第56話 ラボ5
(ついに”管理者”が動き出した。次々に放たれる刺客が人間を容赦なく襲う)
左右の壁の一部分が開いた。
いや、壁に見えただけでそれは扉だった。
開かれた扉の向こうから見たこともないロボットが数体現れた。
セリオからさらに感情を取り除いたような、空虚感の漂うロボットだった。
それらが葵たちの前まで来て止まった。
咄嗟に葵が琴音をかばうように前に出た。
琴音は何か言いかけたが、張り詰めた雰囲気が彼女から言葉を奪った。
今はそれどころではない。
葵も琴音も死を覚悟して戦わねばならないのだ。
おそらく勝利することのできない戦いに身を置き、彼女らは何を思うのだろうか。
無表情のロボットが葵を威圧するように立ちはだかる。
葵も気負いしないように構えた。
『人類を滅する。それが私の使命・・・・・・』
セラフの言葉と共にロボットが動き出した。
1人が葵めがけて上段蹴りを放つ。
葵はそれを余裕で躱す。
モーションの大きい隙を狙って葵が力いっぱい拳を突き出した。
ロボットは抵抗することも踏み止まることもなく吹き飛ばされる。
それを見ていたロボットが今度は2人で迫る。
それぞれの格闘スタイルで攻撃を繰り出すが葵には当たらない。
彼女にとっては練習相手にもならないほどの脆弱な敵だった。
瞬く間にロボットたちは昏倒した。
2人は思わず顔を見合わせた。
おかしい。あまりにも呆気ない。
これまでに戦ったロボットたちのほうがよほど強かった。
『人類は存在してはならないのです・・・・・・』
再びセラフが宣告すると、またもロボットが現れた。
さきほどよりも少し多い。
それまで恐怖心に捕らわれていた葵だったが、今ので持ち前の自信を取り戻したのか、
今度は自分から攻撃をしかけた。
「やあっ!」
自らの気合を引き出すかのごとく、掛け声とともに放つ上段回し蹴り。
セラフの放つ部下たちは葵の素早い攻撃に散った。
これにはさすがに琴音も訝った。
”管理者”が近くにいることは間違いない。あるいはこの施設そのものが”管理者”なのかもしれないが、
どちらにせよ自分たちは今、中枢にいる。
にもかかわらず送り込まれる刺客が無意味なほど弱い。
その上、断続的に出現する点も理解出来ない。
なぜエージェントを繰り出してこないのか?
敵にしてみれば無駄に戦力を失っているだけのように見える。
だが次に送り込まれた刺客が、琴音の疑問の答えとなった。
左右の扉から現れ出でるロボットたち。
それらが一斉に葵に向かってくる。
もはや恐れはない。
「たあぁっ!!」
気合一閃。回し蹴りとともに凄まじい旋風が巻き起こる。
「えっ・・・・・・?」
予想しなかった事態に葵は戸惑った。
それまで緩慢で無反応だったロボットが上体を反らせ、葵の得意技ともいえる回し蹴りを躱したのだ。
モーションの大きな技を出したことで体勢を崩しかけた葵だったが、すぐに第二撃に転じる。
動きも小さく、瞬発力でダメージを与えるパンチの応酬。
ロボットたちはその動きを見切ることができず、次々と昏倒していく。
しかし時間をかけすぎたため、葵が全てを倒しきる前に次のロボットたちが迫ってきた。
そこで葵はようやく変化に気付く。
琴音は自分が見つけた答えを確信した。
少しずつ、少しずつではあるがロボットたちの動き方が変わってきたのだ。
「はぁっ!」
何体もの刺客に怯むことなく闘う葵だが、1体を倒すのにかかる時間は明らかに長くなっている。
その間にも次々に刺客が送り込まれる。
「松原さん、気をつけてっ! 敵は松原さんのデータを使って強くなっていますっ!」
琴音が叫んだ。
その言葉を聞いても、前線で闘う葵が理解するには若干の時間が必要だった。
言葉よりも体が理解していた。
たしかに琴音の言うとおり、刺客の強さは後に相手にするほど強くなっている。
いずれ個々の戦闘力は葵に並ぶだろう。
それがいつになるかは分からないが。
葵の体力が持つハズがない。
琴音が思案している間にもロボットたちは数を増していく。
データを得、さらに強くなって。
琴音は意識を押し寄せるロボットたちに集中させた。
ふたりにとって幸いなのは、刺客が葵だけを狙っていることだ。
これなら琴音が能力を解放する時間を充分に稼げる。
「松原さん・・・・・・もう少しだけ時間を・・・・・・」
もはや1対1でなければ倒せないほどにロボットたちは強化されていた。
巧みに体を運び、同時に複数を相手にしないように闘う葵。
「こ、琴音ちゃん・・・・・・ッ!!」
不意に背後から聞こえた声に琴音の集中は途切れた。
聞き覚えのあるその声。琴音は振り向いた。
後ろにある3つの扉のうち、ふたつが開いていた。
ひとつは葵と琴音が来た道。
もうひとつは・・・・・・。
「藤田さん・・・・・・!?」
信じられない、という表情で凝視する琴音。
そこにいたのは浩之だった。
後ろには彼に着いてきた男子や12型もいる。
刺客たちの動きが止まった。
突然の乱入者に惑っている様子だった。
「葵、いるのね?」
好恵が浩之を押しのけるように入ってきた。
「好恵さんっ!?」
自分を呼ぶ声に振り返る。
いるハズのない人物に葵も琴音も驚きを隠せない。
それは浩之たちも同じだった。
『愚かな人間が何人集まろうと、私を止めることはできません』
セラフの声が聞こえた。
動きを止めていたロボットたちがそれに反応する。
いまや強大な存在となった刺客に葵が先制攻撃をしかける。
「葵ちゃん! 俺たちも手伝うぜっ!」
葵が狙われていると知った浩之と好恵は果敢にも敵めがけて走り出した。
そのあとを12型がスタンガンを構え追う。
戦況は一変した。
武器を携帯していない刺客に対して、12型のスタンガンは予想以上の効果を発揮したのだ。
せっかく自慢の空手の腕を振るえると思っていた好恵は不満げだった。
葵はこの間に消耗した体力を少しでも回復させようと混戦から離れた。
「姫川さん?」
そんな葵の前に立ったのは琴音だった。
油断なく刺客と12型の戦いを見つめながら囁く。
「もし松原さんが狙われても、私が防ぎますから」
しかし見る限り、その心配はなさそうだ。
いかに葵との戦いでデータを蓄積し強化されたとはいえ、それは素手による格闘でしかない。
スタンガン相手では敗北は火を見るよりも明らかだ。
それでも勝負が着かないのは刺客が際限なく送り込まれてくるからだ。
戦況を冷静に見つめる琴音は、今日まで何度も感じた嫌な予感を覚えた。
キディを先頭とする12型部隊は浩之らが通ったであろう道を走りつづけた。
地上で見たような敵が出現しない点を考えれば、浩之たちは無事だと思っていいだろう。
不意にキディの足が止まった。
「これは・・・・・・」
足元に広がる惨状を見て、キディはここで何があったのかを悟った。
敵、味方の残骸があちこちに散らばっていた。
かなり激しい撃ち合いが展開されたのであろうことは容易に想像がつく。
「キディさん、残骸の数が少なすぎます。皆様は無事と判断してもいいでしょう」
12型が覗き込むようにして言った。
たしかに言うとおりだった。
はっきりとは見ていないが、浩之たちに着いていった12型は30体程度だった。
それがここにはほんの数体にとどまっている。
具体的に数が分からないのは敵部隊の残骸もかなり混ざっているからだ。
さらに人間の姿が見当たらないことにキディは安堵した。
やはり浩之たちは生きているのだ。
一行はさらに億を目指した。
人間と違い、彼女らはこの果てしなく続く通路を見ても錯覚など起こさない。
ただ目的のために走るのみだ。
その途中、キディはあることを考えていた。
エージェントのことだ。
キディにはあれが自分と同じロボットであるとは信じられなかった。
というのも彼女が起動した時、開発陣から、
『現時点での最高水準を誇るロボット』
と評価され、キディも幾度となくその賛辞を耳にしていたからだ。
これがキディにとって少なからず悪影響となった。
つまり自信過剰に繋がってしまったのだ。
マルチに比べれば多少の感情抑制が施されているものの、思考や感情表現は
人間のそれに限りなく近い。
それがキディからいくらかの冷静さを失わせていた。
イライラする・・・・・・。
エージェントとの闘いを終えてしばらくし、キディに芽生えた感情がそれだった。
勝利を手にしたものの苦戦を強いられ、奥の手であるシールドを使わなければ勝てなかった相手。
だから多勢の12型を率いていると安心する。
同じ研究所で生まれた自分より劣る”姉たち”を見ることで、キディは安息を得るのだ。
ステイアもまた、雅史やセリオを助けるために施設の中を走っていた。
もしかしたら地上の13型は全滅したかもしれない。
しかしステイアにはデメテルを相手にした時点で、地上の戦力が絶望的であると判断した。
そんな中でテミステーが以外にも人間側に協力的だったのは不幸中の幸いだった。
もしかしたらこの施設の中にもテミステーのようなエージェントがいるかも知れない。
ステイアはこの絶望的な状況の中で希望的観測を願った。
走っている最中、ステイアは雅史よりも先にセリオの安否を案じた。
彼女には自分のように傷を修復することはできない。
だが戦闘能力の高さは13型の比ではない。
それは彼女と拳を交えたステイア自身がよく知っていることだ。
だが相手がエージェントとなれば、セリオが生き延びるかどうかは疑問だ。
ステイアでさえ辛勝だったあの計り知れないロボットがセリオたちの前に現れていたら・・・・・・。
ステイはそんな最悪の状況を否定するかのように走り続けた。
ここまで戦闘が行われた形跡は見当たらなかった。
白壁はどこまでも続いており、焼け焦げたあともない。
雅史たちに着いた13型はスタンガンを装備していたから、銃撃戦ともなれば
どこかに着弾した痕跡があるハズだ。
「あっ・・・・・・!」
思わずステイアが声をあげた。
その声に前を歩いている一団が振り返った。
雅史たちだ。
「ステイア!? 無事だったんだね?」
真っ先に姿を認めた雅史の表情がほころんだ。
「ステイアさん・・・・・・」
セリオが駆け寄ってきた。
「良かったわ・・・・・・セリオも無事だったみたいね」
ステイアの表情もようやく和らいだ。
「ええ、ここまで敵の襲撃はありませんでしたから」
相変わらず素っ気無いセリオの受け答えも、今のステイアには新鮮に感じられた。
「佐藤様、ご心配をおかけしました。これより皆様を護衛いたします」
「君がいてくれると心強いよ。ただでさえ、ここは不気味なところ・・・・・・」
そこで雅史はステイアの後ろを見て口ごもった。
「もしかして他の戦力は全滅かい・・・・・・?」
「・・・・・・地上で例の襲撃者と交戦してはいますが・・・・・・全滅したものとお思いください・・・・・・」
テミステーを思い出しながら、ステイアは申し訳なさそうに言った。
「あの後、さらに2人のエージェントが現れました。1人は倒しましたが、もう1人は13型を攻撃しているかと思われます」
雅史はステイアの微妙な言い回しに気付いた。
「”思われる”ってどういうことだい?」
「残るエージェントは・・・・・・他の敵とは違いました。どちらかといえば私たちに協力的です」
「でも13型と闘ってるんだろ?」
「それはそうですが、彼女は本意では闘っていません。何者かのプログラムがそうさせているようです。
ですからそのプログラムを破壊すれば彼女の活動も止まるハズです」
「プログラムか。君の言っているのと同じかどうかは分からないけど、さっきヘンな声を聞いたよ」
雅史の肩が小さく揺れた。
「君が以前、始末しそこねた姫川さんと松原さんもここにいる・・・・・・」
セリオの視線がわずかに動いた。
雅史を見、そしてステイアを見た。
「あの2人が・・・・・・? 分かりました。見つけ次第、始末いたします」
そう宣言して、ステイアは雅史に悟られないようにセリオにサインを送った。
”傷つけたりしないから”
人間には決して読み取る事のできないロボット同士でのみ交わされるテレパシー。
セリオは表情こそ変えなかったが、この場を収めたステイアに心から感謝した。
「よし、じゃあ仲間もそろったところで行こうぜ。早く終わらせよう!」
男子が元気よく言った。
空元気でしかないが、彼の喚声は雅史たちを奮い立たせるのに充分だった。
くそ、これじゃキリがねえ。
俺たちは次々と迫ってくるロボットたちをスタンガンだけで退けていた。
敵は武器こそ持っていないが頭数が多く、まったく気が抜けない。
幸い部屋はかなり広いので混戦になることはなく、同士討ちは避けられる。
『人間は滅ぶべきです。存在してはならないのです』
時々聞こえるあの声。抑揚のない呪詛の言葉。
あれを聞くと寒気がする。
「くそっ! 弾切れだ!」
後ろでそんな声が聞こえた。
弾切れだって!? 冗談だろ!?
たしか発射回数に制限はないって言ってなかったか!?
もしかして、俺たちのと12型のは違うのか?
「これを使ってっ!!」
激戦の中、坂下が自分のスタンガンを投げ渡した。
「え? い、いいのか・・・?」
「私には必要ないわ!」
言いながら拳だけでロボットを屠っていく。
しかし素手では効果は薄く、1対1に持ち込むのがやっとの様子だった。
俺は12型の後ろに回り込み、最も近い敵だけを狙う作戦に切り替えた。
この銃に弾数制限があると分かった以上、ヘタに撃つのは危険だからだ。
だが甘かった。
再びあの声が聞こえた直後、扉の向こうから1体のロボットが姿を現したからだ。
ここまでに見たどのロボットとも違う雰囲気だった。
エージェント・・・・・・。
俺は地上でキディと闘っているであろうロボットを思い出した。
たしかあいつもこんな感じだった。
小柄・・・・・・じゃねえな。
坂下くらいの背丈の女の子。
冷ややかな目で俺たちを見ている。
12型は群がる雑魚を相手にするのに必死なのか、この乱入者に気付いていないようだ。
しょうがねえ、俺が片付けてやるか。
女の子の恰好をしているから多少抵抗はあるが・・・・・・。
「くらえっ!」
憎しみたっぷりに俺はトリガーを引いた。
だが・・・・・・。
「な、んで・・・・・・?」
俺は確かに見た。
光弾は間違いなくロボットに当たる進路で飛んだ。
だがあのロボットは当たるか当たらないかの瞬間、身を屈めたようだった。
それも恐ろしいスピードで。
実際、残像でしかその動きが見えなかったくらいだ。
ロボットが俺を睨んだ。
やばいんじゃねえか・・・・・・。
「先輩! 逃げて下さい!」
葵ちゃんの声が聞こえた。
その口調は何かを知っている風だった。
ということはやっぱり逃げたほうがよさそうだ。
だが、俺の足は竦んでしまって動かない。
ヘビに睨まれたカエルのように俺の両腕は、あのロボットに向けてスタンガンを構えたままだ。
トリガーを引く指にも力が入らない。
ゆっくりと近づいてくる・・・・・・。
俺は固まった指に全力を込めた。
バァァンッッ!!
快い音と共に光弾が発射される。
ムダだった。
まるでビデオを高速再生したみたいに目にも映らないほどの速さで身を躱すロボット。
な、情けねえ・・・・・・。
今の俺はさっきの抵抗が精一杯で動くことすらできなかった。
「藤田様っ!」
聞き覚えのある声と共に誰かが俺の目の前に飛び込んできた。
そしてあっという間にロボットを遥か後方に蹴り飛ばした。
「キディじゃないか!」
「遅くなってしまい、申し訳ございませんでした」
キディは立ち上がったロボットを凝視しながら言った。
「上は片付いたのか?」
「はい。ただ戦力のほとんどを失いましたが・・・・・・」
振り返ると、数体の12型が構えていた。
援軍にしては頼りないことこの上ない。
「あのロボットは他とは違います。藤田様は皆様と一緒に私たちの後ろへ・・・・・・」
「な、何言ってんだよ? お前たちだけ戦わせるわけにはいかねえだろ」
「お言葉ですが藤田様。ロボットは修理すれば直りますが人間はそうはいきません。命を粗末になさらないで下さい」
そう言うと、キディはあのロボットに飛びかかっていった。
俺は援軍が到着したことに安心した反面、最も頼りになるキディが側から離れたことに不安を覚えてもいた。
ふと葵ちゃんと琴音ちゃんのことが気になった。
敵から目を離さないように、ちらっと2人の方向を見やる。
肩で息をしている葵ちゃんを守るようにして琴音ちゃんが立っている。
その目は見たこともないような鋭さだった。
大半の敵は俺たちを狙ってきているが、それでも何体かは2人を倒そうと襲いかかる。
ここは坂下の出番だ。
自分のスタンガンを手放した坂下は琴音ちゃんと一緒に葵ちゃんを庇っているようだった。
素手と素手の勝負なら坂下の方に分がある。
地区大会でも名の通った正真正銘の空手家だ。
7体近いロボットが一斉に琴音ちゃんめがけて迫った。
そのうちの1体は坂下が相手をする。
「姫川さんっ!」
「大丈夫です!」
残る6体が琴音ちゃんの目の前まで迫っている。
やばい!
俺はスタンガンをすばやくかたむけ――ようとした・・・・・・。
だが躊躇ってしまった。
というより目の前の光景に見惚れてしまったというほうが適切かもしれない。
坂下でさえ躱すのに精一杯なほどのロボットの攻撃を琴音ちゃんはいとも容易く避けているのだ。
それも6体ものロボットの攻撃を。
でもよく考えれば不思議なことじゃない。
ロボットたちがどんな動きをするか予め知っている。
琴音ちゃんにはそういう能力があるんだ。
だから無駄のない最小の動きで躱すことができるんだ。
でも避けてるだけじゃ意味がない。
そう思い、トリガーを引こうとした瞬間・・・・・・。
琴音ちゃんの周囲に一瞬、淡い光が見えたかと思うとロボットたちがありえないスピードで吹き飛んだ。
飛ばされたロボットは他のロボットを巻き込んで壁に叩きつけられたまま動かなくなった。
何が起こったんだ・・・・・・?
俺はしばらく戦いを忘れて呆然としていた。
側で闘っていた坂下も目を瞬かせている。
・・・・・・と、そんな暇はないんだ。
今は戦いに集中しなくちゃな。
俺は他の男子たちと同じく、12型を盾にしながら射撃する。
もしここで武器を持った敵が出てきたアウトだ。
その時、俺は何かを感じた。
はっきりとは分からないが、何か不吉なものを・・・・・・。
この感じは・・・・・・一体なんなんだ・・・・・・?
でもこの厭な感じは気のせいなんかじゃない。
その証拠に琴音ちゃんもさっきからしきりに辺りを見回している。
吐き気がしてくる。
琴音ちゃんが後ろ――俺たちが入ってきた扉の辺り――を振り返った。
厭な感じは現実のものとなった。