第22話 混戦

(13型との直接対決では、芹香の作った振動棒が大いに役立った。 しかし・・・)

 俺たちは先輩にもらった振動棒で、迫り来るセリオそっくりのロボットたちを次々に片付けていった。
強力な魔法を施されているらしく、表面がわずかに触れるだけで凄まじい衝撃波を生み出すらしい。
ロボットたちはこの振動棒によって機能停止にまで追い込まれる。
だからといって、俺たちが優勢だというわけではなかった。
ロボットが右腕をこっちに向けると、俺たちはそれに全意識を集中させなければならない。
真っ直ぐに突き出された手の甲から、よく分からないが光の弾が発射されるからだ。
さっきも俺の横で戦ってた奴が、この光弾をまともにくらって昏倒した。
死んではいないと思うが、今はそれを確かめる余裕などない。
幸い、この光弾は振動棒で弾き返すことができた。
跳ね返った光弾が逆にロボットに命中すると、オレンジ色の光を拡散させてその場に崩れ落ちる。
ロボットにとってはこの振動棒と光弾は同じくらいの威力があるらしい。
「葵、もう大丈夫よ」
見ると坂下が葵ちゃんを縛っていた鎖をはずしているところだった。
鎖をはずすことで無防備になった坂下を守るため、俺は掲揚柱の近くに陣取る。
「好恵さん、助かりました・・・」
「怪我はない? ・・・あ、血がでてるじゃない」
後ろで坂下がゴソゴソとやっている。
ロボットたちは防御が手薄になったこちら側へ攻撃を集中させてきた。
剣道の心得がない俺は、ヘタに振動棒は振るわずに守りに徹する。
先輩のかけた魔法は棒表面から数センチまでをカバーしていた。
細身の金属棒で針のように鋭い光弾を、俺みたいな奴が弾き返せるのはそのおかげだ。
「葵、戦える?」
「はい、大丈夫です」
そういう葵ちゃんだったが、さっきまで縛られていておまけに怪我までしてるらしいのに、大丈夫だろうか。
「おい、素手で戦うつもりかよっ?」
正面のロボットから視線を離さずに坂下に訊ねる。
「それが空手よ。甘く見ないで」
「・・・そっか」
それ以上何も言えなくなってしまった。
「”新たな敵戦力を確認。排除します”」
「”了解”」
ロボット同士でそんなやりとりが行なわれていた。
ちっ、いちいちコミュニケーションとるのか・・・こいつら。
となると、余計な作戦とか立てられると厄介だな。
「坂下、葵ちゃん。山吹のいるところまで行こう。ここにいたら狙い撃ちされる」
「分かったわ」
「・・・・・・」
「葵ちゃん?」
「え、はい! そうですね、その方が安全ですし」
なぜか黙り込んでしまった、さっきの葵ちゃんが気になった。

 なかなか粘るね。
山吹たちと戦っている浩之を見て、僕の胸は期待に躍っていた。
松原さんの処刑は妨害されてしまったけど、浩之がやって来ることは予測の範疇(はんちゅう)だった。
僕はその時に13型を模擬テストのつもりで投入することに決めてたんだけど。
もしかしたら、これが最初で最後の実戦になるかもね・・・ふふ・・・。
「マサシ、楽しそうダネ?」
宮内さんが横から覗き込むようにして訊いてくる。
「分かるかい? 今まで僕を出し抜いてきた浩之が・・・もうすぐこの世に別れを告げる・・・つまり死ぬんだよ」
興奮気味になる言葉を、宮内さんに分かりやすいように平易な表現に換えるのに苦労した。
「宮内さんも楽しそうじゃないか、得意の弓矢が披露できて」
混戦となった校庭に向けて、宮内さんが弓をつがえた。
標的は浩之以外の敵。ここで簡単に殺しちゃ面白くないから、僕があらかじめ言っておいた。
「さあ、記念すべき1本目は誰に当たるのかな?」
僕としては松原さんを狙って欲しかったんだけど、標的は彼女に任せるしかない。
「Shoot !!」
かけ声と同時に、矢は真っ直ぐに校庭に伸びた。
その先には13型と戦っている1人の浩之派。
僕の知らない顔だった。
「・・・・・・」
矢は――ほんの僅かに左にずれていたせいで、13型に命中してしまった。
胸元に刺さった加工矢を引き抜くと、13型はまた戦いに意識を戻したらしい。
「 I'm sorry. The aim has separated... (狙いがはずれちゃったよ・・・)」
申し訳なさそうに言う宮内さん。
「今度はハズさないヨ」
2本目の矢を構える。
「誰に当たるのかな」
今度こそ宮内さんの矢で誰かが昏倒するのを見たい。
そういえば、石動の連中と戦ってた頃、浩之には宮内さんがついていたんだった。
後で聞いた話では、松原さんと連携して石動の手下である屈強な男子生徒を屠ってきたらしい。
僕としては松原さんをも仲間に引き入れ、レミィとともにかつての武勇伝を再現してほしかったけど・・・。
宮内さんという戦力が手に入っただけでも十分な収穫だ。
欲張りはいけないかも知れないな。
宮内さんは校庭に向けた矢を放たない。
「どうしたの・・・?」
と声をかけようとした瞬間、その矢じりは間違いなく僕に向けられていた。
「ちょ、ちょっと・・・なんでこっちに向けるんだい?」
僕は少しだけ慌ててしまった。
できるだけ感情は表に出さないように気をつけてはいるのだけれど・・・。
「 Of course, it is because I am aiming at you ! (雅史を狙っているからだよ!)」
よく聞き取れなかったが、何かの間違いではないようだ。
彼女は正気だ。正気のうえで、僕を狙っているんだ。
「マサシも・・・マサシもヒロユキと同じだよ。人の生きる死ぬを楽しむなんて・・・! こんなコトまでして・・・・・・。
結局、アナタもヒロユキと同じだヨ!!」
僕の喜は一気に怒へと変わった。
「同じだって・・・? 僕と浩之が・・・?」
同一視されたことに、僕の精神は安定しなかった。
「ふうん・・・。ところで、今、僕にそれ向けてるけど。初めからそのつもりだったの?」
「マサシがアオイを処刑するって言った時からネ!」
弦がさらに耐性限界外まで引き伸ばされた。
「あはははは・・・。いいよ、撃ってごらんよ。だけど僕は1歩も動かない。それでも自信あるかい?」
そして言ったとおり、僕は動かなかった。
彼女がいつか、浩之に言っていたことだ。
『アタシ、動くものなら絶対にハズさないよ』
そうだ、確かにそう言っていた。
”動く標的には百発百中”
正反事象で考えれば、”動かないものには絶対に当たらない”ハズだ。
宮内さんの心は読めていた。
僕は自分の洞察力の深さに我ながら恐れを抱く。
宮内さんの手が小刻みに震えるのが見てとれた。
刹那、宮内さんの体は背後からの衝撃に耐え切れず、僕の足元に崩れ落ちた。
「もっと賢くならないとダメだよ。13型が僕の敵全てに攻撃するって、知らないハズはないよね?」
至近距離からまともに光弾を受けた宮内さんに、僕の言葉は届いているのかな。
「そう・・・君が僕を狙った瞬間から、君はもう僕の敵なんだ・・・」
僕は目の前の――宮内さんの背後にいた13型に校庭の戦いに加わるように命令すると、もうひとつ僕に向け
られた視線・・・姫川さんのほうに振り返った。
「ごめんね、大人気ないところ見せちゃって・・・。もうすぐ終わるから」
それだけ言って、僕は再び気を取り直して目の前の戦いを観戦することにした。

 戦いは優劣が誰の目にも分かるほど、極端化していた。
もともと200対1000と、数の上でも不利だった浩之派は次第に追い詰められていった。
劣勢の理由は数の差とという単純な要素だけではない。
13型の正確な射撃が、浩之派の戦力をひとり、またひとりと屠っていく。
対する彼らも振動棒で応戦するが、スタンガンの多重攻撃をすべて防ぎきることはできない。
時々、イノシシ武者が蛮勇をもって13型に飛び込んで立ち回るが、わずか3体を機能停止に追いやっただけで、
逆に自分が光弾の餌食となる。
そんな中、山吹と古賀は慎重だった。
相手に背を向けないように後退しながら、しかし相手の攻撃が弱まった時には積極的に攻める。
その基本を周到した戦い方は誰にもマネができなかった。
しかし。
1000体を相手に2人が頑張ったところで、戦況は何も変わらない。
気がつけば、浩之たちは校庭の真ん中で防御に徹していた。
全方向、360度から迫り来る13型に、もはや自分の身すら守れなくなっていた。
その様子を満足げに見下ろす雅史が、左手を軽く振った。
すると容赦ない攻撃をしかけていた13型の動きが一斉に止まる。
浩之たちも防衛の手を止めた。
一瞬の静寂のあと、
「浩之! 君たちはよく戦ったよ。13型相手にここまで生き延びたんだからね」
浩之が雅史を睨みつけた。
「松原さんも坂下さんも、本当に見事だったよ。だけど・・・それももう終わりだ」
普段はあまり大声を出さない雅史が、校庭に響き渡るような声で宣告する。
「最後のチャンスだ。降伏しなよ、浩之! そうすれば命くらいは助けてやってもいいよ」
雅史が浩之の名前を呼ぶ時は、いつも憎悪まじりの叫びに変わる。
だが他人に、とりわけ雅史に浩之が屈するハズもない。
浩之の答えは誰にも分かっていた。
「ふざけんな! 誰がお前なんかに!」
状況をわきまえない浩之の空威張りが、校庭に虚しく響く。
「そうかい! それじゃあ、仕方ないね!」
雅史が憎々しげに言いながら、左手を振る。
すると待機モードから、再び戦闘モードへと移行する13型。
浩之たちをぐるりと取り囲んだ・・・今はもう800体ほどに減ってしまったが、13型が右腕を前に伸ばす。
その腕の延長線、交差するところには雅史の今もっとも憎むべき浩之がいる。
山吹は静かに振動棒を構えた。古賀もそれに続く。
葵は空手をベースにした独特のエクストリームスタイルで応戦するつもりだ。
もちろん、葵とちがって空手一筋の好恵は空手の型をとる。
浩之は雅史から目を離さないようにしつつも、振動棒を手近な13型に向ける。
いつ撃ってきても、すぐに弾き返せるように油断なく構える浩之。
その時、校門から車の音が聞こえてきた。
音はどんどん大きくなっていく。
「ん・・・?」
雅史は校門の方を見た。
そしてすぐに、その目が大きく見開かれる。
トラックが・・・いや、それよりももっと大きな車が校庭に割り込んできた。
見たこともない車両だった。いつかテレビで見た装甲車のような、そんな重々しい雰囲気の車だった。
「浩之ちゃんっ!!」
聞き覚えのある声が車の中から聞こえてきた。
と同時に、装甲車の両側が観音開きのように展開した。
雅史の表情がこわばる。
浩之たちも何が起こっているのか分からなかった。
だが、中から聞こえる声だけは聞き間違えようがない。
「あかりかっ!?」
浩之が確かめた。
展開された装甲車から出てきたのは、あかりではなかった。
「なっ・・・!!」
校庭に降り立ったのは、マルチだった。
何体ものマルチだった。
レオタード調のコスチュームに身を包んだマルチを見て、浩之と雅史は同時に彼女らの正体を把握した。
あれが例の軍隊か・・・!!

 

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