陽光−葵−



 昨日の夢はなんだったんだろう・・・?
学校への道を歩きながら、私はふと思いました。
朝起きてみると、さっき見た夢がはっきりと思い出せました。
自分が言ったことも、周りの状況も。鮮明に。
私には、あの夢が何かを暗示しているように思えてなりませんでした。いま自分が置かれている状況を
考えると、自分ができることがあの夢のどこかにあるような気がしました。
とにかく琴音ちゃんと話しがしたい。今はただ、それだけでした。

 毎日の授業は退屈です。黒板に書かれたことをそのままノートに写すだけ。みんな同じ授業を受けて
いるはずなのに、どうしてこんなに差がでちゃうんだろ。
6時間全部、体育だったらいいのに・・・。でも今日は体育なしかぁ・・・。
今度、頭のいい人に勉強の仕方でも聞いてみよう。
そんなことを考えていると、
「松原、当たったぞ」
と、先生に呼ばれました。
「えっ? あ、はい!」
慌てて教科書を手に持ちましたが、何を聞かれているのか分かりません。
「38ページの6行目から読むんだよ」
後ろの席から小さく聞こえ、私は言われた通りの場所を読みました。

 「さっきはありがとうございました」
休み時間になるのを待って、私はさっきの時間、小声で教えてくれた女子にお礼を言いました。
「いいっていいって。気にしないでよ」
屈託のない笑顔を見せた彼女でしたが、すぐに、
「最近元気ないみたいね? 松原さんらしくないじゃない」
「そう見えますか・・・?」
「見えるわよ。いつもと違うもん」
いつもと違うって、私の“いつも”をこの人は見ていたんでしょうか?
「恋の悩みとか?」
「えっ? いや、違いますよ!」
「ふ〜ん・・・」
意味ありげな返答に、
「本当に違うんです」
と、再度念をおしておきました。

 お昼休み。チャイムが鳴ると同時に、食堂に向かいました。購買のパンを買うためではありません。
ここしばらくは、昼食も独りで食べています。何となく琴音ちゃんには声がかけづらくて、同じ食堂に
いても、一緒に食べることはなくなりました。
でも今日は・・・。今日は何かが上手くいくような、そんな希望が湧いてきました。
あの夢のせいかも知れません。
いつものBランチを受け取ると、いつもの席に座りました。この場所はほぼ毎日と言っていいほど、
なぜか空席が続くのです。私の両隣りは、これもまたいつものように空席です。
今日は来る。今日は絶対に来る。私はそう信じていました。そして、私が信じたとおり、私がここに来て
2分もしないうちに、彼女がやって来ました。キツネうどんを持って・・・。
 先に口を開いたのは、琴音ちゃんでした。
「ごめん・・・なさい・・・」
「琴音ちゃん・・・」
「葵ちゃんに・・・黙ってたことがあるの・・・」
「いいよ。話したくなったら、いつでも私に話して」
「信じられないかも知れないけど・・・」
そう言って、琴音ちゃんは話してくれました。
「私の能力が大きくなっていってるの」
「えっ? 大きくってどういうこと?」
「前に私が予知能力を持ってるって話はしたよね」
「うん」
「でもその予知をしないままだと、どんどん能力が使われずに溜まっていくの」
「・・・じゃあ、もしその能力が溜まりつづけたら・・・?」
そう訊きながら、私は恐ろしい想像をしていました。袋かなにかに溜まったものが一気に爆発するような
そんな恐ろしい想像を。
「溜まりすぎたエネルギーが、一気に放出されて暴走する・・・」
「それって、どういうことが起こるの?」
「たとえば周りの窓ガラスが割れたり、物が壊れたり・・・」
琴音ちゃんが最初に言ったとおり、私には信じられませんでした。
予知能力というだけでも凄いのに、その上溜まったエネルギーが暴走するなんて。
「その暴走に葵ちゃんを巻き込みたくなかった・・・」
「琴音ちゃん・・・」
「葵ちゃんにもしものことがあったら、私・・・」
「それで、私に黙ってたの?」
「話そうとは思ってたけど・・・いつ暴走するか分からないから・・・」
「・・・・・・」
知らなかった。今まで何度か超能力については聞いていたけど、そんなことがあったなんて・・・。
「そういえば琴音ちゃん、その、こういう言い方は悪いんだけど・・・その予知って、誰かが不幸な目に
遭うっていう予知だよね」
「うん・・・」
私の言ったことに、琴音ちゃんは少し伏せ目がちに答えました。やっぱり言い方が悪かったと思います。
「具体的にどうなるの?」
「上から落ちてきた物がぶつかったりとか、誰かの近くの窓ガラスが割れるとか」
「それで、その予知は絶対に当たるってことだよね」
「うん」
「それって本当に予知なのかな・・・?」
「えっ? どういうこと?」
「だって予知って天気予報みたいなものでしょ? 最初から分かってるなら、どうにかして避けられる
と思うんだけど・・・」
私は頭から超能力、特に予知については否定していました。
でもそれじゃ、何の解決にもならない。私は今、ふと思いついたことを言ってみました。
「暴走するときは予知しないの?」
「・・・?」
「予知能力が暴走するのに、どうして暴走する時は予知しないのかな」
「あ・・・」
疑問に思ったのはそれでした。その暴走というのが、私には何か見えない力がところかまわず暴れ回る
ようにしか思えません。
もし本当に私の考えが当たっているとしたら・・・。
「琴音ちゃんのその能力・・・もしかしたら別の能力かも知れないよ」
「別の能力・・・?」
「うん。たとえば念力みたいなのとか。だからね・・・」
どうにかして能力の正体を知りたいと思った私は言いました。
「私のことを予知してくれないかな?」
「ええっ!?」
「琴音ちゃんの能力が知りたいから・・・」
「ダメ! この能力は本当に危険だから・・・葵ちゃんを危ない目に遭わせたくない」
「だからってこのままじゃ、何の解決にもならないよ」
「でも・・・もし葵ちゃんになにかあったら・・・」
「私、少しでも琴音ちゃんの力になってあげたいから・・・」
「葵ちゃん・・・」
「能力の暴走でも何でもいい。暴走しそうなら私に向ければいい。琴音ちゃんの役に立てるなら私は
なんだってするよ」
「ありがとう・・・ありがとう、葵ちゃん」
普通では考えられない能力のせいで琴音ちゃんが悩んでいるのに、自分だけ安全なところで見ている
なんて、私にはとてもできませんでした。
今度は私が琴音ちゃんを助ける番だ。そう思いました。

 ようやく2人揃ってのクラブが再開しました。
わだかまりが解けたおかげで、いつもより技にキレがあるような気がしました。
後ろで見ている琴音ちゃんも、心なしか嬉しそうです。
私の蹴りにサンドバックが大きく揺れました。
こうして2人でクラブをすることが当たり前になっていて、逆に独りでいることが寂しくてたまりません
でした。誰かと一緒に同じ時間を過ごすことが、こんなにも温かいことだなんて・・・。
琴音ちゃんに逢わなければ、おそらく今も独りでいたに違いありません。
「・・・!?」
突然小さなうめき声が聞こえました。
「琴音ちゃん!?」
見ると、琴音ちゃんが両手で耳を覆ってうずくまっていました。
もしかして・・・? 私が声をかけようとした瞬間、
「危ないッ!!」
「えっ?」
琴音ちゃんが凝視した先は・・・私のすぐ近く。サンドバックでした。
「逃げてっ!!」





   後書き

 ようやく少し話が進みはじめた気がします。
「夢」編の後の展開はまったく考えてなかったために、相当時間がかかってしまいました。
とりあえずここは、オリジナルのシナリオに従ってみようかと思います。
といっても、浩之や雅史は出しません。出たとしてもせいぜい坂下か綾香ぐらいです。
あくまでこの2人をメインに進めたいのです。
でもそろそろ、綾香さんとか芹香さんが出てくるかも・・・。
まだ何にも思いついていませんが・・・。となると、彼女らの登場はおそらく葵ちゃんを介して、という
ことになるでしょう。琴音ちゃんとは接点がありませんからね。
それでは、琴音ちゃん編をお楽しみくださいませ。



   戻る