陽光−琴音−



 昨日の夢はなんだったんだろう・・・?
学校への道を歩きながら、私はふと思いました。
朝起きてみると、さっき見た夢がはっきりと思い出せました。
自分が言ったことも、周りの状況も。鮮明に。
私には、あの夢が何かを暗示しているように思えてなりませんでした。いま自分が置かれている状況を
考えると、自分ができることがあの夢のどこかにあるような気がしました。
とにかく葵ちゃんと話しがしたい。今はただ、それだけでした。

 午前中の授業を受けている間も、私の中で能力が溢れていることが分かりました。
突発的なことや感情が高ぶらなければ、能力が暴走することはないのですが、それでもいつ暴走するか
分かりません。
もし今、そんなことになったら・・・。
考えただけでも、恐ろしくなってきます。
悪い方向には考えないようにしないと・・・。
そういえばこの先生、いつも問題集しか使わないけど大丈夫かな。
今日も、その前の日も教科書とかは持ってないみたいだけど。
次のテスト、ちょっと心配・・・。
「なに思いつめた顔してんの?」
「えっ?」
声をかけてきたのは、隣りの席の・・・森本さんでした。
「なんか、すっごく難しそうなこと考えてる顔してたよ」
「いえ、そんなことは・・・」
でも、どうしてこの人は私に普通に話しかけてきたのでしょうか?
少なくともこのクラスでは、私の能力のことを知らない人はいないはずだから、こんなふうに声をかける
なんて絶対にしないはずなのに・・・。
「もしかして、ヘンなこと考えるんじゃない?」
「へ、ヘンなことって・・・?」
「どうして私が姫川さんに声をかけたのか、とか」
「・・・・・・」
「やっぱりそうなんでしょ? どう、当たり?」
「はい・・・」
「私は超能力とか幽霊とかは信じるほうだけど、姫川さんが悪意で予知をしてるとは思ってないよ。
だから、周りがどう思っていようと、私にとっては姫川さんは普通のクラスメートだよ」
「お気持ちは嬉しいですけど・・・森本さんに迷惑がかかるといけませんから・・・」
私が言いかけると、
「だ・か・ら。私はそんなことは気にしないの」
「お前ら! 授業に集中しろ!」
・・・怒られてしまいました。
「まあ、そういうことだから」
森本さんは、小声でそう付け足しました

お昼休み。チャイムが鳴ると同時に、食堂に向かいました。購買のパンを買うためではありません。
ここしばらくは、昼食も独りで食べています。何となく葵ちゃんには声がかけづらくて、同じ食堂に
いても、一緒に食べることはなくなりました。
でも今日は・・・。今日は何かが上手くいくような、そんな希望が湧いてきました。
あの夢のせいかも知れません。
キツネうどんを持っていつもの場所に行くと、そこにはすでに葵ちゃんがいました。
葵ちゃん・・・怒ってるかな・・・。
 私はいつもの場所、いつもの席に座り、
「ごめん・・・なさい・・・」
「琴音ちゃん・・・」
「葵ちゃんに・・・黙ってたことがあるの・・・」
「いいよ。話したくなったら、いつでも私に話して」
葵ちゃん・・・怒ってなかったんだ・・・。よかった・・・。
「信じられないかも知れないけど・・・」
俯きかげんに、私は続けました。
「私の能力が大きくなっていってるの」
「えっ? 大きくってどういうこと?」
「前に私が予知能力を持ってるって話はしたよね」
「うん」
「でもその予知をしないままだと、どんどん能力が使われずに溜まっていくの」
「・・・じゃあ、もしその能力が溜まりつづけたら・・・?」
「溜まりすぎたエネルギーが、一気に放出されて暴走する・・・」
「それって、どういうことが起こるの?」
「たとえば周りの窓ガラスが割れたり、物が壊れたり・・・」
何度も経験したことでした。使えば不幸な予知、使わなければ能力の暴走・・・。
望んで得た能力でもないのに、どうして・・・。
「その暴走に葵ちゃんを巻き込みたくなかった・・・」
「琴音ちゃん・・・」
そのせいで葵ちゃんの身に何かあったら・・・私、どうしていいか分からない。
それが怖かったから・・・。
「葵ちゃんにもしものことがあったら、私・・・」
「それで、私に黙ってたの?」
「話そうとは思ってたけど・・・いつ暴走するか分からないから・・・」
「・・・・・・」
せめて暴走する時期くらい分かれば、対策の立てようもあるのですが・・・。
今の私にはどうすることもできません。
「そういえば琴音ちゃん、その、こういう言い方は悪いんだけど・・・その予知って、誰かが不幸な目に
遭うっていう予知だよね」
「うん・・・」
突然の言葉に、私はあいまいに返事をしました。
「具体的にどうなるの?」
「上から落ちてきた物がぶつかったりとか、誰かの近くの窓ガラスが割れるとか」
「それで、その予知は絶対に当たるってことだよね」
「うん」
「それって本当に予知なのかな・・・?」
葵ちゃんの言葉は、まるで予知なんて初めから無いような言い方でした。
「えっ? どういうこと?」
「だって予知って天気予報みたいなものでしょ? 最初から分かってるなら、どうにかして避けられる
と思うんだけど・・・」
私は何も答えられませんでした。
そういえば自分のこの能力について、違う能力かもしれないと考えた事はありませんでした。
「暴走するときは予知しないの?」
「・・・?」
「予知能力が暴走するのに、どうして暴走する時は予知しないのかな」
「あ・・・」
私の体中を電気が走りぬけたような、そんな気分でした。
私はこの能力が初めから他人の不幸を言い当てるだけの予知だと思っていました。
でもそれを別の角度から見てくれる友だちがいました。
もっと、私なんかよりも積極的な目で・・・。
「琴音ちゃんのその能力・・・もしかしたら別の能力かも知れないよ」
「別の能力・・・?」
「うん。たとえば念力みたいなのとか。だからね・・・」
葵ちゃんはそこで一呼吸おき、
「私のことを予知してくれないかな?」
「ええっ!?」
「琴音ちゃんの能力が知りたいから・・・」
「ダメ! この能力は本当に危険だから・・・葵ちゃんを危ない目に遭わせたくない」
「だからってこのままじゃ、何の解決にもならないよ」
「でも・・・もし葵ちゃんになにかあったら・・・」
「私、少しでも琴音ちゃんの力になってあげたいから・・・」
「葵ちゃん・・・」
「能力の暴走でも何でもいい。暴走しそうなら私に向ければいい。琴音ちゃんの役に立てるなら私は
なんだってするよ」
「ありがとう・・・ありがとう、葵ちゃん」
私には・・・こんなに頼れる友だちがいるんだ。
何よりも心強い友だち、葵ちゃんのひと言ひと言が私に自信をつけてくれました。

 ようやく2人揃ってのクラブが再開しました。
葵ちゃんの技はやはり鋭く、サンドバックは大きく揺れ、それを支えている枝も折れそうなほどでした。
エクストリームという大会に出場するために練習している葵ちゃん。
その大会にかける意気込みが、葵ちゃんの技のひとつひとつに表れています。
大丈夫だよ。葵ちゃんなら大会でもきっといい成績を残せるはず。
だって、だって毎日こんなに頑張ってるんだもん。
「・・・!?」
この感覚・・・もしかして!?
「琴音ちゃん!?」
「危ないッ!!」
「えっ?」
「逃げてっ!!」
そんなッ・・・葵ちゃん・・・はやく逃げて・・・。
お願い・・・はやく・・・。





   後書き

 ちょっと間が空きすぎましたか・・・。
まだまだこの2人以外を出すつもりはありません。
実は第3章の内容もまとまってるんですが、それよりもまず第2章を完成させないといけませんね。
さて、琴音ちゃんが予知をしたところで話が終わっていますが、いったい何の予知をしたのか、
それは僕にも分かりません。
この後の展開を全く考えてないのです。
まぁ、きっと木の枝がどうかなって、サンドバックがどうかなる・・・という結果になると思いますが、
それは見てのおたのしみです。



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