夢−琴音−



 ここ・・・どこなの・・・?
気がつくと、私は狭くて暗い部屋に閉じ込められていました。
洞窟のような空間に、わたし独り・・・。
目の前には何もないはずなのに、私の周りにガラスの壁が張られているのが分かりました。
いま自分がどこを向いているのかさえ分からないような、暗黒の世界。おまけに音さえも黒一色のなかに
吸い込まれていくような感じがしました。
体が動かない!?まるで鎖か何かで固定されたように、私の体は自由がきかなくなっていました。
それにさっきから頭が重い・・・。その痛みが伝わって、徐々に力が抜けていきます。
まぶたにも力が入らなくなり・・・、意識が遠のいていくのを感じました。

 話し声が聞こえる・・・。
遠い遠いどこかで・・・。
もしかして私を呼んでる・・・?
でもこの声は・・・わたしの・・・。
「何言ってるの?私は琴音よ」
「早く、琴音ちゃんを元に戻して!」
言い争っている声が聞こえました。
悲痛な、でも確かに聞き覚えのある声が。
「言ってる意味が分からないよ!そんなことより・・・」
葵ちゃんだ。葵ちゃんに間違いない。
「言ったはずよ。ここは琴音の心の中だって。琴音の心の中にある悲しみが私を作り出したのよ。
だから2人は同一人物ってことなのよ」
でも、もう一人は・・・私・・・?
外で何が起きているのか、全く分かりませんでした。
自分が座っていることは感覚で分かりましたが、どういうわけか体に力が入らず、目を開けることすら
できません。
「琴音はあなたに会いたくないの」
もう一人の私が、葵ちゃんに冷たく言い放ちました。
声しか聞こえないので状況はつかめませんが、誰かが葵ちゃんを責めているのは間違いありません。
そしてその誰かは、私自身かも知れません。
「どうして・・・?」
「あなたのせいよ!」
「私が・・・?」
「だってあなたは琴音をかばってばかりいたじゃない。琴音はその事であなたにコンプレックスを抱いて
いたのよ」
しばらくの沈黙の後、
「自分はオドオドしている。いつも明るい葵が羨ましい、ってね」
どうして・・・?もう一人の私だから・・・?
「琴音ちゃんはそんな娘じゃない!」
葵ちゃんが必死に否定してくれてる・・・。
それなのに、私はそれをはっきりと否定することはできませんでした。
絶対にそんなことはない、と言い切る自信がなかったのです。
もしかしたら私・・・気づかない内に葵ちゃんを・・・?
「もう一人の私が言ってるのよ。嘘なわけないわ・・・」
冷たく言い放つ、もう一人の私。一体どんな顔をしてるんだろう。やっぱり私と同じ顔なのかな?
「それにあなただって琴音をかばっていた時、優越感に浸ってたんじゃないの?自分はか弱い琴音を
助けてあげてるんだって」
突き刺すような鋭い声。違う。あの人は私じゃない。大切な友達を平気で傷つけるような人が、私の
分身であるはずがありません。
「そんなことない!」
「琴音をかばうことで満足してたんでしょ?琴音を助けている自分はいい子だって思ってたんでしょ?」
どうして・・・どうしてそんなこと言うの・・・?
「違う・・・そんなことないよ、琴音ちゃん!」
そう言って、葵ちゃんが私のすぐ近くまで駆け寄ってきました。でも私には、体を動かすことも目を開け
ることも出来ず、それを確かめることはできませんでした。
「そうやってまた助けるの?」
その言葉に、葵ちゃんが一瞬立ち止まったのを感じました。
「それが迷惑なのよ!」
それでも葵ちゃんは私のすぐそばまでやって来て、小さく、
「琴音ちゃん、聞いて・・・」
そうささやきました。
私はすぐにでも意識があることを葵ちゃんに伝えたい反面、この場から逃げ出したい思いもありました。
「私ね、琴音ちゃんと初めて話をした時、超能力なんて不思議な力があってすごいなって思った。
だって欲しくて手に入るものじゃないから。でも、それは私の思い込みだったんだよね・・・」
葵ちゃん・・・。
「私に話しかけてくれた時、自分の力のことを知ったら嫌われるかも知れない、って言ってたよね」
私は葵ちゃんと出会った時のことを思い出しました。
「でも私にそこまで話してくれた。それは琴音ちゃんが本当はすごく強いからだと思うの。だって、
そうじゃないと誰にも言えないもん。もし私が琴音ちゃんなら・・・とてもそんなことはできないよ」
私が強い・・・?私はただ、葵ちゃんになら話せると思っただけ・・・。それを強さだと見てくれた
葵ちゃんに、私は何ができるのか分かりませんでした。
「琴音ちゃんは気付いてないかも知れないけど・・・。私はずっと琴音ちゃんに支えられてた。
ううん、支えてもらってたの。本当だよ」
「無駄なことはやめなさい」
「こんな私に接してくれて・・・。本当に嬉しかった・・・」
葵ちゃんに会いたい! 会って話しがしたい! そう強く思った瞬間、小さな音と共に、2人を隔てて
いたガラスにヒビが入りました。
「私は琴音ちゃんの友達だよね?友達だから助けたいと思っちゃだめ・・・?」
亀裂がまた少し、大きくなるのが分かりました。それと同時に、私の体の感覚が少しずつ戻っていき、
ある程度動かせるようになっていました。
「友達だから一緒にいたいと思っちゃだめ・・・?」
私はゆっくりと目を開け、目の前にいる葵ちゃんを見ました。
葵ちゃんもまっすぐに私を見つめています。
「葵ちゃんっ!」
「琴音ちゃんっ!」
私たちが叫ぶとガラスは一気に弾け、たまらず私は葵ちゃんに飛びつきました。
「私・・・琴音ちゃんと一緒にいたい!」
「私も葵ちゃんと一緒にいたい!」
その言葉に嘘はありませんでした。
辺りを見回すと、さっきまでいたはずのもう一人の私は、どこにもいませんでした。





   後書き

 セリフそのものは葵ちゃん編のを、そのままコピーするだけで済むから楽でしたが、眠っている状態
の描写には悩みました。というのも、葵ちゃんが動いている時間のほぼ半分は、隔絶された琴音ちゃんに
動作がなかったからです。おかげで葵ちゃんと琴音ちゃんの分身が出会うまでの文章量は、2人でかなり
差が出てしまいました。
 さて、前回の後書きで書いた3通りというのは、登場人物の性格のことです。
まず中心格は、「勉強はイマイチ・特に運動が得意でもない・しかし明るい性格」。二つ目は、「勉強が
できて成績優秀・体が弱く運動は苦手・声が小さく内向的」。最後は「活発で運動が得意・少々ガサツな
面がある・少し悲しい過去がある」という具合です。
僕はこの3番目が結構好きで、主人公はいいからコイツをメインにした話はないか、とたまに思ったり
します。
 とまぁ、そんな具合で、第2章はまだまだ続きます。



   戻る