第1話 楓の悲劇

 (いつもと変わらない朝。しかし、今日だけは何かが違っていた・・・・・・)

「結木く〜んっ! おっはよ〜!!」
そんな声で一日が始まった。
「おす」
声をかけられた男子は、いつものように素っ気なく応える。
彼は登下校中も愛読書を手放さない。
だから後ろから呼んだ少女――南楓――に対しても視線を活字に向けたまま挨拶する。
楓はそんな結木にちょっと物足りなさを感じながらも、大好きな彼と少しでも会話ができたことが嬉しかった。
と同時に一抹の不安。
こういう雰囲気になった時、決まって現れるのが、
「こんのおぉぉぉぉぉ!!」
砂煙を巻き上げ音速で駆けてくる少女。
黒く艶のある長髪を振り乱し、猪突に猛進する女生徒。
彼女の右腕が楓に伸びた。
そして電光石火の早業で楓に強烈なチョップを叩き込む。
「痛ッ! 何するのよ、日高さん!」
涙目で頭を擦りながら楓が言った。
日高安純である。
楓にとって結木を巡る恋のライバルである。
彼女が結木になかなか近づけない唯一の理由が、この日高安純の存在だった。
「あら、ごめんなさい。全然気付かなかったわ。いつからいたの?」
フフンと鼻を鳴らしながら、楓の神経を逆なですることだけを目的に安純が挑戦的に言う。
「ひっどーーい! 最初から狙ってたくせに!」
ギャーギャーと言い争う2人。
そしてそんな2人にいい加減うんざりした結木は、まるで楓も安純もいなかったみたいに、ひとりで読書に耽り
ながら学校への道程を歩く。
いつもの風景だった。
普段と何も変わらない、まったくいつも通りの風景だった。
しかし・・・・・・。
この時すでに無垢な楓を襲う邪悪な風が、静かに、極めて静かに彼女に忍び寄っていた。

「なんだよ楓? そんなふくれっ面して・・・・・・」
楓の肩に乗っているミルモが訊いた。
「だって日高さんってば、いっつも私の邪魔するんだもん。今朝だって・・・・・・」
移動教室のために教材を手に廊下を歩きながら、傍から見れば独り言を言う楓。
妖精は他人には見えないからだ。
「そりゃあ、日高も結木のコトが好きだからだろ? 結木のどこがいいんだか・・・・・・」
「全部だよぅっ!」
知らず大声を出してしまった楓は慌てて辺りを見回したが、彼女の行動をおかしく思う者はいなかったようだ。
「ま、好みなんて人それぞれだしな」
楓と結木、安純の三角関係の話なんかよりも、ミルモにとっては試食中のくもっちょの方がよほど興味のある
話題である。
最近は楓のために魔法を使うごとに、くもっちょやチョコレートを要求するようになってきた。
楓もその魔法の代価として、律義にもミルモの要求を呑んでいる。
廊下の角にさしかかった時、階段の踊り場に結木がいた。
「あ、結木く〜ん」
校内でもお構いなしに結木を呼びつける楓。
そこで初めて、彼のとなりに松竹がいることに気付いた。
「おう、南・・・」
結木が声の主、楓に振り返ったところで、
「それじゃ、この話はまたあとでね・・・・・・」
金持ちらしく優雅に踵を返し、ヒラリと松竹が向こうへ消えていく。
松竹の姿が完全に見えなくなるのを待ってから、楓がおずおずと訊いた。
「ねえ、結木君。松竹君となに話してたの?」
「別に・・・・・・大した話じゃないよ」
そうは言っても、楓の不安は払拭されたわけではない。
松竹はああ見えても、積極的な性格だ。
楓ははっきり断ったのに、それでも彼はチャンスがあれば両想いになろうと、しばしば魔法を使うことがある。
もっとも、多くは安純の入れ知恵によるものだが。
楓はそれを心配しているのだ。
「大丈夫? また魔法かけられたりしてない?」
もし万が一にも結木に魔法がかけられているとすれば、事態は安純に有利に働いてしまう。
それだけは何としても防がねばならなかった。
「ああ、大丈夫だ・・・大丈夫」
「本当に? 何だか顔色が悪いみたいだけど・・・?」
「いや、何でもないよ」
「結木君・・・あ・・・・・・」
楓が次の言葉を発する前に、結木はさっさと行ってしまった。
どこか青ざめた様子の結木を、楓は黙って見送ることしかできなかった。
「結木のやつ、様子が変だったな」
ミルモがつぶやいた。
「うん・・・・・・」
こうなると、なおさら松竹との会話が気になってくる。
実際には松竹は何の関係もないかも知れないが、楓は松竹が何か魔法をかけたに違いないと思いこんでいる。
そこまで考えると、次に楓がとるべき行動はひとつだった。
「お、おい楓。どこ行くんだよ?」
「日高さんのところよっ!」
いいかげん受身的になっている自分にも腹が立っているのか、いつもらしくない言動だった。
 安純の居場所はすぐにわかった。
というのも楓も含め、この少女たちはたいてい結木の近くにいるからだ。
小走りで去っていった結木を追いかけると、思ったとおり安純が結木にベッタリとくっついていた。
「結木くぅ〜〜ん」
思いっきり甘えた声を出す。
対する結木はいつものように大儀そうに・・・・・・というより今は安純にかまう余裕が全くないという様子だ。
それは女の子の繊細な心を持つ安純にも分かったようで、ふらふらと頼りなく去っていく結木に楓同様、声すら
かけることができなくなってしまった。
「結木くん・・・・・・?」
ポツンと独り取り残された安純に、楓が詰め寄った。
「日高さんッ!」
魔法のことを断罪するつもりだったが、振り返った安純の表情に楓は思わず口を閉ざしてしまった。
瞳にいつもの勝ち気な性格が現れていなかったのだ。
しかしこれは演技かも知れないと考えた楓は、さっきの調子を取り戻し安純に言い寄った。
「日高さん! 松竹君に何言ったの!?」
「な、何って・・・何よ?」
しどろもどろに答える安純。
間違いない。楓は思った。
「また魔法を使わせたんでしょ!? もう結木君に魔法を使うのはやめてっ!」
責めるというより、これは懇願だった。
大好きな結木が魔法によって別人に変わるところを、楓は見たくなかったのだ。
だが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「何のことよ? 私は何も言ってないし、何もしてないわよ」
「ウソ!」
「本当よ。だったらヤシチかムルモに訊いてみなさいよ」
「・・・・・・」
安純の言葉にウソはないのか?
楓は自問した。
安純の言っていることは本当かもしれない。
楓は自答した。
「そんなことより、こっちが訊きたいわよ。結木君、どうしちゃったのよ」
「え・・・・・・?」
「さっき会ったら様子がヘンだったのよ。朝は普通だったのに・・・・・・南さん、何か知らない?」
「日高さんにも・・・そうだったの・・・・・・?」
これでハッキリした。
結木の気持ちが安純に向くような魔法を、あるいは楓と結木の仲を裂くような魔法をかけたのであれば、安純が
このようなことを言うハズがない。
安純は関与してないんだ。
たしかに結木のことが気になるが、今はそれよりも謝っておくほうが先立った。
「あの・・・日高さん・・・・・・」
「何か知ってるの?」
「ううん、そうじゃなくて・・・・・・さっきは・・・・・・ごめんなさい」
語調はさきほどよりも力なく。
人間って、自分の非は認めているのにどうして素直に謝れないのだろうか。
「私てっきり、日高さんが松竹君と何かしたんじゃないかと思って・・・・・・それで・・・・・・」
それでも勇気を振り絞って謝罪する。
残念ながら、安純にはこの有利な状況を利用する余裕はなかった。
「別にいいわよ・・・・・・」
特に何か言うわけでもなく、フイっとそっぽを向く安純。
つまりさっきの結木の様子が、安純にも相当気がかりであったということだ。
楓は安純が怒っているのだと思った。
「本当にゴメン・・・・・・」
「いいって言ってるでしょ」
楓があんまりしつこく言うものだから、安純は考え事をやめ、教室に移動してしまった。

 早足で教室に向かいながら、安純は考えていた。
どうして急に結木の元気がなくなってしまったのか?
登校時の彼は無口ながら、それはいつもと変わらなかった。
学校に来てからの数時間に、いったい何があったのだろう。
楓やミルモの仕業か?
その可能性もゼロではなかった。
いつも自分やヤシチに魔法を使われてるのだから、向こうも同じ手を使い出したのかもしれない。
だがそれなら、さきほどの楓の言葉が説明できない。
となると、楓やミルモに原因はないということになる。
そうやって悩みながら、安純はふと別の位置から自分を眺めた。
自分は今、結木のことを考えている。
休み時間にも、授業中でさえその事が気になって先生の話に集中できなくなる時がある。
普段の生活の中に、結木の存在が占めるウェイトがこんなに大きいものだとは思わなかった。
そう強く感じれば感じるほど。
楓には負けたくないという気持ちが強くなる。
その気持ちが高まれば高まるほど、安純の手段は積極的になる。
悪循環だった。
結木に抱く感情が間違いなく恋心で、結木との間に恋人関係を望んでいるのであれば。
その願望が真実なものであるなら、決して魔法に頼ってはいけないのだ。
それくらい安純にだって分かっている。
楓は素直で可愛い。
彼女のアプローチが今以上に積極的になれば、恋愛には興味のなさそうな結木だって振り向くに違いない。
それが安純が焦燥に駆られる理由だった。
安純にとって楓は手強いライバルであり、彼女に勝たなくてはならなかった。
恋愛に禁忌とされる魔法を使ってしまうのもそのためだ。
そうだ。
こういう時こそ魔法だ。
「ヤシチ、いるなら出てきなさい」
言いながら安純はポケットから取り出したカリントウをひとつ、廊下の隅に転がした。
すぐさま一陣の風が吹き、カリントウを頬ばるヤシチが。
・・・・・・現れなかった。
いつもなら、こうするだけでどこからかヤシチが飛びついてくるのだが。
今日はどういうわけだか、ヤシチは現れなかった。
「変ねぇ・・・結木君のこと、調べてもらおうと思ってたのに・・・・・・ったく、役に立たないんだから・・・・・・」
口ではそう言っていても、安純はそんな風には思っていない。
だが、その代わりに安純は別のことを考えていた。
なぜ今日に限ってヤシチは来なかったのだろう。
いつもならすぐに飛んでくるのに。
いつも・・・・・・?
安純は冷や汗が流れるのを感じた。
結木の様子がおかしいのも。
ヤシチが来なかったのも。
”いつも”と違う。
この辺りはさすが女の勘というべきか。
安純は嫌な予感がしていた。
何か、近いうちに”いつも”と違う何かが起こる気がする。
そして、その”いつもと違う何か”は、悪いことのような気がする。
しかし。
嫌な予感がしていても、それは予感でしかないから、行動を起こすこともできない。
「私らしくないわね」
冷静にかつ客観的に自分を見つめ直した安純は、そう結論づけると考えるのをやめてしまった。

「わ、わたしに話って・・・・・・?」
楓の声が震えている。
落ち着いて話そうにも、緊張のために歯の根が合わない。
なぜなら楓がいま目の前にしているのが結木だからだ。
「あ、ああ・・・・。悪いな、こんな所に呼び出しちまって」
対する結木は別の意味で緊張を覚えているのか、どこか歯切れの悪い口調である。
お昼休みが始まった直後、楓は結木に呼び出された。
それだけでも楓にとっては天にも昇る気持ちだったのだが、その場所が体育倉庫の裏であることが、もはや楓の
理性を失わせていた。
こういうシチュエーションでは、呼び出した側から出てくる言葉はひとつしかない。
「南・・・・・・好きだ。オレと付き合ってくれ」
楓の頭の中で、理想の未来図が広がっていた。
1人舞い上がる楓に、結木は、
「南・・・・・・」
言いにくそうに、つまりは彼女から目を背けながら言った。
「うん・・・・・・」
来た。と楓は思った。
今まで何度となくアタックしてきたが、イマイチ手ごたえの無い結木に恋に対して消極的になっていた楓である。
今を逃して、いったいいつ結木と結ばれるだろうか?
「オレの話・・・聞いてくれるか?」
「うん・・・」
お腹が空いているが、そんなことはどうでもよかった。
千載一遇のチャンスなのである。
「ここじゃちょっと・・・・・・そこで話そう」
そう言って結木が指したのは体育倉庫だった。
「えっ・・・・・・?」
あの暗い体育倉庫の中で2人っきり・・・・・・。
こうなると否が上にも期待が高まってしまう。
「うん・・・・・・結木くんがそう言うなら・・・・・・」
そして楓はあんなことやそんなことを多少期待しつつ、すんなりと倉庫へ入っていった。
 中に入ってみると、実際は思っていたよりもずっと暗い。
ほとんど視覚に頼れないこの空間では、互いに相手を強く意識するようになる。
楓は自分の鼓動の高鳴りを感じた。
中学生の女の子であるのだから、それは仕方ないし当然のことでもある。
しかしそのせいで。
楓は結木が倉庫のカギをかけたことに全く気付かなかった。
「どうしたの・・・結木君・・・?」
なぜか何も言わなくなってしまった結木に、楓が怪訝そうに訊ねた。
彼があまりにも静かだから、まるでその場にいないようにさえ感じられる。
本当にいなくなってしまっているのでは、と不安だった楓は何とか彼の存在を確かめようとする。
だが、直後に帰ってきた彼の言葉はあまりにも意外だった。
「南・・・・・・・・・ゴメン・・・・・・」
たったひと言。
たったひと言だけである。
楓にはそれが何を意味する言葉なのか分からなかった。
「結木君・・・? どうして謝るの・・・・・・?」
だけど結木は、
「ゴメン・・・・・・! だけど、だけどしかたないんだ・・・・・・」
尚も謝罪の言葉を続ける結木。
楓はだんだん怖くなってきた。
どうして結木君が謝るの?
何か悪いことしたから?
ううん、そうじゃない。
結木君が私に謝る理由がないんだから。
だったら・・・・・・。
ここで楓は最悪の事態を想像した。
もしかして結木君・・・・・・好きな子がいるの・・・・・・?
だから私に諦めてって言ってるの・・・・・・?
だとしたら・・・結木君。
あなたの好きな人って誰なの?
もしかして・・・・・・日高さんなの・・・・・・?
それしか考えられなかった。
さっきまでの理想未来図は、この暗闇で音も立てずに瓦解してしまった。
でも相手が日高さんじゃ敵わないなあ・・・・・・。
認めたくないけど、私から見ても綺麗だし・・・・・・。
「南・・・・・・」
「・・・・・・」
結木が言うべきことは分かっていた。
だから楓は覚悟した。
人の気持ちは簡単には変えられないから。
だから今は笑顔で応えようと思った。
もし堪えきれずに泣き出してしまったとしても、今なら闇のせいでごまかすこともできる。
そこまで覚悟していたのだが。
「みなみ・・・」
突然、肩を掴まれたかと思うと、楓の体が押し倒された。
幸い、マットがあったために怪我をすることはなかったが。
「ちょ・・・・・・結木君っ!?」
一瞬何が起こったのか理解できなかった楓。
「いやっ! ど。どうして・・・・・・!」
楓は手足を子供みたいにバタバタさせた。
それもそのハズ、結木は押し倒したと同時に楓のスカートを無理やり脱がしてしまったのだ。
しかしそれは女子のかわいい抵抗だった。
女の子である楓が男である結木の力に敵うハズもない。
不意を突いたせいもあって、あっという間にスカートと下着までもが剥ぎ取られてしまった。
「ゆ、結木君っ! やめてぇ!」
もちろんここまで来ておいて、楓の言葉の抵抗で結木が手を止めるハズもない。
結木は楓の両足を掴んで左右に開かせた。
暗闇に目が慣れたのだろうか、実に手際がよかった。
そしてこのシチュエーションから予想される事態が起こった。
結木がおもむろにズボンのジッパーを下ろし、そそり立つソレを露呈させたのである。
平常時に比べてソレは、下半身だけとはいえ同級生の裸体を前にした男子としてきわめて平均的な長さと
強度を誇るにいたった。
が、彼のモノは見たところ最高潮というわけではないらしい。
「えっ!? ウソでしょ? 結木君!?」
状況を悟った楓が頭を横に振ってもがいた。
両手で押しのけようとするも、それは結木の進攻をわずかに遅らせるだけの効果しかもたらさなかった。
そして・・・・・・。
「痛ッ!? やめて! やめてぇっ!!」
結木がついに侵略を開始したのだ。
暗がりの中、なかば手探りで楓の口を割り開き、己の武器をゆっくりと沈めていく結木。
突如訪れた痛みに楓は泣き叫んだが、倉庫が校舎から離れているため他の生徒や教師が彼女の声を聞きつけ
駆けつけてくるという事態はありえなかった。
まして、この体育倉庫でこのようなコトが起こっているなど、誰が想像できよう。
この時間、この空間は学校から完全に隔絶されたと言っていい。
「南・・・・・・頼む、少し痛いけど・・・我慢してくれ・・・・・・」
全く痛みを感じない側の結木がなぜか楓よりも苦しそうな声でつぶやく。
「結木君・・・どうして・・・・・・ああああああぁぁっ!!」
さっきの痛みの数倍が楓を襲った。
何の準備もなされていない無垢な女の子が、結木の一方的な攻めによって崩落してゆく。
楓はこの痛みと恐怖と衝撃からなんとか逃れようともがくが、結木が腰のあたりをしっかりと掴んでいる為に
身動きできなかった。
結木の攻撃は一向に弱まる気配がなかった。
”ぷつっ”っと、何かが切れるような音が体の中から聞こえた。
「痛ッ! いやああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
ひときわ大きな声で楓が泣き叫ぶ。
彼のあまりにもムリな挿入が、ついに彼女の処女を破いてしまったらしい。
器と棒の重なったあたりから、一筋の鮮血が流れた。
紛れも無い処女の証。破瓜の血が2人の体の一部を等しく濡らしたが、外の光がほとんど届かない倉庫では
互いにこの血を視認することはできなかった。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
自責するような結木の息切れ。
彼の頭の中はおそらく、不本意な陵辱に自己嫌悪するという負の感情が芽ばえているのだろうが、後悔の念を
混じえた結木の吐息すらもここでは官能的に感じてしまう。
「みなみ! みなみ!」
何を思ってか、結木は楓の名を呼びつづけた。
そしてその度に、彼の挿入のペースは勢いを増していく。
早く終わらせたかったに違いない
楓に痛い思いをさせたくなかったからに違いない。
その焦りが彼の下半身の動きを速くした。
「いやぁぁっ! もうやめてぇぇぇぇっっ!!」
言ったところでおそらく止めないだろうことは分かっている。
しかし逃れることのできない痛みに楓は声を荒げて懇願するしかなかった。
「うああぁぁぁぁぁっっ!!」
今までに感じた事のない激痛が楓を襲った。
自分の体を貫かれるのがこんなに痛いものだとは。
もはや楓の意識はほとんどなく、彼女が感じるのは結木によって蹂躙されていく秘部から全身にかけて走る
激痛だけだった。
そこには快楽はない。
もしこれが両者の合意のうえでの行為であれば、たとえ一方的な責めであっても気持ちよさを感じることができた
であろう。
だが彼女が今全身で感じているのは痛みでしかない。
そしてそれは結木も同じだった。
そう思ってはいても、なおも埋没を続ける結木の先端がついに終点に達した。
楓の鞘が小さかったからか、それとも結木の責めが兇悪なまでに勢いをもっていたからであろうか。
「ひく・・・・・・ぅ・・・・・・」
もちろんこれまでとは比べ物にならないほどの激しい痛みを伴なっているにも関わらず、楓は静かだった。
否、もはや泣く力すらなくなっていた。
快感を感じることのできない楓の膣内は、さきほどから流れていた破瓜の鮮血だけが唯一の潤滑液だった。
未踏だった小さな入口は愛する結木によってめちゃくちゃに荒らされ、女の子にとって大切な”はじめて”は、
言葉どおり大切な人との交わりは叶ったが、そこにたどり着くまでがあまりにも残酷であった。
流れ出た涙が楓の頬をわずかに濡らした。
「うっ・・・・・・みなみっ!」
結木の声がひときわ荒くなる。
どうやら限界が近いらしい。
男子というものは勝手なもので、望まない行為でも、目の前の少女が苦痛に悶え苦しんでいても、自身は必ず
快感を得、絶頂に到達する。
そこが女子と男子の違いだった。
あまりにも自己中心的な結木であったが、近づきつつある限界を遠ざけるつもりはさらさらなかった。
膣内(なか)でじっとしているだけでも迎えそうである。
とはいっても、このままにしていては後々面倒なことになる。
結木は名残惜しそうに、モノを楓の中から抜き去った。
と同時に白濁の液が、そこらじゅうの壁面に付着した。
「はあ、はあ・・・・・・」
一仕事終えたという安堵のため息が結木の口から漏れた。
そしていつの間にか気を失ってしまった楓をじっと見下ろす。
「許してくれ・・・・・・南・・・・・・」
結木は聞こえないほど小さな声でそう言うと、ポケットティッシュを取り出して自身を丁寧に拭いた。
そして念のためにさっき放った精子たちも壁にシミが残らないように丁寧に拭き取る。
その時、真っ暗闇だった倉庫にスリット(光の筋)が差し込んできた。
そして。
「終わったみたいだね」
光の中に何者かの影が立っていた。
左手に倉庫のカギをちらつかせながら。
その姿は逆光になっていて分からないが、声を聞けば誰だかハッキリする。
「もう・・・・・・これでいいだろ・・・・・・?」
結木が息絶え絶えに言う。
「胎内(なか)には出してないだろうね?」
「ああ・・・・・・」
影がゆっくりと入ってきた。
「それじゃ、仕上げといこうか」
「?」
そう言うと、何者かは縄を何本か結木に手渡した。
「これで南さんの両手、両足を縛るんだ、さぁ早く」
急かされて、結木は躊躇する間もなくまず楓の両手首のあたりで縄を締めはじめた。
「後ろ手に解けないようにきつく縛るんだ」
ゆるく縛りかけた結木にすかさず命令が入る。
結木は観念して言われたとおりにした。
「足も」
「・・・・・・っと。これくらいでいいか?」
「う〜ん・・・・・・」
結び目を確認した影は、
「うん、これでいいよ」
あっさりと許可した。
「でも、こんなところに南を置いておいて大丈夫なのか・・・・・・?」
結木は楓が辱めを与えられた恰好で校内の誰かに発見されることを恐れた。
「心配ないよ。3年生は修学旅行に出かけてていない。その上、今日は行事の関係で午後に体育の授業がある
クラスはないんだ」
「そうなのか・・・・・・」
そう聞いて安心したと同時に、結木は一抹の不安も覚えた。
誰も来ないということは誰にも発見されないということである。
ということは南はずっとこのままか・・・・・・。
目を覚ました南は、自分の置かれている状況にどう思うだろうか。
「そんなに落ち込まなくても、君には日高さんがいるじゃないか。僕は南さんと、君は日高さんとくっつく。
それが1番いいと思うんだけどね」
「・・・・・・だったら、どうして南をこんな目に遭わせるんだ?」
「僕が何度も好きだって言ってるのに、全然見向きもしてくれないんだもん。だからお仕置きみたいなものだよ」
そんなことをさらりと言ってのけることが、結木には信じられなかった。
「それで南が喜ぶと思うのか? もっと南の気持ちを考えてやれよ。これじゃますます南が離れていくんだぞ」
「口が過ぎるよ、結木」
氷のように冷たい口調が結木の言葉を遮った。
「南、南って親しいみたいな呼び方しないでくれる?」
男は結木を呪詛の目で睨みつけると、倉庫のカギをかけた。
そして何事もなかったように飄々と去っていった。
「どうしてだ・・・・・・松竹・・・・・・」
取り残された結木の言葉が、虚しく響いた。

 

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