第14話 戦力を知る

(雅史派の強さを知った藤田。一方で、雅史はその強さに疑いの念を抱いていた)

 俺の怒りはいつまで経ってもおさまらなかった。
もともと1年の雑魚に期待なんてしてなかったが、相手を1人も倒すことなく全滅したことが気に入らなかった。
今、ここにいるこいつ。
仲間がやられてる時に逃げて来たらしいが、聞き出した情報もさらにつまらねえ。
「ロボットだったんです! 女の子のかっこした・・・」
泣きそうな顔でまくし立てる。
「マルチと同じだったか?」
「いいえ、違いました。髪の長いロボットです!」
「セリオか・・・」
セリオは何度か見たことがある。彼女を見かけるときは大抵、マルチか綾香がそばにいる。
「他の6人は?」
「それが・・・たぶん捕まったと思います・・・」
「そうか・・・」
「なあ藤田君」
いつの間にか委員長がそばにいた。
「捕まったっちゅうことは捕虜やろ? 秘密とか喋るんちゃう?」
「秘密?」
「そうや。こっちに何人くらいおるか、とか」
「心配するな。今のところ知られて困ることなんてねえよ」
「そうなん?」
「ああ」
委員長が何か腑に落ちないような顔をして俺を見る。
「それにしても・・・セリオが相手ってのは厄介だな」
「そうやな」
「こっちも強力な味方をつけねえと・・・」
絶対に勝てると思っていただけに、敵の戦力を知った俺は次第に焦りはじめていた。
石動が死んでからもう1ヶ月以上が経つ・・・。
あの時、雅史を始末していればよかったぜ・・・。
「藤田君。そんな味方おるん?」
「あ? いや、いねえけど・・・。でもなんとかしねえとな」
「そうなんか・・・」
ん?
なんだ委員長? やけに心配そうだな。
いつもは我関せずって顔してるのに。
「どうした?」
「ん? ああ・・・。なんか落ち着かんわ。向こうがそんな強いのに、こっちはマルチだけやで? 早よどうにかせんと
佐藤君に負けてまうで」
「え、ああ。心配してくれてんのか、ありがとな。でも大丈夫だぜ。何とかなるって」
「そんな悠長なこと言うとってええん? 今からでも誰か味方につけたほうがええやろ」
・・・・・・?
今日の委員長、やけに主張してるな。
なんかヘンだぞ・・・。
いつもと違う委員長に疑問を抱きながらも、俺はその委員長が言ったとおり、早急に強力な味方をつける必要に
迫られているのを充分に解かっていた。
彼女の前だから強がってはいるが、実際は今後の動きをどうすべきか悩んでいた。

 わずか数分のビデオに、とても怖い光景が映っていた。
いつも無口だけど頼りがいのあるセリオさん。
そのセリオさんと同じロボットが、1年生の男子を次々と倒していく。
男子たちは首を強く打たれて気を失っていく。
「なるほど・・・これがHMXの強さか・・・」
ビデオを観終わった垣本さんがしきりに感心してる。
「違うわ。HMX−13型よ。同じ型でもマルチとは違うわ」
来栖川さんが付け足す。
「ああ、そうだったな。でも、勝ったも同然だな」
「ええ、そうね」
たしかに。たしかにこれと同じのが1000体もあるんだから、勝つのは間違いないだろうけど・・・。
何か私は納得できないでいた。
どういったらいいのか・・・。何だかこの戦いがもっと長引くような・・・そんな予感。
「どうしたの、姫川さん? 難しい顔して・・・」
突然、佐藤さんに声をかけられて私は我に帰った。
「観たくなかったら観なくてもいいんだよ。女の子が観るようなものじゃないしね」
「あ、いえ、そうじゃないんです!」
「・・・?」
「あの、なんていうか・・・釈然としないんです・・・」
「何がだい?」
「うまく説明できないんですけど・・・その・・・簡単には勝てないというか・・・」
「楽観視できないってことだね?」
「はい」
佐藤さんは少し考えてから、
「僕も13型だけで勝てるとは思ってないよ。戦いを申し込まれておきながら、たった7人しか来なかった敵の行動も
気になるしね」
佐藤さんがそう言うと、今度は来栖川さんが逆のことを言ってきた。
「ちょっと姫川さん、心配しすぎよ。あなたがそんなこと言っちゃ、みんな不安がるじゃない?」
「いえ、そういうつもりじゃなくて・・・」
「冗談よ」
え・・・?
いたずらっぽく笑う来栖川さん。
「私もちょっと引っかかることがあってね。これだけじゃ万全とは言えないわね」
来栖川さんがそう言うと、垣本さんが驚いた風に佐藤さんと来栖川さんを見た。
「ってことは、安心しきってたのは俺だけかよ?」
「そういうことね」
そう言って来栖川さんは笑ったけど、すぐに険しい顔をした。
「それにしても・・・」
「どうしたんですか?」
「姉さんがいないっていうのが気になるわね・・・」
芹香さんのことだ。
前に見たことがある。昼休みに校庭のベンチで座ってた、あの人だ。
おカルト研究会・・・かなにかに入ってたと思うけど。
「まさか・・・かん・・・」
垣本さんが何か言いかけて、慌てて口を噤んだ。
「なに?」
「いや・・・監禁してるんじゃねえかって」
「監禁!?」
来栖川さんの口調が強くなる。
「そんなのヒドすぎるわ! もしそうなら、今から――」
「待って、来栖川さん!」
すぐにでも行動を起こしそうな来栖川さんを止めたのは、佐藤さんだった。
「前も言ったけど、浩之はそんなことする奴じゃないよ」
「どうして分かるのよ!?」
「あいつは昔からプライドが高いんだ。何でも後から入ってきては上に上がろうとする。そんな奴が女の子を人質に
とったりするとは思えないよ」
「そうだぜ。それにあいつは女には甘いからな。女が嫌がることはしねえさ」
垣本さんも佐藤さんも、必死に来栖川さんを止めようとしてる。
きっと来栖川さんの存在が私たちにとってなくてはならない存在だからだ。
あのロボットの大軍も、来栖川さんが用意してくれたものだ。だからこそ、いま来栖川さんに抜けられては困る。
私にだってそれくらいは分かる。
「・・・・・・」
「いないっていうのだって、あいつらの勘違いかも知れないし」
「・・・そうね。まだハッキリしたことが分かってないんだから、下手に動くのは軽率よね」
2人の説得がうまくいったらしく、ようやく来栖川さんも落ち着いたみたい。
「それで、この後はどうする?」
垣本さんが佐藤さんに向き直る。来栖川さんも佐藤さんの考えが聞きたいみたい。
「うん、僕にいい考えがあるんだ」
いい考えって何だろう?
「来栖川さんって他の会社の人と面識ある?」
佐藤さん、何を訊いてるんだろう。
他の会社って・・・。
「え? 他の会社? あるわよ。これでも跡取り候補なんだから」
自慢気な来栖川さん。たしかにあんなに大きな会社の跡取りなら、顔も広そうだけど。
「銀行とか?」
「ええ、そうね。中央大帝銀行の代表とは何度か食事したことあるわ」
来栖川さんって、普段何やってるんだろう。
ちょっと失礼な疑問だけど、気になるな。
「ちょうど良かった。来栖川さんにお願いがあるんだけど」
「なに?」
なんだか、私と垣本さんは置いてけぼりみたい・・・。
でも佐藤さんの目は真剣だ。それを聞き漏らさないようにしてるのか、垣本さんの視線はずっと2人に釘付けだし。
「うん。味方は多いほうがいいと思ってね」
そう言う佐藤さんの口調は、なんだか少し怖かった。

 そしてもうひとつの集団。
かつては立場を利用して権威を振るっていたが、今はそんな面影など微塵も見られない。
「私達がこのままでよろしいのでしょうか?」
口火を切ったのは、ハゲあがった頭が特徴の数学教師。
「だいたい校長があんなつまらない規則を作ったりするから・・・」
「あら? それをたった一人、賛成して職員室中に呼びかけていたのは誰でしたかね?」
「ぐっ・・・」
言い争っているのは教頭と生活指導。
この2人は昔から仲が悪い。
「もめごとは無しですよ。それより校長がいなくなった以上、少なくとも校長に代わる立場の者は必要ですね」
「そうでしょうか? 無能な責任者はやることも、そのあとの処理もろくなことがない。それは今回の事で学んだと
思いますが?」
会議室に不穏な空気が流れた。誰かが何かを言う度に、誰かの否定的な攻撃がくる。
しばしの沈黙のあと、生徒指導の教師が言った。
「いまはそんなことより、2年の藤田をどうにかすることです」
「そのことですが、なぜ藤田が我が物顔で歩いているのですか? あの時、校長はたしかに藤田ではなく、佐藤に
権利を手渡したハズですが」
「それは私も思っておりました。ご存知なら理由をお聞かせ願いたい」
どうやら事情を知らない教師が多いらしい。
「説明しましょう。校長は以前、藤田と佐藤に、先に石動を捕えたものに一切の権利を与えると約束しました。
結果、佐藤がその権利を受け取ることができたのですが、藤田がそれを不服とし、奪取しようとしたそうです」
「なんて奴だ」
「藤田にはあの不良グループの山吹と古賀がついていますからね。佐藤はそれに屈して権利を譲渡、その後、
どこに行ったかは分からない状態です」
「なるほど。不要な争いは避けるか。佐藤って奴も賢明な判断だったかもな」
「情けない。一度は学校の権利を背負っておきながら、そんな脅しに負けるなんてな」
「あいつらを相手に勝てるのは、体育教師であるあなたぐらいですよ」
生活指導が皮肉たっぷりに言った。
「このまま藤田らをのさばらせておく訳にはいきませんな。こうなったら、我々が実力を持って――」
「その考えは早計です。今や生徒のほとんどが藤田に付いています。それに噂によると、どうも職員の中にも
藤田に加担している者がいるそうです」
生活指導がチラッと見たのは、隣にいる英語教師だ。
やはりこの2人も仲が悪く、話し合いになるといつも互いを攻撃しあう。
傍で聞いている者は、またか、という思いに駆られるが、当の2人は毎日が真剣勝負だ。
「その目は私を言っているようですね。先に申し上げおきますが、私は藤田に加担などしたことありませんよ」
慌てて否定するところを見ると、どうも怪しい。
この男、本当は藤田を支援しているのでは?
そう思った職員が、少なくとも5人以上はいた。
「どちらにしても、今は様子を見るほうが賢明かと思います」
争いを断ち切ったのは、進路指導の責任者だった。
「私も賛成です。実害もないわけですから、今は・・・」
「そうですね。何かあった時に対策を練っても十分間に合いますよ」
多くはさっさと切り上げたがっているようだ。特に反対意見も出ず、場は様子見という結論に達した。

 

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