能力−琴音−



 「琴音ちゃんッ!?」
「葵ちゃん!! はやく離れて!!」
「えっ・・・?」
どうしてこんな時に・・・!
葵ちゃんだけは巻き込みたくなかったのに・・・!
いつものあの耳鳴りがします。
私を不幸にする、あの嫌な音が。
頭が痛い・・・。でも、今はそれどころじゃ・・・。
見ると、サンドバックを吊るしている枝が今にも折れそうでした。
「葵ちゃん、危ない!!」
その時、とうとう枝が折れてしまいました。
「あっ・・・!?」
鈍い音がして、私は思わず目を背けてしまいました。

 「葵ちゃん! 葵ちゃん!」
気を失ってしまった葵ちゃんに、私は必死に呼びかけました。
葵ちゃんのすぐそばには、サンドバックが転がっています。
何度呼んでみても、目を覚ます気配がありません。
「あおいちゃん、あおいちゃん!」
体を揺すりながら名前を呼ぶと、葵ちゃんは小さく声をもらしました。
「あれ・・・琴音ちゃん・・・?」
「葵ちゃん・・・よかった・・・」
「つっ・・・!」
体を起こしかけた葵ちゃんが、左肩を押さえてうずくまりました。
「葵ちゃん、ごめんね! 私のせいで・・・!」
「どうして? どうして、琴音ちゃんのせいなの?」
「私が・・・私があんな予知をしたから・・・」
しばらく使ってなかったとはいえ、どうして今日に限って・・・。
「違うよ・・・あんなの、予知じゃないよ・・・」
私に訴えるように言う葵ちゃん。
「だって予知なら、サンドバックが落ちてくるだけで終わるでしょ?」
「うん・・・」
「私もよく覚えてないけど・・・サンドバックがあんな風に飛んでくるなんておかしいよ・・・」
でも予知じゃなかったとしても、私が葵ちゃんを傷つけてしまったのには変わりありません。
分かっていながら、どうすることもできなかった。
それが悔しくてたまりませんでした。
「やっぱり、念力かなにかだと思うんだけど」
「予知じゃなくて・・・?」
「うん。それが使いこなせてないだけだと思うの」
私の能力のことをこんなに真剣に考えてくれた人は今までいなかった。
葵ちゃんの言葉を聞いて、私は改めて思いました。
「私に・・・できるかな・・・」
「えっ?」
「能力、使いこなせるようになるかな・・・」
「できるか、できないかはやってみないと分からないよ。やろうよ!」
「私、頑張ってみる」
「だめだめ。頑張ってみるんじゃなくって、頑張るの」
「うん!」
葵ちゃんって不思議。
一緒にいるだけで、こんなに元気になれるんだもん。
葵ちゃんが優しすぎるから、私はこう言います。
「ごめんね・・・」
「え・・・?」
「私、いろいろ葵ちゃんに迷惑かけちゃうけど・・・」
「そんなこと言わないで」
そうはっきりと返され、私は何も言えませんでした。
「私こそ・・・琴音ちゃんに迷惑ばっかりかけてた・・・。いま私がこうやってクラブを続けられるのも
琴音ちゃんのおかげだから・・・」
「葵ちゃん・・・」
胸の中が熱くなるのを感じました。
「ありがとう・・・」
感謝の気持ちでいっぱいでした。
言葉では言い足りないくらいに。
でも、私の口からはたったひと言しかでませんでした。
涙がほほを伝わりました。

 翌日。
私が葵ちゃんと会う時間が一番長いのが、お昼休みです。
今日もいつものように、キツネうどんを持って、いつもの席につきます。
授業が終わってすぐに来たのに、葵ちゃんはすでに席に座っていました。
「葵ちゃん、今日は早いね」
私の声に、葵ちゃんはぱっと顔を上げて、
「うん。琴音ちゃんに話したいことがあったから」
「え、なに?」
葵ちゃんは、昨日読んだという本の内容を教えてくれました。
現代の超能力を科学的に解明する本というタイトルで、その名のとおり、超能力について解明されたこと
が書いてあったそうです。
不安定な超能力を持つ人は、その能力が勝手に表面化するそうです。
それが例の暴走のことでしょう。
そして、暴走する能力の原因のほとんどは、知らないうちに本人が引き起こしているらしいのです。
抑えようとすればするほど、それがきっかけとなってより強い暴走を起こすそうです。
「私が逆に意識しすぎてるってこと・・・?」
「うん、多分。それがストレスみたいになってるんじゃないかなって」
「でも・・・ううん、そうかも知れない・・・」
「本で読んだくらいだから、私もよく分からないけど。あ、それとね」
「うん」
「練習すれば、能力のコントロールもできるって」
「ええっ? できるの?」
「毎日少しずつでもやれば、少なくとも暴走したりはしないって書いてあったよ」
「じゃあ、やっぱり私の能力は予知じゃないのかな」
「そうだと思う。私の想像だけど・・・」
「言ってみて」
「頭の中で思い浮かんだことを、無意識のうちに起こそうとしてるんじゃないかなって思うの」
しばらくして、私は葵ちゃんの言った言葉の意味を理解しました。
「それじゃあ・・・」
「え・・・?」
「昨日のことも・・・」
「あ・・・」
「私が葵ちゃんに・・・」
あの時、思わず目を閉じてしまったけど・・・何が起こったのかは分かっていた。
「あ、あれは何かの間違いだよ、きっと」
取り繕うような笑顔を見せる葵ちゃんを見ていられませんでした。
「でも・・・」
「気にしないで、ね」
「ありがとう・・・」
私がそう言うと、葵ちゃんは小さく笑ってくれましたが、すぐに目を伏せました。
やがて、しぼり出すような声で、
「でも、ちょっと寂しいかな・・・」
「どうして?」
「どんなに頑張っても・・・琴音ちゃんの苦しさを100パーセント分かってあげられないから・・・」
「・・・・・・」
「私が大丈夫だなんて言っても、そんなの慰めにも何にもならないから・・・」
「・・・・・・」
「琴音ちゃんがどれだけ辛い思いをしているか、分かったつもりでいた。でも、それは・・・琴音ちゃん
にしか分からないことだもんね・・・。だから・・・」
「ちがうよ!!」
自分が食堂にいることも忘れて、私は叫んでいました。
そういえば初めて坂下先輩と話した時も、こんな風に大声だしてたな・・・。
ちょっとビックリした感じの葵ちゃんに私は、
「ごめんね・・・大きな声だして・・・。でも、葵ちゃんにそう思ってほしくないの」
「え、どういうこと?」
「葵ちゃんは・・・葵ちゃんは充分わたしの事を分かってくれてるよ」
「そう・・・かな・・・」
「誰よりも私のことを分かってくれて・・・誰よりも私の力になってくれて・・・」
「それは・・・」
「だから頑張ろうって気持ちになれた」
葵ちゃんには言葉では言い足りないくらいに感謝しています。
私の能力のために、わざわざ本まで買って調べてくれた葵ちゃん。
当の私は、そこまで積極的に考えていませんでした。
能力から逃げていた私。能力と闘おうと言ってくれる葵ちゃん。
葵ちゃんとなら何でもできる。
彼女を見るたびに、私に少しずつ勇気が湧いてきます。

 翌日から、私たちの訓練が始まりました。
毎日お昼休みと放課後、クラブが終わってからの時間を利用することにしました。
葵ちゃんの体のことを考えてクラブの後にするのは止めようと言ったのですが、少しでも早く能力を
制御できるようにと、私の練習に付き合ってくれました。
いつか無理をしすぎて葵ちゃんが倒れないかと心配です。
練習のおかげで、まだ完全ではありませんが、小さなボール程度なら自在に動かせるようになりました。
数日も経つと、ボールを自由に動かすことができるようになりました。
 そしてある日。いつものようにボールを宙に浮かせていると、葵ちゃんがこんな提案をしました。





   後書き

 超能力って、本当にあるんでしょうか?
スプーンを曲げたり、黒い封筒の中身を透視したり、目隠しをして車を運転したりするのではなく、
誰もがあっと驚いて、誰もが信じざるをえないようなホンモノの超能力を見てみたいものです。
例えば、手をかざすだけで遠くのものを吸い寄せたり、右手を軽く振るだけで扉が開いたり、相手の
心理を操ったり、でも疑う心を持ったり怒ったりすると、その能力の持つ暗黒面に堕ちてしまって・・・。
と、まるで某有名映画のようですが、そういう理力があってもいいと思います。
それが実在していて、それが使いこなせたら・・・どんなにいいでしょうか。
琴音ちゃんにそんな能力がそなわっていたら、きっと葵ちゃんの格闘術など足元にも及ばないでしょうね。
 わけの分からない後書きでした。



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