第12話 温かな日

(影との熾烈な戦いの中、哭礼の日がやってくる。しばしの休息。しかし闇はフェイトの前にも姿を現した)

 

 闇は強大だ。

 闇はあらゆるものの頂点に立つ。

 黒く、深く、冷たく、艶やかで、そして尊い。

 闇を構成する最小単位である影には、それら魅力の全てが備わっている。

 

 地中から這い出たヒューゴは、彼が実は嫌っている同志を待った。
重要な報告をしなければならない。
おそらくあの長ったらしい名前の男はその報告に激怒するだろう。
そう思っていると、地上の一部が盛り上がり、彼が待っていた男――ハイマンが現れた。
「ヒューゴよ。ソルシアはどうした?」
ハイマンは聞く前から、すでに事実を知っているようなことを言った。
ヒューゴはやや間をおいて、
「ソルシアは消えた」
と静かに言った。
その口調があまりにも暗いために、喪に服しているかのような沈痛さがある。
実体を持たない影は、”死”という言葉を使わない。
彼らの死は、”消滅”と表現する以外にないからだ。
「連中と交戦している間に、どこかに飛ばされたらしい。おそらく手を下したのは・・・・・・奴だ」
ヒューゴの口調は今度は一転して、憎しみのこもったものに変わった。
憎悪は彼らに力を与える。
「お前がいながら・・・・・・主に何と報告すればよいのだ」
思ったとおり、ハイマンは静かに怒った。
彼らにも仲間意識くらいはある。
ハイマンが怒ったのは、主の意志に添えなかった事とソルシアを喪った事への怒りのためだった。
「事実は事実として報告すべきだよ。それとも、ソルシアの消滅は主には伏せておくか?」
ヒューゴが挑戦的な視線を送った。
「・・・・・・主には真実を告げる。が、お前の罪は免れんぞ」
「罪? ボクの罪とは何のことかな?」
「お前とソルシアが動き、私が報告を待つ。主はそう命じられた。ならばお前はソルシアであり、ソルシアはお前であるということになる」
「・・・・・・」
「ソルシアが消滅したということは、お前が消滅したのと同じだ。だが、お前は今、ここにいる。これは主の命に反していることになる」
耳を傾けていたヒューゴは、ハイマンの詭弁に辟易した。
ため息をついた彼はやっとひと言だけ、
「じゃあ僕も消えればいいのか?」
と返した。
「主の意志に背かない方法がひとつだけある」
ハイマンは皮肉を込めて言った。
「お前が奴らを消すことだ。闇にとって唯一、脅威となるのは奴らだけだ。それを取り除けば主はお喜びになろう」
論破した、とハイマンは思った。
何が原因でこの2人が険悪な仲になっているのかは、もはや当事者も忘れてしまっている。
「言われなくてもそうするよ。ところで、ハイマン――きみも主の意志に背いていることに気付いているかい?」
ハイマンは目を細めてヒューゴを覗き見た。
「きみの役割は”報告すること”だ。僕に指示を与えることじゃない」
ヒューゴは厭らしい笑みを浮かべると、宇宙のどこかに消えた。
「気に食わん奴だ。主は何故、あのような奴をお創りになったのか・・・・・・」
とハイマンは嘆いたが、ヒューゴに言わせればこれも主の意志に背いていることになる。
彼自身はその事に気付いてはいないが、常に主の注意が自分に注がれているような恐怖を感じた。
が、幸いなことに影にとって恐怖は力の源となる。
ハイマンの力は恐怖を感じることで少しだけ強くなった。

 

 あまりにも呆気ないソルシアの最期に、ブライトは多少の不安を覚えながら帰艦した。
ソルシアを人間に置き換えれば、彼女は間違いなく死んだ。
それは直接手を下したブライトが一番よく知っている。
彼が不安を抱いているのは、幕切れの呆気なさだ。
仮にも他と違い、明らかに強さが際立っていたソルシアがあんなにも簡単に倒せるものなのだろうか。
エダールセイバーは彼が思っている以上に強い武器なのか。
あるいはタレントムに降り注ぐ強い日差しが、ソルシアの力を弱めたのか。
ブライトはそのどちらもが理由だろうと思い込むことにした。
不安は恐怖につながる。恐怖は闇を生む種になる。
ひとり通路を歩くブライトは、フェイトたちが待つ艦橋へ急いだ。
民間協力者とはいえ、アースラから現場に向かっている以上、報告する必要があるだろう。
いい加減、慣れてもよさそうなものだったが、ブライトはこの瞬間が嫌いだった。
「失礼します」
ブライトがさげた頭を上げると、やはり艦橋にはいつものメンバーが揃っていた。
「お疲れ様」
というリンディの声がなぜか静かだ。
「大体のことは皆から聞いたわ」
「そうですか」
「ソルシアは――?」
リンディが言った途端、全員の視線がブライトに集中した。
無言の威圧感をはねのけるように彼は、
「僕が倒しました」
と短く、鋭く答えた。
この時の反応から察して、クロノは半信半疑だったに違いない。
”僕でさえ苦戦する相手を、なぜきみが?”
という目で彼を見ている。
「間違いありません。ソルシアとは影のできない場所で闘いましたから」
言ってから”しまった”と思ったのは彼ではなく、それを聞いていたフェイトだった。
しかしリンディは後半部分は聞き流し、
「そう・・・・・・とにかくお疲れ様。大変だったわね」
と母のような笑みを見せた。
「でもまだ、ヒューゴって奴が残ってるね」
と水を差したのはアルフだった。
「あいつさえ倒せば、闇はもう襲ってこなくなるのかい?」
「・・・・・・なんで僕に訊くんだい?」
ブライトはアルフの直視から逃れようとした。
「いや、あんたなら何か知ってそうだからさ」
「僕は何も・・・・・・。管理局の書庫にはそういう情報はないのか?」
「調べてるんだけど、決め手はまだ見つかってないよ」
急に話を振られたユーノは詰まることなく返す。
このやりとりを静観していたリンディは立ち上がって、
「とにかくソルシアが倒れたことで、影にも動きがあるかも知れないわ。油断はできないけれど・・・・・・」
リンディが言いよどんでいると、
「でも休養も必要だ。そういうことですよね?」
エイミィが繕うように言った。
「そういうこと」
リンディが笑った。
「詳しい報告は明日、改めて聞かせてもらうわ。ここのところ事件が頻発していたから、今日はみんな休んでちょうだい」
だからリンディは人望があるのか、とブライトは彼女の魅力が分かった気がした。
彼女の言葉を合図にまずアルフ、続いてなのは、ユーノ、クロノが艦橋を退く。
フェイトは何か言いたげだったが、結局何も言わずに黙って艦橋をでた。
「あ・・・っと、ブライト君は少し残ってくれるかしら?」
立ち去りかけたブライトの背中に、リンディの鋭い語気が突き刺さった。
「・・・・・・はい」
断る理由もなく、彼は素直に言葉に従う。
ここで話すのかと思っていたブライトは、リンディがエイミィに後を頼むと言ったのを見て不審に思った。
「別室でお話しましょう」
そう言い、リンディはブライトを伴なって静かに艦橋を後にした。

 

(取り調べだな)
ブライトは思った。
言われるままにリンディについて行った彼は、アースラ中部にある個室に通された。
クルーにあてがわれている部屋と大差のない広さ。
寝泊りするだけなら充分なスペースだが、ここにはベッドや寝具を収納する場所は無い。
あるものと言えば、部屋の中央に置かれた無機質なテーブルと、互いが向き合うように固定されたイスだけだ。
(さっきのことだろうか? でもあの案にはリンディさんも賛成してくれていたが・・・・・・?)
「どうぞ、座って」
先に座らずに彼にイスを勧めるあたり、リンディにも礼儀を重んじる心が戻ってきたのだろうか。
それとも以前のブライトの言葉が響いているのだろうか。
(もしかして駐屯地で僕が暴れたことだろうか。そういえばまだ弁償してなかったな)
ブライトは不安を顔に出さず、
「ではお先に失礼します」
礼儀に対しては礼儀で答える。
ブライトは会釈するとイスに腰かけた。
それを見届けてリンディも向かい合わせに座る。
「のど、渇いてない? 何か淹れて来ましょうか?」
「あ、いえ。気になさらないでください」
リンディの申し出をブライトは鄭重に断った。
(本当はカラカラだ。でも今だけはお茶ものどを通りそうにない)
ここには時計がないから、時間が分からない。
この短いやりとりが、ブライトには1時間とも2時間とも感じられた。
「それより、何ですか? 報告は明日でもいいということでしたが?」
「ええ、その事なんだけれど」
リンディは途端に真剣な表情になった。
思わずブライトも身構えてしまう。
「ソルシアは本当に倒れたのかしら?」
いきなり予想もしない言葉に、ブライトは無意識に目を細めた。
「僕をお疑いですか?」
と訝る彼に、リンディは慌てて、
「ち、違うの! そういう意味じゃないわ。ただ――」
ブライトの反応を窺いながら慎重に言葉を選ぶ。
「影については不透明な部分が多いわ。あなたがソルシアを倒した、と言う根拠が知りたいの」
彼は知らないが、リンディはソルシアが消滅するところをモニター越しに観ていた。
といっても索敵が間に合わず、リンディがタレントムに姿を見止めた時にはすでに彼の光刃がソルシアを貫いている時だった。
そのためソルシアとブライトの会話は聞いていない。
「ディーモスでの戦いを覚えていますか? 僕たちがソルシアと戦ったあの時です」
「え、ええ。覚えてるわ」
「あの戦いでフェイトさんは確かにソルシアを倒しました。が、彼女はビルの陰から蘇った・・・・・・いえ、陰に逃げたのです。
その後、僕も彼女を倒した。倒したハズでした。でも彼女はそれでも生きていました」
「ええ」
「思ったんです。そもそも僕たちが連中を”影”と呼んでいるのはなぜか?」
「確かに・・・・・・。見たままに言ったかもしれないわ」
「そうです。連中は”影”そのものなんです。だから陰がある場所で戦っても僕たちに勝ち目はないんですよ。
ならば逆に、光の中で戦えばいいんですよ」
「ちょっと待って。少し飛躍していないかしら?」
次第に熱の入るブライトの口調を、リンディはそれとなく制した。
「あなたの言うことはもっともだけど、影を倒せると確信できる根拠にはならないわ」
リンディはブライトの推論の穴を突こうとしているのではない。
未だ実態が見えてこない影に対し、確証のない推論だけで戦おうとする姿勢を諌めたいだけだ。
結果的にソルシアは消滅しているが、これが彼を驕らせるのではないかという懸念をリンディは抱いている。
「しかし陰のある場所で倒せないなら、光の中で戦うしかありません。今のところ、影への有効な策はこれしかないと思っています」
それに比べ、ブライトの意見は建設的だ。
しかも実際に彼の手でソルシアを倒しているために言葉にも説得力がある。
「あなたは強いわね」
突然、リンディが調子を狂わせるようなことを言った。
「いえ、僕は弱いですよ」
ブライトはわずかに逡巡したが、すぐに彼女の言葉に合わせるように返した。
「でも強くなります。闇と戦うためには強くなるしかありませんから」
「違うわ。私が言っているのは、あなたの想いの強さよ」
「想いの強さ・・・・・・ですか?」
「ええ」
リンディは遠くを見つめるような目をして呟いた。
その様子からこの話題は終わったとブライトは直感した。
「あなたによく似た子がいたの」
「シェイド君ですか?」
あまりに速い反応にリンディは目を丸くしたが、すぐに頷いた。
「彼は勇敢だったわ。それに強かった。私たち魔導師の祖先がムドラを滅ぼしたせいで、あの子は復讐のためだけに生きていたけれど。
でもあんな過去がなければ、あの子はきっと今も生きていたハズよ」
リンディの口調は遠い昔を語っているようだ。
「歴史に”もしも”はありませんよ?」
ブライトは自分に対する皮肉を込めてそう返した。
「そうね・・・・・・。でもそう願ってしまうのよ・・・・・・」
リンディの言葉は憐憫の情を誘う。
ブライトはかける言葉がみつからず、
「彼は僕たちの誇りです」
とだけ言った。
「あなたは私たちを恨まないの?」
突然、リンディが訊ねた。
「なぜです?」
「あなたが影と戦うためにここにいるのは、実は影がムドラの民を襲っているからじゃないかと思って」
「どういうことですか?」
「もし影がムドラではなくて私たちだけを狙っていたら、あなたは戦っていなかったのかも・・・・・・つまり――」
「つまり、僕がアースラに留まっているのは本意じゃないかもしれない、ということですね」
「ええ・・・・・・」
大人だ、とリンディは思った。
彼は言いにくい事を自分に代わって言ってくれる。
「僕は魔導師を憎みません。ですがムドラの民全員がそう思っているとは限りません」
ブライトはさりげなく話をすりかえた。
「大抵の親は自分の子供に、自分たちを劣悪な環境に追いやった魔導師を憎むように教えます。
アンヴァークラウンにはいくつかの歴史書が残っていますが、それもムドラの興亡に関わるものばかりです」
ブライトの声は暗い。
「中にはそういう怨恨を捨てて、前向きに生きようと教える親もいます」
「それじゃあ、あなたのご両親は・・・・・・」
「もちろん、後者です」
ブライトは即答した。
短く言ったつもりだったが、この言葉にリンディは何かを感じ取った。
(もしかしたら、この子のご両親はもういないんじゃないかしら・・・・・・)
彼女にそう推察させるほど、彼の口調は暗く沈んでいた。
「でも時間が経てば、やがて民の心から魔導師に対する怨恨は消えると思います。そう信じています。
だからこそ、僕たちの和平を邪魔する影が許せないんです」
リンディはこのごく当然の理由に感心した。
彼の誠実さと想いの強さが充分に伝わってきたからだ。
「ブライト君」
リンディは改まった口調で言った。
「明日、何か予定はあるかしら?」
「いいえ、特にありませんが――」
「そう・・・・・・良かったわ」
「・・・・・・?」
まさかデートの誘いか、と思ったブライトは慌ててその考えを打ち消した。
「明日、哭礼があるの。あなたにもぜひ参列してほしいと思って」
「こくれい?」
「ええ。明日は魔導師とムドラが和解してちょうど50日目なの」
「もうそんなになりますか」
「私たちの和平のために命を落とした犠牲者を追悼したい、というのが趣旨なんだけれど・・・・・・」
語尾を濁したリンディを訝りながら、ブライトは瞳に強い意志を宿して、
「参列させてください」
と言い切った。
「ありがとう。きっとみんなも喜ぶわ」
と言うリンディの口調からは、すでに彼女は別のことを考えているようだった。
沈黙が続く。
二呼吸ほどおいて、リンディが口を開いた。
「提督という仕事はね、案外単純なものなのよ」
「はい・・・・・・?」
見当はずれなことを言われ、ブライトは思わず気の抜けた返事をした。
「どういうものだか分かる?」
「さ、さあ・・・・・・」
(何の話をしてるんだ?)
ブライトは一瞬、自分に空虚な時間があったかと思い返した。
話題の変わり方が甚だしいために、リンディの話を聞いていなかったのかもしれない。
と思い返してみたが、意識ははっきりしており、リンディが唐突に話題を変えたのだと分かる。
「簡単よ。クルーの安全を守り、任務を完遂すること。ただ、それだけ」
リンディは微笑んだ。
「そのためには常に冷静でいる必要があるの。だから私は特定の考え方に縛られないようにしてるつもりよ」
「ええ、何となく分かります」
分からない。
リンディが何を言わんとしているのか。
そもそもそれを僕に言ってどうするんだ。
とブライトは言い返したかったが、さすがに躊躇った。
「人はみな死ぬものだわ。でも死んだ後、人はどうなるのかしら・・・・・・」
リンディはちらっとブライトを見た。
彼女の呟きに目をそらしていたブライトはその視線に気付かない。
「あなたはどう思う?」
問いかけるリンディの瞳には挑戦の色が見える。
無視することもできないブライトは、
「・・・・・・分かりません。僕には難しすぎます」
とだけ述べておいた。
多くを語ることは不要だ。
「――そうかしら?」
なぜか途端に鋭くなったリンディの視線に、ブライトは心臓を射抜かれたような感覚になった。
含みのある笑みを浮かべてリンディが立ち上がった。
「ごめんなさいね、ヘンな話になっちゃって・・・・・・」
「いえ・・・・・・」
「あなたが何か焦っているように見えたから、諌めたかっただけなのよ」
「分かります。僕も軽率なところがあると自覚してますから」
ブライトは話を切り上げようとした。
ここは居心地が悪い。
それを察したリンディも無理に引き止めるような無粋な真似はしない。
「言いたかったのはそれだけよ」
この一言にブライトはどれほど救われただろうか。
苦痛の時から解放された彼はこの後、二、三言葉を交わして部屋を出た。

 

 アースラ内部はこの日、厳かな雰囲気に包まれた。
ホールには航行に必要な人員を除いた全てのクルーが集った。
中央に設けられた祭壇は木製で、左右には白と黄の花が添えられている。
やや離れたところにある石碑には、ムドラとの戦いで命を落とした者の名が刻まれている。
リンディは祭壇の前で跪拝した。
あちこちからすすり泣きが聞こえてくる。
フェイトやなのはは前列に、ブライトだけはやや後列で跪(ひざまず)いた。
その最中、ブライトは失礼に当たらない程度で周囲を盗み見た。
宗教の違いからか、追悼といってもそのやり方は様々だ。
多くはリンディに倣って跪拝しているが、中には何事かを唱えている者もいる。
ブライトはムドラの作法に則り、右手を胸にあてて黙祷を捧げた。
ただし彼とフェイトだけは、追悼する対象が他に比べて1人だけ少ない。
石碑の上には”シェイド・B・ルーヴェライズ”とある。
彼はそのやや下、4人の名を見て涙を流した。
(ツィラ・・・・・・レメク・・・・・・イエレド・・・・・・ミルカ・・・・・・)
ブライトは胸の中で彼女らの名を呼び、直後に激しく悔恨した。
(僕のせいで喪わなくてもいい生命を――)
今また、彼の体が抜け出た闇が人々を襲っている。
(これ以上、もう誰も死なせない!)
彼が改めて抱いた強い決意を、フェイトは厳かな空気の中で感じた。
そのフェイトも、拝した姿勢のまま微動だにしない。
それを横目で見たなのはは、急に不安になった。
(もしかして、シェイド君のことを考えてるの?)
こんな時に何を考えているんだ、となのはの理性が働く。
しかし黒いヘビに理性を喰われつつある彼女に、不安を抑えつける力はほとんど残っていない。
不安は疑念に変わり、疑念は恐怖に彩られ、そして究極的には憎悪に変貌してしまう。
今、なのはが感じているのは怒りだった。
愛するフェイトの心を奪ったシェイドに対する憤り。
しかも文句を言おうにも、その彼は表向きでは夭逝したことになっている。
(フェイトちゃんは・・・・・・もう私のことを見てくれないの?)
淋しかった。
誰よりもフェイトのことを理解していると思っていたなのはが、フェイトの気持ちを自分に向けることのできない無力さが。
もどかしかった。
どこにもいないシェイドに怒りをぶつけられないことが。
なのはの葛藤を知っているのは、彼女に取り憑いた闇だけである。
「提督、そろそろ・・・・・・」
黙祷を続けるリンディに士官が声をかけた。
提督の辛いところは、常にアイデンティティを捨てなければならないことだ。
アースラの全権を握る代わりに全責任を負っている彼女は、ひとつの出来事に執着できない。
たとえ追悼式であっても、いつまでも悲しみにくれ涙を流していては、クルーの士気に影響する。
せめて喪を発している間だけはリンディ・ハラオウンでありたい、と願う彼女を現実は理解してくれない。
彼女はもう一度、祭壇に向かって頭を下げてホールを出た。
これに続くかたちでクロノもホールを出る。
それぞれに哀悼の意を捧げたクルーたちは、しずしずとその場を後にする。
フェイトとなのははほぼ同時に立ち上がった。
それに倣うようにアルフとユーノも立ち上がる。
「そろそろ出よう」
という言葉は誰の口からも出せない。
それを言ってしまっては、戦没者への追悼の心に傷がつく。
あくまで自然に、自発的に退席するのが一番よい。
立ち上がったところでフェイトがブライトを見ると、彼はまだ黙祷を捧げている。
「みんな、先に出ててくれる?」
フェイトは極めて小さな声でそう言った。
3人はそれに従い、音を立てないようにホールを出て行く。
なのはだけが途中、振り返って2人を見た。

 

 最後にホールを出たブライトは、沈痛な面持ちのまま通路を歩く。
まるで力が抜けたように、フラフラとした足取りで部屋に戻ろうとする彼を誰かが支えた。
「すみません・・・・・・あ、フェイトさんか・・・・・・」
「大丈夫?」
フェイトはそっと彼の顔を覗き見る。
血色はいいが、瞳に元気がない。
ここから彼の部屋まではやや距離がある。
フェイトは彼を近くの休憩所まで連れて行き、長イスに座らせた。
「ごめん、ツィラたちのことを考えていたから・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
フェイトは何も言えなかった。
ブライトのしたことは罪かもしれない。
実際に多くの命を奪った事実は変わらない。
だが犠牲者の怨恨を買うことを覚悟で言うなら、彼ももう充分に苦しんだハズだ。
なのに今なお、彼は償いきれない罪を償おうとしている。
(シェイド・・・・・・)
こんな時、何もできない自分がもどかしい。
「僕は・・・・・・闇さえ祓えば終わると思ってた。人々を襲う闇さえ倒すことができれば、と。そのために戻ってきたんだ。だけど――」
彼の瞳はますます光を失っていく。
「それは始末をつけただけで、償いにはならない。教えてくれ、フェイトさん。僕は・・・・・・僕はどうしたら贖罪できる?」
ブライトは悔しそうに唇を噛んだ。
彼の心は痛いほど伝わってくる。
フェイトは静かにそれに答えた。
「あなたがそうやって苦しむこと・・・・・・それが何よりの償いだよ」
彼女の声には包容力がある。
実際、ブライトは自分よりもずっと幼いこの少女に母親と同じ何かを見ている。
「本当か? 本当にそれで償いになるのか?」
フェイトは頷いた。
「なら僕にはまだ償いが足りない。本当の苦しみを味わってない。僕は――」
フェイトはそれ以上、彼には言わせなかった。
少女の手が少年の頬にそっと触れた。
彼女は真っ直ぐに彼を見つめる。
「そんな目で見ないでくれ。落ち着かない」
彼はふっと顔をそむけた。
そうでもしなければ、ブライトはあの興奮をもう一度味わおうと、彼女の唇を奪ってしまいそうになる。
(不謹慎だ。こんな時に・・・・・・)
ブライトにも理性があるが、フェイトの澄んだ瞳がそれを妨げる。
「フェイトさん・・・・・・」
ブライトは彼女の手をそっと払いのけると、目を閉じて天を仰いだ。
本当は抱きしめたい。
この手で抱きしめたい。
彼女と一緒になりたい。
ブライトはそう思うが、別の自分が、
――僕にはそうする資格はない。
と彼女を拒む。
「あなたが苦しんでいるのを見るのは辛いから」
フェイトは呟いた。
その時、
「フェイトちゃん? ブライト君も・・・・・・」
という声が聞こえ、2人が慌てて振り向くとなのはがいた。
「なのは、どうしたの?」
突然の登場にフェイトの声がうわずってしまう。
もし、なのはが来るのが数秒遅れていたらフェイトは彼のことを、”シェイド”と呼ぶところだった。
それを聞かれていたかもしれないと考えると、さすがのフェイトも動揺を隠せない。
「うん、フェイトちゃんの部屋に行ってもいなかったから、どこに行ったのかと思って」
なのはは恥ずかしそうに俯いた。
(・・・・・・・・・?)
ブライトはなのはが自分に冷たい視線を送ったような気がした。
(気のせいか)
なのはにそんな視線で見られる覚えはない。
ブライトはつまらない疑念を頭の隅に追いやった。
「あ、もしかしてお邪魔だったかな?」
なのはが憚るように言った。
そうは言ったものの、彼女はこのまま引き下がるつもりはない。
「いや、そんなことないよ」
と答えたのはブライトのほうだった。
「きみもいろいろ大変だっただろう?」
ブライトは話を振りつつ、内心ではなのはの登場に感謝している。
彼女が現れなければ、ブライトはフェイトへの恋心を行動に出してしまっていたかもしれない。
なのははフェイトの横に腰をおろした。
「せめてこういう日くらい、何もなければいいけど・・・・・・」
と、なのはは小さく言った。
「そうだね・・・・・・」
フェイトも小さく返す。
「やっぱり、分かり合えないのかな?」
なのはの考えている事はフェイトにはよく分かる。
分かるからこそ、彼女はブライトを見やった。
「どうやっても分かり合えない相手だっているさ」
とやんわりと言ったブライトに、珍しくなのはは語気を強めて、
「でも、言葉があるんだよ? 話せるんだよ? だったら話し合いで解決することだって――」
「きみのやり方は正しいよ。だけど闇を相手にそのスタンスを貫くなら、それは間違いだ」
ブライトは斬り捨てた。
この時、なのはは露骨に厭そうな顔をした。
シェイドに似ている、と彼女は思った。
言い回しではなく、根拠もないのに断言する言い方が彼に似ている。
「奴らに話し合いは通じない。ケガをするだけだぞ」
甘えを見せてはいけない、とブライトは思った。
話し合いの余地がないことを示しておかないと、なのはのことだ。きっと無謀な会話を重ねることになる。
「フェイトちゃんはどう思う?」
そう訊くなのはには、ブライトに対する諦めの念がある。
彼に訊いてもムダだ。
でも彼女なら――。
彼女なら自分の言うことを分かってくれる。
「私は・・・・・・」
フェイトとしてはなのはの気持ちを尊重したい。
しかしここに於いてはブライトの言葉のほうが正しい。
迷った末に、彼女は言った。
「私もブライトの言うとおりだと思う。話し合いが通じないことだってあるよ」
分かってはいるが、フェイトは辛かった。
「・・・・・・・・・」
この瞬間、なのはは自分を見失った。
フェイトちゃんだけは分かってくれると思っていたのに・・・・・・。
なのはは失意の海に溺れそうになったが、持ち前の明るさで辛うじて持ちこたえた。
「そうだね・・・・・・うん、そうかも知れないね」
なのははそう言って苦笑したが、もちろん納得はしていない。
彼女の小さな感情の揺れを察したフェイトは、そっとなのはの手を握った。
(なのはは間違ってないよ)
というフェイトの気遣いが、体温を通してなのはに伝わる。
なのははそれだけで満足だった。
そうだ、彼女はブライトの手前、彼の意見を取り入れただけだ。
彼女は本当は私の考え方に賛成しているんだ。
そう思うと途端に、なのはは満たされた思いになる。
「何か食べないか?」
突然、ブライトが言った。
彼は彼でどこか居心地の悪さを感じているらしい。
「うん。私も少しお腹が空いたなって思ってたところ」
フェイトがそれに賛同して立ち上がる。
3人はそのまま食堂を目指す。
途中で気付いたが、ブライトの足はしっかりと床を踏んでいる。

 食堂には何人かのクルーがいるが、その表情は暗い。
哭礼の後だから当然だが、それでも食事だけはできるのだから、そこに人間としての生への執着が感じられる。
3人は入り口からやや離れた場所に席をとった。
運んできたのは数種類のパンにフルーツジュースという軽食だ。
遠慮がちなブライトは先に2人の少女が口にするのを見届けてから、自分もパンをほおばる。
あまり美味しくはなかったが、とりあえず空腹は満たされる。
「はあ・・・・・・」
なのはは無意識にため息をついていた。
「なのは、大丈夫?」
フェイトが心配そうに顔を覗きこむ。
「最近、疲れてるみたいだけど・・・・・・」
「ありがとう。うん、大丈夫だよ」
と言うなのはは無理をしている。
フェイトは何となく気付いているのだが、それ以上の言葉をかけるのをためらった。
「無理もないよ。こう戦いの連続だとね。心も体も休まらないな」
強引にパンを口に押し込んでブライトが言った。
「ブライト君は大丈夫なの?」
なのはに逆に訊かれ、ブライトは戸惑った。
「いつも一番に戦ってるから――」
「ああ――」
たしかになのはの言うとおり、ブライトはいつ休んでいるのかと思うほど動いている。
影が現れたという報告が入ると、まず任地に赴くのは彼だ。
敏速なクロノやクルーですら、彼の後を追うかたちで戦場に到着する。
「僕は気力で頑張ってるって感じかな。影の横暴を許せないんだよ」
ブライトが語気を強めて言った時、なのはに異変が起こった。
あの黒いヘビがいつのまにか彼女の中に入り込んでいる。
潜伏していた黒いヘビが、ブライトの言葉に呼応するようになのはに語りかけた。





”彼に心を許すな”
黒いヘビの声は一貫して冷たい。
冷たいだけでなく、暗く、鋭い。
”彼は危険だ。お前とお前の愛する者の仲を引き裂くぞ”
この言葉が、なのはの心をどれほど抉っただろうか。
『そんなことさせない』
なのはは心の中から響く声に心で答えた。
”お前の望みを叶えるためには、彼を消すしかない”
『消す・・・・・・? それってどういう・・・・・・』
”倒せ”
黒いヘビは短くそう言うと、なのはの体から素早く離れた。





「なのは・・・・・・?」
フェイトは遠慮がちに声をかけた。
彼女は気付いていた。
時々、こうしてなのはが空虚になってしまうことがあると。
「え? あ、ごめん・・・・・・何?」
寝ぼけたようになのはが問い返す。
「ううん、ボーッとしてたから気になって」
フェイトは心から心配してそう言ったが、ブライトはいくらか疑念を持った。
さっきから何か不自然だ。
残ったパンを口に入れながら、ブライトはなのはの動向を窺うことにした。

 

 哭礼は喪に服する日であるため、アースラにはいつもの活気がない。
影が現れたという報告もなく、クルーの多くは自室で静かに時を過ごしていた。
フェイトも同じく、自室のベッドに身を埋めた。
彼女の場合は亡くなったクルーや、ツィラたちに哀悼の意を表した。
魔導師とムドラの和解のために払った犠牲はあまりにも多すぎた。
フェイトは今でもそう思っている。
局員の中には歴史上、これほど規模の大きな事件に死傷者が数えられる程度で収まったのは奇跡だと言う者もいる。
革命や発展には尊い犠牲はつきものだ。
彼らの言うとおり、過去の事例から比べれば今回喪われた命は少なかったかもしれない。
だがフェイトにはそういう理由で割り切れるだけの潔さがない。
たとえ1人でも、死んでしまっては犠牲には違いないのだ。
命の重みを嫌というほど分かっている彼女だからこそ、本心から追悼することができた。
「私がしっかりしなきゃ」
フェイトは呟いた。
ブライトには以前の力はないと言う。
影の正体を知っているのは彼とフェイトだけだ。
当然、フェイトの役割は重くなる。
哭礼の日は誰もが陰鬱な気持ちになる。
こういう時は影が万倍の力を得たように動き回る。
死者に哭し、悲しみ、悼み、そして決意を新たにしたフェイトに、黒い影が忍び寄った。
”私の声が聞こえるか?”
知らない声だ。
だがどこかで聞いた憶えもある。
「誰・・・・・・?」
フェイトは静かに問うた。
これが闇の声であることは分かっている。
”おそらくお前が探しているのが私だ”
「・・・・・・!?」
ブライトの言っていた”影の本体”だ。
フェイトは直感した。
だが姿が見えない。
彼女はバルディッシュを起動し、愛杖の力を借りることにした。
『”Particle Vision”』
音声とともにフェイトの中に、粒子で構成されたアースラが浮かび上がる。
フェイトは意識を集中させ、無数にある部屋のひとつを注視した。
彼女の部屋だ。
緑色の粒子が複雑に絡み合い、部屋を作り出している。
”ムダだ。お前に私を視ることはできない”
という言葉のとおり、フェイトには何も見えなかった。
正確には粒子の全てが見えているために、影となっている部分が見えない。
だが近くにいることだけはなぜか分かった。
「あなたの目的は何?」
先ほど、話し合いは無意味だとなのはに言った自分が、気がつくと闇との対話を試みている。
”答えは分かっているハズだ”
闇の声は冷たく、素っ気無い。
ソルシアやヒューゴは人格と感情を持っていたが、この”本体”と思われる闇にはそれらはないのか。
「全てを闇で覆うこと・・・・・・」
現れる闇がまるで呪文のように繰り返すこの言葉を、フェイトはもう記憶してしまっている。
”だがそれは私の本意ではない”
「・・・・・・ッ!?」
フェイトでなければ、あからさまな反応をしただろう。
彼女は質問攻めにしたい衝動を抑え、問いをまずひとつに絞った。
「どういうこと?」
”この世界に生きる者の生み出す闇が、今の私を作っている”
「・・・・・・・・・」
”闇が世界を覆うことを望んでいる者がいる”
「なっ――!?」
これにはさすがのフェイトも絶句した。
「じゃあ、あなたたちは・・・・・・」
闇が世界を覆うこと――。
これは闇が望んでいるのではなく、誰かが望んでいることだというのか。
”その者が存在し続けるかぎり、闇が消滅することはない”
信じられない。
これが本当だとすれば、自分たちはいったい何と戦ってきたのだろう。
「誰なの?」
そう訊くしかない。
その者を探し出し、負の感情を抱かせないように説得するか。
できなかったとしても、何らかの手を講じるべきだ。
闇を断つには、その発生の源を断つしかない。
だが――。
フェイトは重要なことを忘れていた。
そもそも闇が、シェイドの体から抜け出たものであるということを。
”聞いてお前はどうする? その者を――”
「説得する。それが無理なら――」
”倒せ”
影が刺すように言った。
フェイトは待った。
影はその者の名を告げるハズだ。
数秒が経った。
名を告げることに影が躊躇っているように思えた。
やがて影は、
”高町なのは、だ”
と言った。
フェイトは逃げ出したくなった。
が、そうすれば闇の勢いを助長させてしまう。
「ウソだっ!」
自分でも驚くほどの声で叫んでいた。
「なのはがそんなこと・・・・・・願うハズない!」
”最も近い者が、最も見えないこともある”
フェイトは影の声を聞いているが、受け容れてはいない。
指し示す名が、親しい者でなければ彼女は影の言葉を信じていたかもしれない。
影はなおも語る。
”彼女は力で全てをねじ伏せようとしている”
「ウソだッ!」
”思い出せ、彼女がこれまで辿ってきた道を”
影はそう言い、フェイトに考える時間を与えた。
しかしフェイトは従わない。
”彼女はこれまでも力でねじ伏せてきたではないか”
「それは違う。なのはは理解し合うために戦ってきただけだ」
”お前とも、か?”
影がはじめて笑った。
侮蔑を感じる笑声が、フェイトを惑わそうとする。
”お前は彼女に敗れ、今、ここにいる。しかし本当にそうか?”
意味深な言い方に、フェイトは影の言葉を反芻した。
「・・・・・・どういうこと?」
”お前は勝っていた”
これをどう解釈すればいいのだろう。
フェイトは思った。
影が言っているのは、おそらく海上でのなのはとの戦いのことだろう。
なのはが言ったように、最初で最後の本気の勝負だった。
あの戦いがあったからこそ、フェイトは新しい自分を始めることができ、なのはと親友になれた。
だが影は、
”お前は勝っていた”
と言う。
”彼女はお前が万全でないのを知りながら戦い、勝った。だが勝っていたのはお前だ”
「分からない・・・・・・」
”お前には使い魔がいる。使い魔の維持にはお前の魔力が必要だ。そのうえ――”
「・・・・・・・・・」
”母親からの叱責で疲弊していた”
影はここぞとばかりに畳みかける。
あえて難しい表現を用いたのは、フェイトを揺さぶる効果を増すためだ。
アルフという使い魔を維持するためには、ごく微量であるがフェイトの力を必要とする。
これは事実だ。
母・プレシアはフェイトに執拗なまでの折檻を繰り返してきた。
それによって身体的にも精神的にも相当なダメージを受けている。
これも事実だ。
影はこれらの足かせがなければ、フェイトはなのはに勝っていたと言う。
そうかも知れない、とフェイトは一瞬だけ思った。
しかし一瞬だけだ。
自分となのは、どちらが強いのかはどうでもよいことだ。
そもそも優劣をつけることに意味がない。
しかし――。
あの戦いでもし、フェイトが勝っていたら――。
今の自分は存在していただろうか?
なのはは? アルフは? 時空管理局は? プレシアは?
一体どうなっていただろうか。
そう考えると少しだけ怖くなる。
”彼女を倒せ。お前が成すべきは彼女を倒すことだ”
フェイトは影の真意に気付いた。
この影が”本体”であることを前提とすれば、『本体=シェイド』と考えればいい。
かつて魔導師を憎悪していたシェイドは、ムドラの復活のために何をしただろうか。
たしか彼は管理局を潰滅させるために、フェイトを誑(たぶら)かそうとした。
しかし失敗し、今度はなのはに目をつけた。
この目論見は成功し、なのはは一度、シェイドの腕となって管理局に立ちはだかった。
今、それと同じことが起こっている。
影は言葉巧みにフェイトを惑わし、なのはと戦わせようとしている。
「あなたの誘いには乗らない!」
フェイトが叫ぶと、影は消えた。
「・・・・・・・・・」
声が聞こえなくなったのを確かめたフェイトは、音を立てないように静かに立ち上がった。
ブライトに知らせなければならない。

 

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