第15話 遺産

(魔導師への復讐。ただそれだけに縛られているシェイドは、ムドラの遺した秘術に手を出した)

 2人の手駒がもたらした吉報は、空っぽになりかけていたシェイドの心に春の風を呼び込んだ。
「そうか・・・・・・ミルカをね・・・・・・」
半信半疑でシェイドは頷いた。
(ミルカを始末した? この2人が・・・・・・?)
シェイドは自分を慕う2人の手駒に悟られぬよう、小さく笑った。
ムドラの民が、こんな役立たずどもに倒されるハズはない。
おそらく彼が言ったように不意を衝いたか、巧妙なワナでもしかけたのだろう。
そうでなければ誇り高きムドラの民が――現に彼女は最も警戒していたハズだ――矮小な使い魔に出し抜かれるハズがない。
一体どんな手を使って彼女を始末したのか、彼は少しだけ訊きたくなった。
しかしすぐにする必要のない質問だと思い当たり、代わりに別の質問をぶつけた。
「ジュエルシードの移送は終わったか?」
「ええ、滞りなくね。管理局の目をかいくぐるのは少し面倒だったけど」
ソレスが嬉しそうに言った。
「よくやってくれた。それじゃあそろそろ行こうか」
「うん♪」
何が楽しいのか、マカシもソレスも軽やかな足取りでシェイドについていく。
異性をひきつけるだけの十分な魅力を持つ使い魔を前にしても、彼の心が揺らぐことは全くなかった。
彼にとっては多少は役に立つものの、何かとウルサイだけのコウモリでしかなかった。

 ジュナーブル神殿。
この名を知るものはムドラの民の中でもごく少数だろう。
なぜならこの神殿に関する文献は、すでに焼かれてしまったのだから。
3人は悠然とこの神殿を目指して歩いていた。
今にも崩れそうな見張り塔があちこちにそびえ立っている。
これが本来の要を成していたのは何千年まえのことか。今でも原形をとどめているのが不思議だった。
彼らは巨大な石を積み重ねて作られた外壁の前に立った。
「いつ見てもすばらしいね・・・・・・」
シェイドが恍惚の表情でつぶやいた。
「そう? なんだか幽霊でも出そう・・・・・・」
何気なく返したマカシの言葉に、シェイドはあやうく彼女を本気で斬りつけるところだった。
(お前たちには到底分からないだろうよ。この荘厳で美しい建造物の価値が。古の民の息吹すらも)
だが彼の思いとは裏腹に、たしかにお世辞にも美しいとは言えなかった。
茶色と灰色が混ざり合ったような外壁、かろうじて形を成している見張り塔。
荒れ果てた道。そして彼女が言ったように、幽霊でも出そうなほど不気味な神殿。
ここはもうずっと昔から死んでいたようだ。
シェイドは2人を置き去りにするかのように早足で神殿の扉を開いた。
錆だらけの扉は1cm開くたびに嫌な音を立てる。
中に広がるのはただ闇だった。
あまりに暗いせいで、奥行きどころか自分がどの方向を向いているのかも分からない。
「ソレス、誘導してくれ。この奥に翼の紋章が描かれた扉があるハズなんだ」
元がコウモリの彼女らは、むしろ暗闇でのほうが活動しやすい。
「任せてよ!」
またも嬉しそうにはしゃぐソレス。
(その言葉を、あと何回聞けるのかな)
シェイドはソレスに手を引かれながら思った。
足場はあまりよくない。
ここで何が起こったのか、あちこちが崩れ落ちているらしい。
ちらばる瓦礫に足をとられながら、シェイドは目的の場所に一歩ずつ近づいていた。
不意にソレスが歩みを止めた。
「ここだよ。ほら・・・・・・」
そう言ってシェイドの手を前に突き出し、目の前の”壁”をなぞらせる。
金属の冷たい感触が伝わってくる。
「ジュエルシードはもう収めてるだろうね?」
「うん。言われたとおりに台座の上に置いてあるよ」
「そうか。よし・・・・・・」
シェイドは2人を退かせると、目の前の壁に両手をついた。
この壁は今となっては彼にしか開けることができない。
純粋なプラーナがカギとなっているためだ。
「2人とも、もう少し離れたほうがいいぞ」
言われるでもなく、2人はそうしていた。
暗闇よりも暗く邪念に満ちた力が、シェイドの両手からあふれ出す。
一陣の風が神殿の中を駆け巡り、生命の息吹を撒き散らした。
次の瞬間、シェイドの両手から・・・・・・正確には扉から無数の光球が飛散した。
光球はまるでそうすることが決まっていたかのように、一定のコースを走り抜ける。
床、壁、天井に張り付いた光球が溶け出し光源となる。
数十秒の後、ジュナーブル神殿は黄金に輝くかつての姿を取り戻した。
目もくらまんばかりの黄金の光が、神殿を内側から照らし、その荘厳さを引き立てる。
これで神殿内部の様子が、シェイドの肉眼でもハッキリと見て取れるようになった。
「いったい、なにが・・・・・・?」
マカシはまだこの明るさに慣れないのか、何度も目をこすりながら呟いた。
何が起こったかは明らかだった。何をやったのかが、彼女たちにはわからなかった。
シェイドは厄介者の使い魔の問いには答えず、静かに目の前の扉を開けた。
自分の身長の何倍もの大きさの金属製の扉。自分の体重の何十倍もの重さの厳かな扉。
それが彼にかかれば、まるで風に吹かれた紙片のようにたやすく開いた。
開け放たれた扉の向こうは闇だった。
しかしシェイドは臆することなく足を踏み入れる。
”この闇”だけは彼にはハッキリと見える。
黒一色にしか見えない空間でも、微妙な色の差があり、温度があり、神経を集中すれば息づかいさえ聞こえた。
「僕の声が聞こえるか?」
シェイドはその闇に向かって声を投げかけた。
数秒の後、空気が振動し、彼に意味のある言葉を伝える。
「 "Yes, my lord"(はい、我が主よ)」
「お前に充分な食餌を用意した。腹ごしらえをするといい」
「"Thank you, my Lord"(ありがとうございます)」
暗闇の中に淡い光が輝いた。
ひとつ、ふたつ・・・・・・。合計8個の光が現れ、闇の中に吸い込まれていく。
「今はまだ起きなくていい。お前のことは僕が一番よく知っている」
肩越しに2人の使い魔が覗き込もうとしているのに気付き、シェイドは何事もなかったかのように扉を閉めた。
「何を”しようと”したんだ?」
瞬間、シェイドが羅刹のような表情で使い魔を睨みつけた。
「え、えっと・・・・・・べつに・・・・・・」
マカシの額を一筋の汗が伝った。
「ここは君たちが入るべき場所じゃない。その姿を晒すことさえ・・・・・・」
それからまたいつもの優しいが翳ののある表情に戻って言った。
「まだ仕事が残ってる。手伝ってくれ」

「なのはの処遇が・・・・・・決まった」
クロノが沈痛な面持ちで言ったため、フェイトたちは必要以上に身構えた。
「彼女にはこれまでの功績がある。たった一度の不祥事で犯罪者名簿に名を連ねるのはあまりにも酷だということだ。
ただ――これはあくまで仮処分だから、今後どうなるかは・・・・・・」
「でも、とりあえずなのはは罰せられないんだね?」
フェイトがクロノに詰め寄った。
「あ、ああ。そうだ。でもさっきも言ったが、まだ”仮”なんだ。もしこれ以上、なのはに不利な出来事が起こったら・・・・・・。
つまり罪が功を上回った場合には・・・・・・」
「大丈夫だよ」
フェイトは微笑んだ。
「なのはなら大丈夫。これはチャンスだよ」
そう言うフェイトに、クロノは彼女が先日言ったことを思い出した。
”もしなのはがシェイドを捕らえたら・・・・・・”
とうてい成功するとは思えない。
それどころか、逆になのはが再びシェイドの手に落ちる危険がある。
これがクロノの考えだった。
だがフェイトが考えていたことは少し違った。
なにも、なのはが”最初から最後まで”そうする必要はない。
自分たちはシェイドを追い詰め、”最後の仕上げ”をなのはがやればいい。
そうすれば今回の戦いを終結に導いたのは、なのは一人だと主張することもできる。
重要なのは、どんな展開になっても”なのはがシェイドを捕らえる”ことだった。
フェイトはこの吉報を早くなのはに届けたかった。
なのはの精神状態はすでに安定しており、この報告を聞けばきっと喜ぶだろう。
フェイトはなのはの笑顔が見たかった。
「でも肝心のシェイドの居場所が分からないからねえ」
アルフは腕を組んでうなった。
「アルフの言うとおりだ。あいつは今ひとりのハズだ。これまで以上に慎重に行動するだろう」
「シェイドはいずれ・・・・・・ううん。すぐに動き出すよ・・・・・・」
フェイトがそっと漏らした。
「フェイト、何か言ったかい?」
アルフが怪訝そうに尋ねたが、フェイトは何も答えなかった。

「なのは・・・・・・」
医務室のドアを開けたフェイトは、なのはが思った以上に元気そうなのを見てホッとした。
「ごめんね、フェイトちゃん・・・・・・。いろいろ心配かけて・・・・・・」
「気にしなくていいよ。それより大切な話があるんだ」
なのはが身構えるようにフェイトを見た。
目を見ればわかる。これは悪い知らせではない。
「今のところ、罪には問われないって。なのはがこれまでに大きな事件を立て続けに解決に導いたからだよ」
その事件のうち、ひとつはフェイトの母親が引き起こしたものだ。
「でもこれは仮決定らしいから、まだ安心はできないんだけど」
「そう・・・・・・なんだ・・・・・・」
なのはの表情にふっと影がさした。
その影に光をもたらすことができるのは、フェイトだけだ。
「でも大丈夫だよ。なのはにはチャンスがあるから」
そう言ってフェイトは、なのはに現状を打開する方法を話した。
「そんなこと・・・・・・」
できるわけがない、と言いかけたなのはをフェイトが制した。
実際のところ、シェイドと最も長い時間を過ごしたのは誰あろうなのはだった。
つまり彼女が最もシェイドをよく知っているということだ。
彼の性格、彼の力、彼の戦いさえも。
これはシェイドと対決するにあたって、この上ない強みだ。
危険を伴なうが、なのはならきっとやり遂げる。
フェイトはそう信じていた。
今、この瞬間までは――。
「・・・・・・フェイトちゃん? ・・・・・・フェイト・・・ちゃん?」
なのはが何度も呼びかけるが、フェイトからの反応はない。





フェイトは闇の渦の中にいた。
とても暗く、とても深い。前も後ろも分からない真性の闇の中にいた。
ここでは五感は何の役にも立たない。
むしろ第六感の活動を妨げる足かせでしかない。
フェイトは闇の中を漂いながら、五感を捨てた。
何もないハズの空間に、何者かの意志が流れこんでくる。
”お前は滅びの最初を見るのだ”
声だ。
とても恐ろしい声がする。
闇の一部が切り取られ、それが触手となってフェイトの体を縛った。
”お前は滅びの最初を見るのだ”
男か女かすら分からない声が、フェイトの脳に直接届く。
これは誰の言葉だ? 誰の誰に対する言葉なのだ?
「・・・・・・イトちゃん・・・。フェイトちゃん!」





「な、なのは・・・・・・?」
「どうしたの? 顔色が悪いみたいだけど・・・・・・」
フェイトは夢から覚めたように辺りを見回し、最後になのはの目を見た。
「疲れてるみたい・・・・・・。私のせいだね・・・・・・ごめんね・・・・・・」
「ううん、なのはのせいじゃないよ。でも本当に少し疲れてるのかも」
フェイトは大袈裟に腕を動かしてみたが、やはり見えない力が彼女を押さえこんでいるように感じた。
「私ならもう大丈夫だから。だからフェイトちゃんも・・・・・・」
なのはが言い終わらないうちに、フェイトはふらふらと医務室を出て行った。

「情報部がシェイドの居場所を突き止めたわ」
リンディの突然の発言に、クロノは目を白黒させた。
「本当ですか?」
「こんな時にウソを言うわけないでしょう」
リンディは呆れた口調で言った。
だが本当に呆気にとられたのはクロノの方だった。
こんなにも早く、シェイドの所在が分かっていいのか。
あの計算高い彼が、どうして迂闊にも味方がいなくなってからミスを犯したのか。
それともこれはワナなのか?
「それで・・・・・・彼は一体どこに?」
「標準次元の辺境の地にある遺跡よ。彼が出入りしているのを見た人がいるの」
「遺跡? どうしてそんなところに・・・・・・?」
「分からないわ。もしかしたら彼は何かしようとしているのかもしれない」
「そうですか。でも遺跡のことなら・・・・・・」
「ええ、もうすでに彼を呼んでいるわ」
数分後。
”彼”がやって来た。
「遅いじゃないか、フェレットもどき」
「だれがフェレットもどきだッ!」
ユーノはクロノに怒鳴りつけると、瞬時に表情を変えてリンディにお辞儀した。
「ごめんなさいね。本当はあなたのこと、大好きなのよ。なのにこの子ったら素直じゃないんだから」
リンディは苦笑すると、情報部が入手した遺跡の画像をユーノに見せた。
「この遺跡に見覚えはないかしら?」
リンディから画像を受け取り、それを食い入るように見つめたユーノが顔色を変えた。
「これは・・・・・・ここは・・・・・・」
「何か知ってるのね?」
リンディが身をかがめ、ユーノと同じ目線になって言った。
「ここに・・・・・・シェイドがいるんですか?」
ユーノは逆に問うた。
「え、ええ。いると言うよりも、出入りしていると言ったほうが正しいかしら」
ユーノの体が小さく震えている。
それを見取ったリンディは、柔らかい口調で言った。
「話したくないなら別にいいのよ。ただ手がかりが欲しくて」
そう言ってはいるが、本心は知っていることを全て話して欲しかった。
手かがりにもなるし、何より管理局に属しているユーノには情報を提供する義務がある。
「ここは・・・・・・」
ユーノがゆっくりと口を開いた。
「ムドラが魔導師との戦いに敗れ、滅びた地です・・・・・・」
彼の口調から誇張でも冗談でもないことが分かる。
「僕が調べたところでは、ここがムドラの最後の砦だったようです。しかし魔導師の攻撃を受けて――」
その続きは聞く必要はなかった。その続きはさっき彼の口から聞いた。
ユーノには、シェイドが死ぬ場所を探しているように思えた。
そして見つけたのが、彼らの遠い祖先が滅びた忌まわしい地。
「調べる必要があるな」
クロノがアゴに手を当てて言った。
「そんな・・・・・・」
ユーノは反論しかけて慌てて口をつぐんだ。
どうして死者に鞭打つようなことをしようとするんだ?
ユーノはそう怒鳴りつけたいのを懸命にこらえた。
彼はムドラの過去に触れ、憐憫の情でいっぱいになった。
あの凄惨な争いは過去のもので、現在に生きている自分たちには関係のないことなのか?
もしそうだとしても、シェイドはそうは思っていない。
過酷な地で彼は生き抜いてきたではないか。
母親や妹を手にかけた彼は狂っているかもしれない。
しかしそうさせたのは、間接的には自分たちではないのか。
彼にはもう、ほとんど全てのことが分からなくなっていた。
そしてそんな彼をさらに痛めつけるように、
「万が一に備えて武装局員を派遣しましょう。一刻も早くシェイドを捕らえないと」
リンディがそう宣言した。

 黄金に輝く神殿の内部にいて、シェイドは外の様子の変化を感じ取った。
プラーナの闇が、目で見るよりも遥かに鮮明な映像をシェイドにもたらす。
「思ったよりも早かったな・・・・・・」
シェイドはおもむろに立ち上がり、2人の使い魔に思念を送った。
(戦いの準備をしろ)
彼は短くそれだけ伝えると、再びあの扉の向こうに消えた。
真の闇が彼の無限とも思える力を与える。
漆黒の中に生まれる吐息が、彼の感覚を研ぎ澄ます。
「”My load”(我が主よ)」
暗闇の中で意思が語りかけた。
「ド・ジェムソ・・・・・・不完全なままお前を目覚めさせるのは不本意だが・・・・・・」
シェイドが静かに答えた。
「奴らに気付かれたようだ。じきに攻めてくる・・・・・・」
彼には数時間先の様子が見えていた。
「”Please leave it to me. I beat them.”(おまかせ下さい。私が始末いたします)」
「ああ、もちろんだ。だけど少し不安がある」
シェイドには数時間先が見えていたが、それより先が見えなかった。
「お前はまだ不安定な状態だ。それが災いするかもしれない」
「”Please be not worried. I will win.”(ご安心を。私が負けることなどありえません)」
「頼もしいな、ド・ジェムソ。お前ならできる。あの忌まわしき魔導師どもを殲滅しろ」
「”It will be done, my load”(仰せのままに)」
闇の中で何かがひざまずいた。
「ああ、そうだ。忘れていたよ」
ふと思い出したようにシェイドが言った。
「魔導師と一緒にあの2人も始末するんだ」
「”However, are those two persons our friends ?”(しかしあの2人は仲間では?)」
シェイドは口の端に笑みを浮かべて言った。
「いいや、彼女らは僕たちの敵さ。彼女らが生まれた瞬間からね・・・・・・」

 アースラ艦内は未明から慌しかった。
シェイドの居場所を突き止めたという情報のみが先走り、クルーの多くは右往左往している。
ユーノは身を切られる思いで、シェイドが確認された遺跡のことをメンバーに説明した。
誰もがそれぞれに沈痛な面持ちだった。
特になのはは回復したとはいえ、やはりシェイドやムドラの過去を話すのは早すぎたかもしれない。
この中でクロノだけはいつものクールさを保っていた。
執務官としてよほど厳しい教練を施されたのか、顔色ひとつ変えない。
分かっているのだ。
情けをかけたり甘さを見せたりすれば、それだけで命取りになる相手であることを。
「アースラには必要最低限の人員のみを待機させ、残りは全て遺跡を目指します」
リンディが草案を読み上げた。
そういえばムドラが関わる事件では、人選から何からシェイドが一任されていた。
まさか彼までもがムドラであったという皮肉。彼がムドラであったという悲しさ。
リンディは感情を捨て、アースラの艦長に戻った。
これから起こるべき戦いは憐憫でも私憤でもない。
「彼があの遺跡で何をしようとしているのかは分からない。ただムドラに関する重大な何かであることには違いない」
クロノが言った。
どうしてこの男はこれほど冷静――もしくは冷徹――でいられるのか。
あるいはそうならざるを得ないのかもしれない。
ここにはアースラの武装局員400名が集結している。
まだ自分の手に慣れていないデバイスを持って。
歴史に堪能なユーノも含めて、彼ら全員がシェイドはひとりだと思い込んでいる。
にもかからわず、この人数は決して多すぎるということはなかった。
むしろシェイドを確実に捕らえたいなら少なすぎるくらいだ。
「あいつを捕まえれば全て終わるってことだね」
アルフが両拳を握りしめた。
「アルフ・・・・・・」
フェイトが耳打ちした。
シェイドを捕まえるのは、なのはの仕事だよ。
そういう意味の言葉をささやいた。
「捜索は2時間後。予定どおりA班は遺跡の外周を。B班、C班は内部を捜索します」
リンディが作戦を言い渡すが、そもそも今回に限っては作戦などない。
シェイドの所在を突き止めたのが半日前だ。
その後、情報の裏づけが得られ、今に至る。
この広大な次元の中で、たった一人の人間を見つけ出すのは限りなく不可能に近い。
このチャンスを逃がすまいと、なかば場当たり的な捜索に踏み切ったのだ。
捜索というより、捕縛に近い。
作戦にあたり、武装局員ばかりが集められているのがその証拠だ。
フェイトたちはシェイドに対抗しうる貴重な戦力として内部を捜索することになっている。
貴重な戦力というより、切り札と言ったほうがいいかも知れない。
そしてフェイトが先ほど述べたように、この戦いを直接終わらせるのは、なのはだ。
しかし今は、彼女のその想いが揺らぎ始めている。
ユーノはふと、なのはを見やった。
彼女は怯えているようだ。
小さな体を小さく震わせている。
誰よりも複雑な想いを抱いているのは、おそらく彼女だろう。
シェイドを最後まで信じていたのは彼女だ。
その純真な想いで・・・・・・。
それを知っているだけにユーノは、ここにいることすら耐え難かった。
しかし背を向けることはできない。
なのはだって耐えているんだ。
自分ができなくてどうする。
「では解散します。各自、準備を怠らないように」
ユーノの耳にはリンディの言葉はほとんど届いていなかった。

 

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