第4話 残虐の松竹
(楓 安純 結木 松竹 4人がついに保健室という狭き密室において一同に会した)
保健室のドアが開いた。
まず首だけを中に室内を見渡す松竹。
その表情は明るく、倉庫に入ったときとは大違いだ。
だがここからでは楓が眠っているベッドは見えない。
松竹は遠慮なく奥へと進む。楓がいることが確かだからだ。
「南さん・・・・・・」
いた。
中学生とは思えないような可愛らしい寝顔の彼女を見下ろして、松竹の体内を何かがものすごい速さで流れた。
当の楓は松竹が入ってきたことにも気づかず、小さな寝息を立てている。
「起きていてくれた方がありがたかったんだけど」
つぶやいて、松竹は楓の肩を揺すった。
このまま握りつぶすこともできそうなほど貧弱な肩。
それが松竹をたまらなく興奮させた。
「う・・・・・・ぅん・・・」
不自然に揺らされ、楓が目を覚ます。
「あれ・・・・・・松竹くん・・・・・・?」
なかなか焦点を合わせられなかった彼女が、いまだぼんやりとした松竹の名を呼んだ。
「南さん、大丈夫かいっ!?」
そしてわざとらしく声を張り上げる松竹。
このあたりの演技はうまくなったようだ。
「日高さんから聞いたんだ。南さんが・・・・・・大変だって」
迫真の演技。これは安純に鍛えられたようなものだ。
そして楓に口を挟む隙を与えず、一気にまくし立てる。
「ヒドイことを・・・一体誰にやられたんだい? 僕が仕返ししてあげるよ」
力みすぎたあまり、おかしな表現も飛び出たが、弱っている女の子はこういう言葉に弱いハズだ。
楓は少し考えて、
「ありがとう・・・・・・でも大丈夫だから・・・・・・。松竹君って優しいんだね・・・・・・」
それを聞いた松竹は心の中で勝ち誇った。
もちろん結木に対してだ。
楓のこの表情・・・おそらくこれは結木にも見せたことのない表情だろう。
そう考えただけで松竹はもう絶頂に達していた。
やはりこの世は財力だ。
そして知恵だ。
手に入らないものなど、彼にとっては存在しない。
よく、”愛は金では買えない”と言うが、あれはウソだ。
金も使いようだ。
各界に顔見知りが多ければ、それだけで人を操る力になる。
結木がそうだった。
幸いにも松竹が欲しいものを結木が持っていたのだ。
「南さん・・・僕はいつでも君の味方だからね・・・・・・。だからいつでも僕を頼っていいんだよ?」
余裕の笑みを浮かべる松竹。
そしてそれに笑顔で応える楓。
完璧なシチュエーションだ。
今なら何をやっても何を言っても、彼女は怒らない気がする。
松竹がそう思ったとき、
「南ッ!!」
二人にとってあまり歓迎したくない客が二人。
結木と安純だ。
結木は息巻いてやってきたが、安純は顔色が悪く足元もおぼつかない様子だ。
「ゆ、結木くん・・・・・・! それに日高さんも・・・・・・」
いつもの、だが今は異常とも思える顔ぶれに楓は戸惑った。
「どうして・・・日高さんが結木君と一緒にいるの・・・・・・?」
楓が疑問を口にしたとき、松竹が小さく舌打ちした。
松竹は結木を睨みつけながら、
「南さん、大丈夫だよ! 僕が君を守ってあげるからね!」
怒鳴った。
「いい加減にしろよ、松竹」
結木の低い声が楓には怖かった。
「今までのことは全部松竹君が仕組んだことなのよ」
安純が苦痛に満ちた表情で楓に言った。
「え? 全部って・・・松竹君・・・・・・本当なの?」
「はは、まさか。2人が出まかせ言ってるだけだよ。僕は南さんのコトが好きなんだ。そんなコトするハズないよ」
「ウソよッ!!」
安純が叫んだ。
「南、許してくれなんてとても言えない。俺は取り返しのつかないコトをしてしまった。けど、だけど俺の言うことを信じてくれ!」
「結木君・・・・・・」
楓の目には明らかに迷いの色が見える。
松竹はそれを悟ってか、
「南さん。僕とあの2人、どっちの言い分を信じるんだい?」
口調が変わった。
「南さんが正しい判断をするために言っておくけど、結木は南さんを・・・その・・・・・・辱めたんだよ?」
少しでも自分が有利になるように働きかける楓。
「南っ・・・!」
「南さん、迷う必要なんてないわ。結木君は松竹君に無理やりあんなコトをさせられたのよ」
楓はますます分からなくなった。
結木に乱暴された事実がある以上、いかにひいき目に見ても結木を信じる気にはなれない。
となれば、以前から自分を好いていてくれた松竹を信じるのが妥当だ。
だが、待て。
ライバル関係にあるハズの安純が、結木と同じことを言っている。
楓を陥れようと画策するなら、松竹と結び付けようとするハズだ。
「私は・・・・・・」
「もちろん僕だよね?」
松竹が媚びを売るように厭らしく訊ねる。
「私は結木君と日高さんの言うことを信じる・・・・・・。結木君のしたコト、すごくショックだったけど・・・でもウソをついているようには思えないから・・・・・・。
それに日高さんの事も信じてるから・・・・・・」
どうやら楓の下した判断は、安純の存在が決め手となったようだ。
「そう・・・・・・そうなんだ・・・・・・あんなに酷いコトされても、君はまだ結木が好きってことか・・・・・・」
「まつたけ・・・くん・・・・・・?」
松竹の体が小刻みに震えだした。
「僕には君の考えが分からないなぁ! 目の前にこんなにいい男がいるのに! 君を愛してると言っている男がだよ!? なのにナゼなのかなぁっ!
ナゼ君はあいつを見続けるのかなあ!」
松竹が楓の肩をわしづかみにした。
「あいつに日高さんと争うほどの値打ちがあるっていうのかいっ!? あいつが君を一度でも好きだと言ったことがあるのかいっ!?」
「痛っ! 痛いよ! 離して、まつたけくん・・・・・・」
「答えろよっ! あいつの僕よりも優れているところはどこなんだあぁ! 僕に足りないのは何なんだああ! こたえろよおおぉぉぉっっ!!」
松竹はさらに力を込めた。
楓の小さな可愛らしい肩が壊れてしまいそうなほどに。
「痛いよ、離してよ!」
楓の必死の抵抗も虚しく、松竹はさらに力をこめた。
「松竹・・・もういいだろ・・・」
結木が松竹に自粛を促したがムダだった。
「結木は黙ってろよ。これは僕と南さんの問題なんだ」
その声はあまりに冷徹で、たった今まで荒ぶっていた感情など微塵も感じさせない恐ろしい呪文だった。
結木が松竹の腕をつかんだ。
「ふふ・・・・・・南さん、もう少しだけ待っててね」
そう言い置くと、松竹は結木に向き直った。
「これは何のつもりかな?」
先ほどまでの感情的な態度とは対照的に、彼の目は据わっている。
「何のつもりかって聞いてるんだよ?」
「もう終わりなんだよ。松竹、俺はもう止めた。だからお前も・・・・・・」
「僕を止めようって? ふふ・・・・・・普段なら君にそう言われれば、僕も少しは狼狽しただろうけどね」
状況は圧倒的に不利だというのに、松竹はうすら笑いまで浮かべている。
「君は今の自分の状態をよく分かっていないらしいね」
「どういうことだ?」
「適当なコト言ってごまかそうったってダメよ」
安純も加担する。
「なんだ、日高さんは思ったよりも元気だね。・・・・・・けど、結木はどうかな?」
松竹は自分の腕をつかんでいる結木の腕を持ち上げた。
それも驚くほど軽々と。
「僕が考えもなしに君を動かしていたと思うかい?」
今の松竹の言葉は、そのひとつひとつが禍々しい。
「結木、君が南さんと日高さんにしたコトが、どれだけ体力を使う運動か知ってる?」
言われ、結木は目を伏せた。
それは主に後悔の念による条件反射でもあった。
見ると安純も気まずそうに目を伏せている。
「見た目には分からないけど、今の君は相当疲れているハズなんだ。そうに決まってる!」
楓は疑わしげに結木を見た。
何かを考えての行動ではない。
実際、今の楓には状況が飲み込めていない。
とりあえず結木や安純の意見を信じたとはいえ、松竹が何をしてどう悪いのかまでは理解していない。
彼女に起きた事実は、結木に弄ばれたこと、安純に介抱されたこと、そして松竹がやって来たことである。
これらは全て別個に起きた事象であり、彼女にとってこの3つに接点などは考えられなかったのだ。
だが、実は全てが一連の流れとなっている。何も知らないという点では安純もそうだったが、彼女も先ほど結木の手にかかってしまった。
つまり、コトの流れを知らないのは楓だけだ。
「日高さん・・・どういうことなの・・・・・・? 結木君、日高さんにも何かしたの・・・・・・?」
今の安純にとっては残酷すぎる疑問をぶつける楓。
安純はしばらく黙っていたが、やがて観念したように、
「あなたと・・・・・・同じよ・・・・・・」
かろうじてそれだけ言った。
半ば予想していた答えだけに、楓はそれほどショックは受けなかった。
というよりそういう感覚が麻痺してしまっていたのかもしれない。
一方で安純は、それだけ酷いコトをする結木に、心のどこかではまだ恋をしている自分を憎んでいた。
理想と現実に差があるのは勝手な理想を抱いている本人の自己責任によるものだが、彼はそんな当たり前の理論では片付けられないほど非道だ。
なのに、なぜまだ結木を求めようとする気持ちがあるのか。彼女には分からなかった。
ただ、そうなるとひとつの疑問が湧いてくる。
楓は・・・・・・この娘はどうなんだろう?
事実を知っているか知らないかの差はあるが、二人は同じ境遇に立たされている。
楓は果たして結木を好きでいるのか、それとももうそんな恋愛感情は微塵もなくなったのか?
「ふふ・・・・・・これだけ言ってもまだ分からないみたいだね。なら試してみなよ? 僕を殴れ。こんな残虐なことを展開する僕をね」
挑発した。
その言葉どおり、結木はこれまでのふがいなさと怒りをこめて殴りかかった。
だが松竹は首を反らせて避けた。
「分かったかい? こんな僕でさえ余裕で見切れるほど君の動きは鈍っている。だから――!」
今度は松竹が拳を振り上げた。
結木はかわすことも身構えることもなく、保健室の壁に叩きつけられた。
「結木君ッ!!」
楓と安純が同時に叫んだ。
「うう・・・・・・」
打ち所が悪かったのか、結木は起き上がれないようだ。
「まったく、君はバカだね。大バカだよ。あともう少しで君の望みは叶ったっていうのに、最後の最後で躊躇いやがって・・・・・・」
松竹は彼に似つかわしくない暴言を吐いた。
「ヘマをやらかしたんだからね、僕は君の願いを叶えるわけにはいかないよ」
ふうと息をついて、松竹は楓に向き直った。
「い、いや・・・・・・何なの、松竹くん・・・・・・どうして・・・・・・どうして・・・・・・」
楓はベッドの上でうわ言のようにつぶやいた。
今見た現実を懸命に否定する。
「そっか、南さんはよく知らないんだったね。僕、南さんには隠し事したくないんだ。何でも話し合える仲になりたいからさ。だから教えてあげるよ」
ここで結木に矮小ぶりを暴露して楓の気持ちを自分に向けさせようというのか、松竹はそんなことを言い出した。
「日高さんも聞いておいてね」
後ろでずっと自分を睨みつけている安純に言う。
「こいつはね、欲望のために君たち二人をあんな目に遭わせたんだよ」
誰が聞いても良い印象を受けない下りを考えながら、松竹は話し始めた。
「彼は小説家になるのが夢なんだ。だからいつも本を読んでいるだろ? そんな彼が一流作家に会えるとしたら・・・当然、彼は喜ぶよね」
誰も相槌を打たない。
「松竹家はいろんな方面で面識があるんだ。政界もそうだし、芸能界だってそう。あ、そうだ。今度サインでも書いてもらおうか?」
もちろんこの問いかけにだって誰も反応しない。
「作家だって例外じゃないよ。それでね、親切な僕は結木に今を時めく作家に会わせてあげようと思ったんだ。だって、せっかく作家の知り合いがいるのに
小説家を目指す結木に会わせなければもったいないからね」
誰も何も言わない。
狭い保健室に、松竹の声だけが淡々と響く。
「ただし、ひとつ条件を出して結木がそれを飲んだら会わせることにしたんだ。だって苦労せず憧れの人に会えるとなったら、彼は物事はたやすく達成できると
思い込んでしまうだろ? そうしたら努力をしなくなり、夢は実現しなくなる。そこまで考えて出した条件なんだ」
楓はだんだん怖くなってきた。
「じゃあ、その条件っていうのが・・・・・・」
そこで安純がはじめて先を促す発言をした。
楓はまだ分からなかったが、安純には分かった。
「そういうコトだよ。つまり、南さん。君をめちゃくちゃに嬲(なぶ)るっていう条件さ。これを実行しないと彼は作家には会えない」
松竹はその言葉が楓の頭に浸透するのを待った。
ゆっくりでいい。ゆっくりでいいから、君に結木のあくどさを分かってもらいたい、と。
「そんなのって・・・・・・じゃあ結木くんは・・・・・・会いたいからわたしを・・・・・・?」
楓は気を失いそうになった。
なんてつまらない理由だ。いや、結木にとっては何物にも変えがたいことなのかも知れないが、だからといって楓を痛めつけていいわけがない。
楓を待ち受けていたのは絶望だけだった。
そこには一筋の光さえも届かない深い闇だけ。
「話を聞くだけじゃ結木君が悪いけど・・・あんた、どうしてそんなコトさせたの? アンタは南さんが好きなんでしょ・・・・・・?」
安純の言葉には結木をかばうような節があった。
「南さんが好きなら・・・・・・私でもよかったんじゃない・・・・・・」
「どういうことだい?」
「だから、南さんじゃなくて私にしていれば・・・・・・」
松竹は首をかしげて、
「う〜ん、それはつまり君が結木を好きだから、南さんに先を越されたような気がして面白くないってことだね?」
「違うわよ! 南さんを痛めつける必要はなかったって言ってんのよ!」
威勢はいいが、安純は額に汗を浮かべかなり辛そうだ。
「いいや、南さんでなくてはダメなんだ。僕はね、彼が南さんを選べば、潔く身を引くつもりだったんだよ。彼には敵わないと思うからね。だけど、実際は違った。
これは僕にも脈があるってことだ」
「順番がおかしいんじゃない? なら、どうして南さんを痛めつける結木君を止めなかったのよ?」
「・・・・・・」
「結木君がどっちを選択したって、選択した時点であんたの考えは決まったんでしょ? なら、南さんがこんなになるまで放っておくのはおかしいわ」
松竹がキュっと下唇を噛んだ。
「僕の目的を忘れたかい? 彼の選択はすなわち南さんとの仲が相応しいかどうかを決めるものだ。だから、結木が南さんを犯すという選択をして、実際に
行動に移してはじめて南さんは結木を嫌うんだ。つまり結木は自ら南さんに嫌われる行動をとらなきゃ意味がないんだ」
我ながら巧い立ち回りだと松竹は思った。
だが、安純は一枚上手のようだった。
「あんたがそう言えば言うほど、あんたが南さんを好きだという気持ちが怪しくなるわ。あんた、南さんが好きじゃないの?」
「好きさ。さっきも言ったよね。僕は彼女を本当に愛しているんだ」
「それなら、結木君に持ちかけた条件はなに?」
今の安純は結木と松竹に対する怒りだけで意識を保っているように見える。
「ふうん、日高さんはあまり記憶力がよくないのかな? これは南さんに対するおしおきでもあるんだよ」
楓の体がビクンと震えた。
「南さんがあまりに僕を無視するものだから、少しばかりその身に罰を与えようと思ってね」
「・・・・・・」
楓は信じられないという目で松竹を見た。
「僕は結木が好きだということを怒ってるんじゃないんだ。僕に振り向いてくれないことを怒ってるんだよ。そこは勘違いしないでね」
「同じじゃないのよ」
「違うね。まぁ、日高さんには分からないだろうけど」
「分かりたくないわ!」
「そんなことはどうでもいいんだ。さあ、南さん。僕と一緒に家に帰ろう」
だが、楓は子供がイヤイヤをするみたいに首を横に振った。
松竹はそんな楓に対してため息をついただけだった。
「松竹君、おかしいよ。こんなのって・・・・・・こんなのって・・・・・・」
声にもならない声をあげる楓。松竹はそれがたまらなく可愛く見えた。
だがその視線が自分ではなく、結木に向けられていると気づくととたんに険しい表情になった。
「日高さん、君は元気なんだろう? 僕の気が変わらない内にそいつをどっかに連れて行ってくれないかな?」
顎で結木をしゃくりながら吐き捨てる。
「そいつのせいで僕の南さんはいつまで経っても素直にならないみたいだから――」
そして今度は安純を憎悪の念を込めて睨みつける。
その時、
「ごめん・・・なさい・・・・・・」
目に涙を浮かべた楓が、そんなことを口にした。
「まつたけ、くんが・・・・・・こんなことに・・・なったのは・・・ひくっ・・・・・・わたしの・・・せい・・・だから・・・・・・」
しぼり出すように言った楓に、
「なに言ってんのよ! あんたは何も悪くないじゃない」
安純が必死に否定した。
「・・・でも、私が・・・私が松竹くんのことをもっと真剣に考えていれば・・・・・・日高さんだって・・・・・・そんなひどいこと・・・・・・」
楓は安純や結木に降りかかった災難が、すべて自分の責任だと思っているようだ。
「ようやく分かってくれたみたいだね、南さん。ふふ・・・うれしいよ・・・・・・」
「違うわ! 南さんのせいじゃない! そうでしょ!?」
「ううん・・・・・・悪いのはわたし・・・・・・ぜんぶ・・・わたしなの・・・・・・」
「しっかりしなさいよ! みなみさんっ!」
「日高さん、みっともないよ。彼女がそう言ってるんだ。君がなんと言ってもムダさ」
松竹は優越感に溺れた。
今この場にいる3人を含め、状況の全てをまったく意のままに動かせる自分に。
楓に、安純に、そして憎き結木に対して。
「僕は結木に勝った。そうだろう? ねえ、南さん? そういうことだよね?」
「松竹くん・・・・・・私、松竹くんのいう事、何でも聞くから・・・・・・だからお願い・・・これ以上、日高さんも結木君も傷つけないで・・・・・・」
楓の懇願はどこか演技がかっているように見えたが、慢心の松竹がそれに気づくことはなかった。
「分かったよ・・・・・・。・・・・・・ん・・・ちょっと待って。それは結木のことがまだ好きだから、そんなお願いをしてるのかい? ・・・・・・いや、そうすると
日高さんはどういうことなんだ?」
松竹はしばらく考えたが、結論はすぐに出た。
「そうか。南さんは誰にでも優しいからね。ただ、これからはその優しさを僕にだけ向けてくれればいいんだよ。簡単なことだよね?」
そう意って楓に手を差しのべる。
ついて来いというのだ。
もしそれに従わなかったら・・・・・・。
何が起こるのかは楓にも容易に想像がつく。
「南さんだけを家に呼びたいと思っていたんだ。ずっと前からね」
今日、何度となく見た彼の不吉な笑顔。
「僕たちはそろそろ行くよ。日高さんも僕たちのことに口出ししてないで、そこに倒れてる結木の介抱でもしてあげなよ? 喜ぶよ、きっと」
松竹は楓の手をひいて、保健室を出ようとした。
「僕は南さんと、君は結木と・・・・・・。ね? さっき言ったとおり、理想のカップルの成立だろ?」
それだけ言って、2人は保健室を後にした。
「あんたは・・・・・・最低よ・・・・・・」
松竹の後姿に吐き捨てた安純は、結木のもとに駆け寄った。
そして彼が言ったように手厚く介抱する。
「でも・・・・・・こういうのも悪くないかもね・・・・・・私よりも先に南さんとヤッたところが気に入らないけど・・・・・・」