいのでしょうか。それとも「曲げる」より「浮かばせる」ほうが、
超能力らしいのでしょうか。
次の話では、より超能力を前面に押し出した内容にしようと思います。
それでは琴音ちゃん編をお楽しみください。
戻る